第28話 なんだかやばそうな雰囲気なので二階の窓から跳びおりるのだ
キンコーンカーンコーンと耳慣れた鐘がなり、午前の座学は終わった。
座学は良いよね、ラクチンであるよ。
あんまり気を抜くと、二年、三年でつまづくかと思ったけど、図書館で教科書を見た感じ、三年終わりまでの学科は習得している模様だね。
あとは復習すれば良いので、座学は勝ったも同然。
ハイスペックの脳がありがたいです。
うはははは。
あれ?
目の端に違和感を覚えて、窓の向こうを見る。
なんだ、あれ?
なにやってんの?
「マコト、お昼は、またひよこ堂? マコト?」
池の近くで、色とりどりのドレスの令嬢が……。
あ、誰か……、え、突き落とされた?
瞬間、誰が落ちたのか解って、頭のてっぺんから血がザアアアッと音を立てて引いていった。
「どうしたの、って、マコト? マコトなにするのっ!!」
「メリッサ嬢が池に突き落とされたっ! カロルは先生に知らせてきてっ!!」
「えっ! うんっ! って、危ないよっ!!」
カロルの悲鳴を無視して、私は二階の窓から飛び降りた。
びゅおおおおという風切音、みるみる近くなる地面。
結界障壁を体の下に発動。
バリン!
障壁が音を立てて砕け、落下の勢いが減る。
中庭の芝生の上で、衝撃を殺しながら猫のように一回転。
両足が地に着いた瞬間、足腰に身体強化魔法を掛けて、走り出す。
「おまえらぁあっ!! 何やってんだあああっ!!!!」
池の中のメリッサ嬢は泳げないのかあっぷあっぷしている。
華麗なドレスのご令嬢たちは、冷たい目をして、彼女を見て、嗤っていた。
誰も助けようとしていない。
「やっぱり来ましたわ、偽聖女」
「計画通りですわ」
「な、なにをなさって……?」
私はボタンを引きちぎる勢いで制服を脱ぎ捨て、靴を飛ばし、ドロワース一枚の姿で、池に飛び込んだ。
だっぽーん!
「つかまって、メリッサっ!」
「マ、マコトさまあっ」
学校の池だっていうのに結構深いな。
足がつかない。
「おちついて、人は浮くから」
「は、はいいっ」
メリッサ嬢は泣き顔をゆがめて答える。
抱きつかれると二人とも溺れるので、彼女の後ろ側から接近して、頭を支える。
「おちついて、ゆっくり息をしてっ」
「はあ、はあ、はあ」
メリッサ嬢を首を支えて岸に向けて水をかく。
色とりどりの令嬢たちが、にやにや笑いを浮かべながら、岸の前に立つ。
「そこをどきなさいっ!!」
「助けてさしあげますわ。でも手が滑るかもしれませんわね、おほほ」
いらっ!!
閃光12倍で全員失明させてやろうか、こいつら。
水中で結界障壁は生み出せるかな。
よし、できたっ。
水中で障壁を階段状に二枚作る。
メリッサ嬢をお姫様抱っこして、結界障壁を足場にして上り、上の段で身体強化ジャンプッ!!
頑丈そうな令嬢の肩を踏んで、さらにジャンプして、令嬢の群れを飛び越した。
「わ、わたくしを踏み台にしたんですのっ!」
はあはあ、無理した。
寒い。
胸に抱いたメリッサ嬢の体があったかい。
「おほほほ、そんな子を助けるために裸になって、とんだ野蛮人ですわねっ」
「淑女としての慎みはありませんの? 恥知らずですわっ」
「殿方の前で、すぐ裸になられるので、慣れているのではなくって?」
こいつら、全員、障壁で押し出して、池にぶち込んでやろうかな。
水の中で服を着てるのがどんなに危ないか解るだろうよ。
靴を突っかけるようにして履く。
服はメリッサ嬢を下ろさなきゃならないので無理か。
ブラをしてないので、おっぱい見えちゃう。
「マコトッ、って、おまえっ、うわあ」
カーチス兄ちゃんが走ってきて、ドロワース一枚の私の姿を見て、赤面してうろたえた。
目をそらしながら、こちらに上着をさし出してくる。
おお、カーチス兄ちゃん、紳士的で好感度高いぞ。
「たすかるよ」
「マコト、大丈夫?」
私の両手がメリッサ嬢でふさがってるのを見て、カロルがカーチスの上着をひったくり私の肩に掛けてくれた。
「こいつらが……、やったのか」
怒りの表情を浮かべて、エルマーがご令嬢の群れを睨んだ。
「そんなことは後でいいよ、今すぐメリッサさんを着替えさせないと、女子寮に行くから、ここは頼んでいい? カーチス」
「おう、任せておけ、早く行ってやれ」
メリッサ嬢は唇を紫にして、ぶるぶる震えている。
