第286話 カーチス兄ちゃんのお勧めのお店は『肉ハウス』
私の席の周りにわやわやと人が集まる。
なんでケビン王子とジェラルドまで平気な顔で来てるかな。
たまには遠慮……。
「今日は木曜日よね、ビビアンさまは良いの?」
「……」
「……」
そんな悲しそうな顔をせんでも。
ビビアンさまと会食してこいよ。
そういや、火曜日もこっちにいたな、おまえら。
メリッサさんちの領地の美味しい牛のワイン煮を食べた日だ。
「い、行ってくる、火曜日はビビアンが放課後、怒鳴り込んできて大変だった」
「ポッティンジャー派閥との会食は、あまり楽しくは無いのだよ、キンボール」
「仕事みたいなもんだろ、行ってこい」
「キンボールさんは厳しい」
「あきらめて行きましょう、ケビン王子」
「わ、わかった……」
ケビン王子とジェラルドは行ってしまった。
だが、ロイド王子はジュリエットさんの隣にちんとすまして立っている。
「ロイド王子は、派閥とか無いの?」
「僕は人望がない」
それは悲しい。
「ロイド王子はもてるから派閥とかいらないんです~~、そのかわり、私が愛してるからなんにも寂しくないですよねえ~~、ロイド王子」
ジュリエットさんがロイド王子の手をとって恋人つなぎをした。
「そう、だね、ははは」
本当はケビン王子がいるから、遊んで変な貴族が寄ってこないようにしてるんだろうなあ。
いや、女癖が悪いのは本当だろうけど。
「で、どこに行くんだ? 今日は」
「どこ行こうかね、だれか美味しいお店しらない?」
「わりと美味しいお店が続いたわね、さすがは食の都なだけはあるわ」
「よし、じゃあ、俺の領の店に行こう」
「何が特産なの? ブロウライト領は?」
「肉だ、肉!」
昼から肉かよう。
まあ、良いか。
「カロルのオルブライト領の近くよね?」
「西の奥にあるわ、アップルトンの西部地方ね、牧畜が盛んなのよ」
カロルの領が錬金が特産、メリッサさんの領はワインが特産、で、カーチス兄ちゃんの領が肉か。
地方によって色々な特産物があるんだなあ。
我々はカーチス兄ちゃんを先頭に歩き出した。
しかし、辺境伯が行きつけのお店って、ランチやってるのかね。
たかかったらやだなあ。
「ロイド王子、放課後の『塔』との面会は一緒に出ますよ」
「そうか、ありがたい」
「向こうが学園に来るんですよね」
「そうだとも、王族がわざわざグラーク塔なんかには行かない」
グラーク塔に入ると色々グロい物見そうだしね。
偉い人の行く所ではないな。
階段を降りて、ヒルダさんとライアン君と合流し、校舎の出入り口でゆりゆり先輩と合流であるよ。
「今日は肉だ、肉! わがブロウライト領自慢の牛肉を食べさせよう」
「肉ですか」
「ヒルダ先輩は細すぎるから、もっと食べるべきだと俺は思う!」
「はあ、そうですか」
カーチス兄ちゃん、張り切ってるなあ。
王都大通りをずんずん行く。
ひよこ堂を通り過ぎ、大神殿の前をゆく。
子供たちがめざとく私を見つけて全身をつかって手を振ってくる。
私もふりかえす。
「マコトは子供が好きね」
「子供は可愛いからね、学園に来る前はだいたい孤児院で一緒に遊んでたよ」
「やさしいわね」
いや、奴らは元気いっぱいだから一緒に暴れると楽しいからなのだ。
あんまり慈悲の心とか関係がないよ。
大神殿を過ぎると繁華街になる。
劇場とか、美術館とかあるあたりだね。
買い物通りはここで東に折れるのだが、カーチス兄ちゃんは直進する。
肉の店はどこにあるのだ?
お堀端を歩く。
堀越にアップルトン城を見るのはいいなあ。
優美なお城であるよ。
エーミールを倒した時計塔あたりで、東の道に入った。
ここらへんも飲み屋街だな。
しばらく行くとカーチス兄ちゃんの歩みが止まった。
「ここだっ!」
大衆酒場だなあ。
ああ、ブロウライト領直送の最高級牛肉と書いてある。
お昼はステーキランチをやってるようだ。
お値段もほどほどであった。
よかったよかった。
だが、名前がちょっと。
『肉ハウス』は無いだろう。
「なんでこんなお店しってるの?」
「ん、それは、まあ、時々来ているからな」
「夜に寮を抜け出してる生徒ってあんたじゃないでしょうね」
「俺には王都の美味い店や、おいしい飲み屋を開拓する責務があるのだ」
「やめときなさいね、停学になるよ」
「停学が怖くて冒険者になれるかっ」
やめろよう。
お店の人が、カーチス兄ちゃんを見つけて寄って来た。
「これはこれは、殿下、いらっしゃいませ、ランチですか?」
「うむ、この前の肉が美味しかったので、派閥の皆を連れてきた、個室はあいているか?」
「はい、何人ほどでございましょう?」
「十五人だけど、大丈夫ですか」
「問題ありませんよ、学園から遠いのにありがとうございます、どうぞどうぞ」
下町の丼屋さんが今のところ一番遠いかな。
肉ハウスはそんなでも無いよ。
お店の中に入ると、沢山の人がお肉を食べていた。
テーブルに隣接されたバーベキューの焼き網で調理して熱々のまま鉄皿に入れてくれるっぽい。
なんだかワイルドなお店だなあ。
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