第290話 東屋に障壁を掛けてユーイン氏を捕まえる
光魔法のオプチカルアナライズは光の反射で物質を分析する魔法だ。
物質に光をぶつけて、その反射を解析して、データーベースから物質名を引っ張ってくる。
データーベースはマリア様が組んで、どっかの魔法空間に収めてあるらしい。
あれよね、システム的にも前世の分析装置みたいよね。
これは二つ可能性がある。
マリアさまが私みたいな転生者だという可能性。
そして、もう一つは、過去の転生者がコカインを製造して、この世界に現存するという事。
うーん。
まあ、今考えても解らないな。
後で考えよう。
目の前のうさんくさいペテン師の事を考える方が先だ。
ポッティンジャー領から流れている麻薬は、覚醒剤とアヘンだけかと思ったけど、コカインルートもあるみたいだな。
これまでぜんぜん見えていない事を考えると希少価値を付与してあちこちの偉い人に送って籠絡してるのかな。
ロイドちゃんと直答できるぐらいだから、ユーイン氏は結構偉いひとだよな。
「マコトっち、どうしたの? 黙り込んで」
「ダルシー」
「はい、マコトさま」
私はダルシーが現れた瞬間に東屋を囲うように障壁をぐるりと張った。
よし、これで逃がさないぞ。
「どうなさいました、領袖?」
私は広範囲探知魔法を放った。
ビーーン。
林の奥に一名伏せている奴が居る。
一名か、なめてんな、ユーイン氏。
「ユーインさん、あなたコカインをやってますね」
「……」
ユーイン氏の目が見開かれて、左右を探った。
逃走ルートを探しているな。
「な、何を言われているのか、ち、ちっとも解りません、なんですかそれは?」
「コカイン、気分を高揚させるタイプの麻薬です。白い粉になっていて、鼻から吸います」
ユーイン氏は鼻を押さえた。
「麻薬ルートには乗っていない希少な麻薬です。あなた、ポッティンジャー派の誰かから寄贈されましたね」
「……」
ユーイン氏は黙って答えない。
「ロイド王子、ユーイン氏は『塔』でどれくらいの偉さですか?」
「さ、作戦課長だが、そんな、嘘だろうっ、ユーイン」
ユーイン氏が手を上げた。
林の奥からボウガンのボルトが飛来して障壁を砕いて落ちた。
「なっ!!」
「障壁ぐらいかけるよ、ユーインさん。見えない障壁で囲んだからね。逃げられないし、増援も来ないよ」
「リック! 刺客を捉えろっ!!」
「ええとっ」
リックさんが私を見た。
彼を出さないと。
「ダルシー、ユーイン氏を重くしなさいっ」
「かしこまりました」
ダルシーがキレの良いパンチを四発、連続でユーイン氏にたたき込んだ。
ガッ!
ゴッ!
ガガッ!!
「ぐあっ! な、なんだっ! 体がっ!」
ユーイン氏は床に崩れ落ちた。
押さえつけられたカエルみたいになっているな。
「リックさんが出たら、すぐ障壁を張り直します」
「了解っ! 聖女さんっ!」
私は手を振ると同時に、リックさんの前の障壁を解いた。
リックさんは兜をかぶって東屋の外に出た。
刺客は彼に任せておこう。
再び障壁を張り直す。
「障壁は見えないのが難だなあ」
「光でできてるからねえ」
リックさんは林の中に駆けて行く。
「拷問しますか?」
ヒルダさんが低い声で言った。
「どうします、ユーインさん」
ユーイン氏が歯を食いしばった。
バキっという音がした。
うめき声を上げて、芋虫のように彼はうごめいた。
「こいつっ! 毒を!」
「大丈夫よ。聖女候補の前で毒で自害出来るとでも思ってるのかしらね」
『アンチポイズン』
私の手の平からの緑色の光に照らされて、ユーイン氏の動きは止まった。
「さあ、教えて、誰があなたにコカインを渡したの?」
「や、やめろっ、言える訳が無いっ、お、俺は諜報員だぞ」
さてー、拷問しても良いんだけど、グロいのは嫌だなあ。
痛そうなのも苦手だ。
「領袖、回復魔法が使えるなら、こいつを瀕死のあたりまで責める事ができますね」
で、できるけどさあ。
ヒルダさんは無表情で怖い事を言うなあ。
「や、やめろ、やめろーっ!!」
ヒルダさんが懐からなんだかコワイ感じの道具を出して並べた。
「破壊しすぎを考えなくて良いから領袖と一緒だと楽ですね」
「えー、なに、このコワイ道具」
「携帯拷問具です」
マイ拷問具持ってんなよ、怖いなあ。
ヒルダさんが、なんかペンチのような奴を手に取ってうなずいた時、リックさんが血だるまの男を片手に持って障壁を叩いた。
「お客さんですぜ」
リックさんの後ろに、メガネをかけた目つきの悪い中年の女性が立っていた。
ロイドちゃんに向けて深々とお辞儀をする。
「『塔』の長官まで来たか」
「トップの人?」
「うん、コベット伯爵家のブレンダさんだ」
コベットさんは頭を上げた。
「ロイド王子、このたびはうちの部下が不調法をしたようで、『塔』として謝罪いたします」
「謝罪されてもね。聖女のマコトっちが気がつかなかったら、ユーインを信用して罠に掛かっていたかもしれない、その責任は取れるのかい?」
「今回の失態は言い訳できません。王都の麻薬事件が片づいたら、自害いたします、私の命でどうでしょうか?」
「いらないよ、そんなの」
ロイドちゃんは顔をしかめた。
ああもう、諜報系の人は命が軽いなあ。
それに、初対面だから、信用して良いか悪いか解らない。
ユーイン氏とぐるの可能性も考えられる。
「信用できないわね。諜報系の人は忠誠がどこにあるのか解らないわ」
ピッと、隠れてコベットさんをアナライズ。
麻薬の類いの反応は無いようね。
「マコトさま、ブレンダさまは信用出来ます」
「え、そうなの、ダルシー」
「はい」
「あら、ダルシー、別に庇ってくれなくても良いのに、前の借りは返して貰ってるわよ」
「マコト様の為です、ブレンダさまの為ではありません」
どうやら、知り合いのようだ。
前の借りって、ダルシーがやさぐれた原因の事件かな。
ダルシーが信用できる、というなら大丈夫だね。
「解ったわ、コベットさんを信用します。ダルシーのお墨付きなら大丈夫ね」
コベットさんは眉を上げた。
「ダルシー、あなたは、また良いご主人様をみつけたようね」
ダルシーは無表情で小さくうなずいた。
また?
ダルシーの前のご主人様も良い人だったのかな?
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