春といっても、まだまだ気温は低い。
いそいでお風呂に入れないと。
歩きだそうとした瞬間、ケビン第一王子がこちらにやってくるのが見えた。
「また、君か、マコト・キンボール嬢!!」
「……どいてくださいよ」
「何があったんだっ、話を聞くまではここを動くわけには……」
「どけって言ってんだよっ!! 聞きたい事があんなら、あそこで群れてるドレスどもにきけよっ!!」
「お、王子に、王族に、不敬で」
「ケビン王子っ! 行かせてやってください、マコトの腕の中の子が危ないっ」
カーチス兄ちゃんが助け船を出してくれた。
「あっ、そ、そうか、すまん」
ったく、お前の目は節穴かっ。
足腰に魔力を通して、身体強化で私は走り出した。
うう、カーチス兄ちゃんの上着は肩に掛かってるだけなので、落ちそうだ。
私はブラもしてないので、いろいろとまずい。
風が冷たいーっ。
行き交う生徒が、何事という顔でこちらを見てくるが、知らん。
羞恥プレイをしている時間はないんだよ。
どどど、と走って、女子寮に飛び込む。
ふう、ここなら半裸でも、ちょっと大丈夫。
「マコト様、マコト様~」
メリッサ嬢は、エソエソ泣いている。
「泣かないで、もう、大丈夫よ」
階段を降りて、大浴場に向かう。
24時間つかえるお風呂で助かったよ。
途中、洗濯室に寄る。
「ま、まあ、どうしたんだい?」
「池に落ちました、替えの服、なにかありませんか?」
「あんたのだったら下着が上がってるけどねえ」
あ、下着は助かるな。
手首に袋を引っかけてもらった。
「お嬢様っ、お嬢様、ど、どうしたんだい、マコト?」
「カリーナさん、よかった、メリッサ様の替えの服を」
「ああ、ああ、解った、今すぐ取ってくるよ、でも、どうして」
「池に落とされたみたいです。詳しいことは私もわかりません」
「なんだねえ、なんだねえ、お嬢様が何をしたっていうんだい、どうして池になんか落とされないといけないんだい?」
「わ、私が悪いの、カリーナ。私がマコト様のお名前を出して、出しゃばった事を言ったから、おねえさまたちが怒って」
くそっ、しまったなあ。
ポッティンジャー公爵派閥の頭の悪さを解っていなかった。
そこまでする下劣な馬鹿ぞろいだったのか。
メリッサ嬢をあおった、私の責任だ。
「詳しいことは、お風呂で聞くわ、カリーナさん、おねがいします」
「わかったよ、あんたが助けてくれたんだね、ありがとうよ、マコト」
カリーナさんも涙をぽろぽろこぼしていた。
ちくしょう、ゆるさんぞ、ポッティンジャー公爵派閥の馬鹿令嬢ども。
かならず報復して、ざまあしてやるっ。
メリッサ嬢を脱衣場へ抱えて運んだ。
「立てる?」
「はい、ありがとうございました、マコト様、マコト様は私の命の恩人ですわ」
「いや、たいしたことしてないよ、へーきへーき」
「裸になってまで池に飛び込んで助けてくれて、ほ、本当に、う、嬉しくて」
メリッサ嬢は、またぼろぼろ涙をこぼした。
「いいよ、気にしない。さ、お風呂に入ろう」
「……あの」
「ん?」
「ふ、服を脱がして、いただきたく……」
あー、あー。
本物のお嬢様は服の脱ぎ着も出来ないんだったー。
全部メイド任せなのよね。
生活力が無さすぎだ、令嬢の本物は。
「マコト様に、メイドのまねごとをさせてしまうのは、は、恥ずかしくて、心苦しいのですが……」
「ま、まかせて」
と言っても、ドレス系は脱がすの大変なんだよなあ。
背中のクロスしている紐を解いて、ああ、水で濡れててほどきにくいっ。
なんで、制服着てないかなあ。
ひい、カリーナさん早く来てくれーっ。
なんとか試行錯誤して、濡れたドレスを脱がしまして、メリッサ嬢は、現在すっぽんぽんです。
私もドロワースを脱いで、すっぽんぽんです。
「マコト様、お綺麗……」
やめて、私の体を、じろじろ見ないで。
「さ、お風呂に入って、さっぱりしましょう」
「は、はい、その、しょ、初夜ってこんな感じなのでしょうね。きゃっ、私ったらっ」
うん、いつもの調子が出てきたね。
よかったよかった。
体にかけ湯をして、湯船に入る。
お昼休みの時間だから、私たちの貸し切りであるよ。
ふわー、あったまる。
メリッサ嬢の表情もゆるんだ。
よしよし。
お風呂は人生のオアシスだね。
辛いことも、悲しいことも、みんな、お湯に流して忘れてしまおうよ。




