第272話 脱衣室で簡易型ドライヤーを売りまくる
お風呂である。
カポーン。
今日は入浴剤が入って無いから普通のお湯である。
はあ、普通の湯でも、あたたまるねえ。
じんわりじんわり。
ダルシーにちゃっちゃと体を洗われて、お湯に入り直し、浴室から出るよ。
ブイーーンとダルシーにドライヤーをかけてもらう。
見ればあちこちにドライヤーをかけて貰っている娘さんや、自分でかけている娘さんがいるね。
流行の先端を行ってるからか、ドライヤーを使ってるご令嬢の表情は少しドヤ顔であるな。
うんうん。
髪も乾き、下着もご一新でさっぱりして制服を着る。
コリンナちゃんが簡易型で髪を乾かしていた。
「どうよ?」
「乾くね、簡易型でも快適だよ」
近くの半裸のご令嬢が振り返った。
「あの、その簡易型ドライヤーはどこで売ってらっしゃるのかしら」
「魔法塔が大本だから、大きな魔導具店に置いてあるんじゃないかな?」
詳しくは知らないけど。
「私、噂を聞いて、今日、街にでて探して見たのですけれども、どのお店も売り切れでございますの、次回の入荷も解らなくて。わが家は法衣貴族の男爵家でございますので、正式ドライヤーを手に入れるお金など無くて……」
「今、金貨一枚ある?」
「はい? ドライヤーをあがなおうと思ったお金はございますけれど」
法衣男爵家のご令嬢に、サーヴィス先生から貰った簡易型のドライヤーを、収納袋から差し出した。
「まっ、まああああっ!!」
「お代金は一万ドランクです」
「まああっ! お店では二万ドランクで売られてましたわ、お願いします、売ってくださいましっ!」
「ええ、良いですよ」
ダルシーが金貨を受け取り、派閥財布に入れた。
「ありがとうございます、ありがとうございますっ!」
法衣男爵さんは簡易ドライヤーを抱きかかえるようにして頭を下げた。
なんのなんの。
気にしない。
と、脱衣所のご令嬢たちの目がギラリと光った。
「わ、わたくしにも売ってくださいませっ」
「ああ、お金がないわ、今、部屋からとってまいりますので、お待ちになってっ」
「私も探しておりましたの、こんな所で手に入るとは思いませんでしたわ」
わあ、列が出来たよ。
なんかしまった。
その時、脱衣所にいたご令嬢さんたちに簡易型ドライヤーが飛ぶように売れた。
十五枚売れた。
あと十五枚しかない。
増産をサーヴィス先生に頼んでおこうかなあ。
すぐ、売り切れるな、これ。
「売れるなあ、簡易型」
「在庫を持っていた方が良さそうだね」
「鉄は熱いうちに打てだ。サーヴィス先生に商品を少し回してもらおう」
「初日で売り切れたのかあ、流行りそうだね」
「やっぱり温風で乾かすと気持ちが良いし、早く乾くから楽だね」
この世界のご婦人は、みんな髪が長いから、乾くまで大変なんだよね。
需要はすごく高そうだね。
コリンナちゃんは簡易型ドライヤーを平たくしてたたんでポケットに入れた。
小さくなるのもいいねえ。
派閥のみんなに手を振って地下大浴場を出る。
パタパタと階段を上がっていく。
さて、晩餐まで読書でもするかな。
ガドラガ大迷宮のガイドブックも読みたいなあ。
明日借りてくるか。
205号室の鍵を開けて中に入る。
さて、先にサーヴィス先生に商品を回してもらうために手紙を書くかな。
先生が学校に来るまで待つと来週の月曜になっちゃうし。
サーヴィス先生へ、簡易型ドライヤーを学園へ回せるだけ下さい、と手紙に書いた。
「ダルシー」
「はい、マコト様」
「これをサーヴィス先生に持って行って」
「はい、ご自宅の住所は解りますか?」
「あ、そうかー、魔法塔に届けておいてくれるかな」
「わかりました、行って参ります」
「遠くてごめんね」
「いえ、跳べばそれほど時間はかかりませんので」
ダルシーは目標まで一直線に跳べるから早いのか、助かるね。
ぺこりと頭を下げて、ダルシーは窓を開いて空に跳んでいった。
「便利だなあ、ダルシー」
「本当に助かるよねえ、良い子だし」
コリンナちゃんは何かの帳簿に数値を書いて、アバカスで検算していた。
簡易ドライヤーの売り上げ伝票かな。
カチカチとリズミカルなアバカスの音が気持ちいい。
私はハシゴを登ってベットに横たわり、収納袋から本を出した。
ホルボス山ダンジョンのガイドだね。
小さめのダンジョンなので、結構細かいフロア地図がある。
罠はあまりないそうだ。
エルマーの棒の出番は無さそうだね。
日曜日が楽しみだなあ。
あっと、カーチス兄ちゃんに馬車が出せるか聞かないと。
ホルボス山まで馬車で一時間ぐらいか。
男爵家から早朝に帰って、学園前でみんなと合流しようかな。
飛空艇が見つかったら、それで学園まで飛ぼう。
初飛行だな。
ふーふふっ。
まあ、蒼穹の覇者号が壊れてなければだけどね。
壊れていたら修理かあ、お金が掛かりそうだなあ。
そうすると、ドレスが運べないか。
うむむ。
稼働状態で保存されているのを祈るしかないなあ。
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