第284話 登校前にジャンキーたちが攻めてきたぞっ
おっ、と声を上げて目を覚ました。
朝である。
なんか夢を見ていた感じだけど、良く覚えて無いな。
なんだろうなんだろう。
ちょっと不安な感じ。
出勤するメイドさん二人を見送って、顔を洗ったり歯をみがいたり用をたしたりしていると、ダルシーがテーブルにお茶を入れてくれた。
「ありがとうダルシー」
「いえいえ」
コリンナちゃんと差し向かいでお茶を飲む。
うん、今日も美味しいな。
「木曜日、今日の予定は?」
「放課後にロイド王子の付き添いで『塔』の奴と会う。ぐらいかな」
「ついに『塔』まで出てきた、マコトの知り合いはどこまで増えるのか。次は帝国の皇子とかきそうだな」
「それはない、と、思う」
もう、ゲーム内の流れと相当変わってるから、もう先読みができないな。
プリシラ嬢をてなづけたら、攻略対象者絡みのもめ事はだいたい終わりか。
あ、あと隠しキャラの毒殺執事のルートがあるな。
あれも、いろいろ面倒くさいキャラだ。
お茶を飲み終わったので鞄を持って205号室を出る。
コリンナちゃんと一緒にバタバタと小走りで階段を降りる。
雲が出てるけど、今日も良い天気そうだね。
エレベーターホールで皆待っていた。
おはようおはよう。
最後にエレベーターで降りてきたカロルに挨拶をして、食堂に入る。
クララに挨拶をして、塩ポリッジを頼む。
今日の副食はハムエッグ。
卵の焼ける良い匂いがする。
ハムエッグ大好き。
塩ポリッジをトレイに乗せて、お茶をくみ席につく。
みんなもそれぞれにポリッジを持って席に付いていく。
「ジュリちゃんは上級貴族食にもできるのに」
「みんなと同じポリッジを食べると美味しくて楽しいですの~~。食堂に来て初めてポリッジを食べましたけど、美味しくてお気に入りですわ。夏休みまでにこの味をおぼえなさいね、クレア」
「はい、かしこまりました。後日、厨房の人に作り方を教えてもらいます」
「そんなに難しくないわよ、クレアさんならすぐ覚えると思うわ」
コリンナちゃんがこちらを向いた。
「うん、見てたら意外に簡単だった。美味しく作るのは大変そうだけど」
「コリンナも作れるのね、くやしいわ、私も覚えようかな」
「作れるというか、カップ1のミルクか、鳥スープで押し麦を煮るだけだよ、カロル。美味しく作るには大変そうだけどね」
意外とレシピは簡単なんだよね。
でも、美味しく作るには、微妙な塩梅とか、タイミングがあって、結構繊細であるよ。
そのなかでもイルダさんの作るポリッジは、なんだか別物というぐらい美味しい。
お料理の天才だよなあ。
「カロルはお料理できるの?」
彼女はうっと詰まって下を向いた。
「アンヌが全部やってくれてます。何も作れないわね」
「でもパンの時はきっちり作ってたから、大丈夫よ」
錬金も料理みたいな物だから、きっと覚えればカロルも美味しいお料理が作れそうだなあ。
朝ご飯が終わったので、食器を返却口に返してみんなで登校である。
「マコト・キンボールッ!!」
そして、校舎の前に仁王立ちしたパターソンさんが待ち構えていた。
その後ろには屈強なゴリラみたいな三年生男子が二人いた。
「お前のおかげでポッティンジャー派閥を追放されたわっ、でも大丈夫、これで条約とか考えずに、お前を懲らしめられるわっ!!」
目の瞳孔が散大しまくっておる。
朝から薬をキメまくって殴り込みかよっ。
「それはこっちにも言えるんだけど」
「なによっ! 女の子ばっかりじゃないっ!! あんたたちなんか怖く無いわよ~~っ!! あはっ、あははははははっ!!」
ジャンキーのハイテンションに付き合ってられないな。
私が一歩前に出ると、カトレアさんと、コイシちゃん、エルザさんがさらに前に出た。
三人は一斉に聖剣と魔剣を抜く。
「へっ、ひひっ! そんな剣を出してもコワイもんかようっ!!」
「たかが女子に、俺らが負けっかよっ、カカカカカッ!!」
二人のゴリラ三年生男子の目も瞳孔が散大している。
朝から何してるんだろうかこいつら。
彼らは腰に下げたメイスを手に取った。
メイスってのは、あれだ、鉄で出来た棍棒ね。
リックさんが使ってたやつ。
甲冑相手には剣よりも打撃が効くので愛用している騎士も多い。
「あいつら殺していいか? マコト」
「殺しちゃだめ、でも、致命傷以下なら良いわ、手足が飛んでも治す」
「了解みょんっ」
「わかりましたわ」
三人が怪我をしないといいなあ。
と、思ったらさらにヒルダさんがその前に出てきた。
「わたしがやりますわ」
「ヒルダさん戦えるの?」
「お任せください」
「ず、ずるいぞ、ヒルダ先輩っ」
「うちらがやるみょんよう」
「学校内で剣を振り回すのは校則違反ですよ」
「「ぐっ」」
ヒルダさんはゆるゆると前に出た。
彼女は昔は真っ黒なドレス姿だったけど、最近はみなと一緒の制服に着替えている。
まあ、それでも超美人だから凄く目立つんだよね。
彼女はひゅっと音を立てて両手を振った。
「ぎゃっ!!」
「ぐあっ!!」
ゴリラ三年生二人がメイスを取り落とし徐々にかがんでいく。
パターソンさんが、目を丸くしてゴリラ二人を見ている。
「な、何をしたのっ!!」
「わたしの二つ名を言ってみなさい、アントニア・パターソン」
「ど、毒蜘蛛、令嬢!!」
その間にも、ゴリラ三年生はうめき声をあげながらどんどんかがみ込み丸くなって地面に座り込んだ。
「糸よ」
「ぎゃあああっっ!!!」
パターソンさんも悲鳴を上げてかがみ込む。
どうやら見えないぐらい細い糸を巻き付けて体を絞り上げているっぽい。
「どうします? バラバラにしてやる事もできますが」
「やめろよう、ヒルダ先輩は凶悪だなあ」
私は馬鹿三人に近づき、ばんばんばんと頭をはたいた。
『キュアオール』
『キュアオール』
『キュアオール』
よし、良い具合に瞳孔が収縮した。
「ねえ、なんで昨日、薬飛ばしてあげたのに、朝からキメてるかな」
「薬はわたしの権利なのよっ!! なんでお前が勝手に私の事業を邪魔するんだっ!! ふざけっ……、ぎゃああああっ!!」
「やめれ、ヒルダ先輩」
「あら、つい、うっかり」
ちがう、わざとだ。
んもうっ。
「ほ、ほどいてくれえ、もう、やめるから、なっ」
「お、おう、もうパターソンの馬鹿の話は聞かないから、いいだろう?」
「残念ね、三年になったというのに、放校だわ、お気の毒ね」
「な、なんだよ、まだ何もしてないだろうっ!!」
「ゆるしてくれようっ!!」
うるせえ、見苦しいゴリラめ。
「どうしたのかね」
お、学園長が来た。
最近学校内をうろついてるな。
膝が治ったからか。
私は学園長に事情を話して、三人の身柄を預けた。
三人は哀れにも警備騎士に連行されていった。
しかし、私の隣でつんと澄ましているヒルダ先輩の武器は糸かあ。
暗闘の家っぽくて格好いいな。
学校内とか夜会では剣よりも使いやすそうだね。
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