第281話 毎日美味しい晩餐に感謝の念が湧く
お風呂を終えて脱衣所でダルシーに髪を乾かしてもらう。
ふー、良い気持ち。
だいぶドライヤーを使っている令嬢さんが多くなってきた。
作動音がブーブーいってるぞ。
「ヒルダさん、パターソン嬢の言っていた夜会での融通とはなんでしょうかね?」
私の隣でヒルダさんはシャーリーさんに赤いドライヤーで髪を乾かして貰っていた。
「彼女は自主的に夜会の企画をする者なのです、派手なパーティで人気がありましてね。二年生三年生はその招待券が欲しい人間が多いのです」
パー券が欲しいのか。
どこの世界でも陽キャのやることは変わらないなあ。
事業とか言っていたから結構お金を稼いでるんだろう。
売人なんかしてないで、真面目に企画屋をやってれば良かったのに。
ダルシーの乾かしてくれた髪を両手でしゃっしゃとやって広げる。
ああ、良い手触りだなあ。
「パターソンの情報は晩餐後に詳しくお知らせします」
「まだ、調べ中なの?」
「はい、雑魚と思ってそれほど深く調査しておりませんでしたが、領袖への挑戦はゆるせません。奴は丸裸にして破滅させてやります」
「ほ、ほどほどにね」
ヒルダさんは頭を下げて先に大浴場を出ていった。
馬鹿な挑発のせいでマーラー家を本気にさせおった。
これから大変だぞ、パターソン嬢。
「それじゃ、また後でねマコト」
「うん、またね」
カロルが手をふって大浴場を出て行った。
聖女の湯の時はカロルと一緒にお風呂に入れるので嬉しい。
裸も見られるし。
うしし。
さて、私も205号室へ行こうかな。
コリンナちゃんは、まだお風呂みたいだし。
なにしろ混んでたからなあ、聖女派閥の構成員が出る時間も色々になったよ。
二階に上がり、205号室に入ると机の上に簡易ドライヤーの束があった。
『届いてたから受け取っておいたわよ。 マルゴット』
ありがてえありがてえ。
二十枚はあるから欲しいと言われた時に売れるね。
収納袋に入れておこう。
ベットに上がって本を読んでいたら、コリンナちゃんが戻ってきた。
「おかえりー」
「いやあ、もう混んでたなー」
「そうよねえ、あの混み方はない」
「月曜日も混むかな?」
「聖女の湯解放戦線の子が、聖女の湯は一時間馴染ませないと効果が薄いってデマを流してくれるそうだけど、どうかしらね」
「そりゃいいや、なんか凄くもっともらしい」
デマはもっともらしいのが良いよね。
コリンナちゃんは机に向かって勉強しているようだ。
勉強熱心だね。
しかし、しまったな。
読む本が尽きた。
放課後、図書館でガドラガ大迷宮のガイドブック借りてくるんだった。
しょうが無いから魔法陣の初歩の本を読んでるのだけど、あまり面白くなーい。
魔導具作家になるのは厳しそうだなあ。
この世界はスマホもパソコンも無いからなあ。
パソコンあればアニメとか漫画とか楽しめるのに。
ぐぬぬ。
「マコト、晩餐にいこうぜ」
「おろ、もうそんな時間」
難しい魔法陣の本と脳内格闘してベットの上でぐねぐねしていたら時間がたったようだ。
ハシゴを下りて、コリンナちゃんと一緒に部屋を出る。
何時ものエレベーターホールには聖女派閥の面々が待っていて、挨拶をして一緒に食堂に入る。
「クララ、パンの売り上げの方はどう?」
カウンターにいるクララに声をかけてみた。
「売れた売れた、結構好評でさ。売れ残りのお菓子なんかは午後のお茶の時間にはけたし」
「よかったね。毎日お昼のワゴン売りするの?」
「曜日を決めてやろうかと思ってるよ」
「そうなんだ、売る日の朝に教えてよ」
「売る日の朝に看板を出しておけばいい、小さいの」
コリンナちゃんがナイスアイデアを出した。
「それ良いわね、ありがとう、コリンナさま」
「いや、たいしたアイデアでもないよ」
珍しくコリンナちゃんが照れてるのを見れた。
かわいいのう。
「なにニヤニヤしてんだよっ、マコトめっ」
ポカッ。
いたっ、もう、叩く事無いでしょ、コリンナちゃん。
にまにま。
カウンターにトレイを滑らせて今日の晩餐をのせていく。
今日のメニューは、チキンのソテー、ジャガイモのポタージュスープ、コールスローサラダ、黒パンであった。
チキンの上には赤いトマトソースがかかっていて美味しいそうな匂いがする。
イルダさんの晩餐ならば美味しさはお墨付きだね。
席についてみんなを待つ。
カロルが隣の席についた。
「夜にお風呂の水質検査するから忘れないでね」
「あっ、わ、忘れてない忘れてない」
「忘れてたな、仕方がない、私もついていくよ」
「コリンナが居れば安心ね」
「なんだよう、信頼ないなあ」
「「一度ねすごしたし」」
声を揃えて追求しなくてもいいじゃんかよう。
お風呂の最後の人が終わるのは九時頃かな。
忘れて寝ないようにしなくては。
「いただきます」
「「「「「女神さまに日々の糧の感謝を」」」」」
ぱくり。
ふおおおおっ!
チキン美味しい~~っ!!
ジューシーで酸味のあるトマトソースに良く合う。
うましうまし。
「今日も美味しいわね」
「毎日美味しい物を食べて、お友達と楽しくすごせて、私は幸せだなあ」
「本当にもう、マコトは……。こっちこそ感謝したいわ、いつも幸せを分けてもらってるわ」
テーブルについたみんなが笑顔でうんうんとうなずいていた。
「そ、そんな事ないでしょ」
もう、派閥のみんなは身内びいきなんだから。
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