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第26話 カロルにおねだりをするが逆襲されるのだ

 幼女メイドさんが、よちよちとお茶のワゴンを押してきた。


「さあ、ここからは無粋なお話はおしまいですわ。楽しいお話をしましょう」

「そうですね……」


 幼女メイドはよちよちとお茶とお茶菓子を配った。

 もう、真面目な話は終わりという合図なんだろうな。


 ……なぜ、ゆりゆり先輩は、幼女メイドを抱き上げて膝に乗せる?


「ミーシャは私の愛玩物ですので、お気になさらずに」


 気にするなと、いわれても……。

 こ、こいつ、幼女メイドのお尻なでてるで、おまわりさーん、おまわりさーん!!

 だれか、いますぐ日本の警察官を連れてきてくださいっ。

 うわー、なんかゆりゆり先輩を見直してすっごい損したーっ!

 この人はやはりアカン人やーっ!


 カロルも表情がごっそり抜け落ちておる。

 公爵令嬢さまに汚物を見る目を向けている。


「それで、マコトさまと、カロリーヌさまは、どこまでお進みになったんですの?」


 うわ、直球質問きたーっ。


「いや、その、私たちは、そういうのじゃないので」

「マ、マコトとは良い友人で、恋とかでは、ないんです」

「まあ、可愛らしい事。ほほほ、恋は、ガチならガチなほど、始まりは強い否定から始まるのですわ。素敵ですわ尊いですわー」


 えー。

 カロルと顔を見合わせた。

 恋、じゃないよ、ねえ?

 断言はできないけど。

 友情の強いやつだよね。

 カロルの生足舐めたいけど、友情の範囲だよね。

 大丈夫大丈夫。


 ゆりゆり先輩に、女子寮であった、いろんな話を聞く。

 部屋中を巻き込む大げんかとか、愛憎による刃物による傷害事件なんかもあったそうだ。

 異世界のご令嬢は血の気が多いな。

 婚約者を取られた、取った、あたりは解るのだが、おねえさまの取り合いで殺し合いはやばい気がするな。


 ゆりゆり先輩はお話が上手いので、聞き入ってしまうね。


「ところで、マコトさま、こういう物にご興味は無くって? 手配できましてよ」


 ゆりゆり先輩が小声で何かの袋を渡してきた。


 ……。

 …………。

 ………………!


 えっちなお道具やないかいーっ!!

 ローターとか、張り形とか、うわー、前世でもこういう物は見たことないのにーっ。

 えー、魔力を入れてつかうのこれ?

 おお、スイッチは魔力ー!

 ファンタジーやーっ。

 わわ、振動がっ、けっこう強い。

 うわーうわーうわー。

 素材はプラスティックじゃないよね、何で出来てるの、なんだかすべすべ。

 へーへーへー。


「ア、アップルビー様、マコトに変な物を見せないでください、この子は何でも興味をしめしてしまいますので教育に良くありませんっ」


 カロルは私のおかんですかよ。


「これは、肩こりの取れる振動治療器具ですのよっ、決していかがわしい目的で使われる物ではありませんの、配達の時は馬車の部品の品名で送られてきますし」


 うー、頬が熱い。

 私はぎりぎりの自制心を出して、アレなお道具の袋をゆりゆり先輩の方へ押し戻した。


「ま、まだ、その、私たちには、まだ早いと思うのです。か、肩こりとかしませんしっ」

「おほほ、それは失礼いたしましたわ」


 カロルの私を見る目が冷たい。

 こわーい。


 なんだか、いたたまれない雰囲気になったので、名残惜しいけど、おいとますることにした。

 幼女メイドさんに、お土産の高級クッキーの詰め合わせを渡す。


「わあ、ひよこどうのクッキーですね、ありがとうございます」

「……ミーシャさんって、何歳?」


 ちょっと小声で聞いて見た。

 六歳とか言われたら、この足で一階の護衛女騎士ドミトリーガードの詰め所に駆け込んでやる。

 ミーシャさんは、ちろりと私の顔を見て、耳を貸せというジェスチャーをして、


「あたいは二十三歳だから、気にしないで大丈夫だよ。心配してくれてあんがとね」


 と、小声で耳打ちしてくれた。

 ああ、あどけないしゃべり方も、幼女のロールプレイでしたか、よかったよかった。

 ほっとしたよ、ガチ百合にもてあそばれる、可哀想なロリは居なかったんや。


「いつでもいらっしゃってくださいましね。歓迎いたしますわ。あと、マコト様、これを」


 ゆりゆり先輩は、なんか店名と住所が書いてあるメモをくれた。


「馬車の部品のお店ですわ」

「い、いりませんようっ」


 そう言って、私は制服のポケットにメモをつっこんだ。

 い、いや、ほら、屋上に羊皮紙の切れ端を捨てると悪いしっ。


 カロルが、心底あきれたという冷たい目で私を見てくるんだ。

 なんだよう、なんだよう。


 ゆりゆり先輩は、なんか粘ついた目で微笑みながら私たちを見ている。

 私は知っている、あれは、我ら腐女子がホモカップルを鑑賞する目だ。

 くそうくそう、ユリユリ先輩は方向が男女逆だが、私らと同類だ。

 業の深い、変態という名の淑女の目だ。


 ペントハウスを後にする。


 アンヌさんがエレベーターのスイッチを押した。

 ドアが開く。

 エレベーターに乗り込み、ゆりゆり先輩と、ミーシャさんに小さく手を振る。

 ドアが閉まった。


「アンヌ、二階へ」


 アンヌさんが階層レバーをガチャコンと下げた。

 カ、カロルさん、あなたのお住まいは五階でしょうっ。


「え、え、なんで、カロルなんで?」

「なんでも」


 あえいいい。


 降下していくエレベーター内に沈黙の帳が落ちた。

 気まずい。

 というか、私から、あのメモを取り上げるつもりだなあっ。

 だ、だめだ、ちょっとお店に、偵察に行って、ええと、一番安くて小さい奴を、その、ええと、そう、資料として買うんだから。

 資料です、資料、光魔法のヒールと、小さいのの振動で肩こりの治りがどれだけ違うかをですね、こっそり実験するんですよ。

 変なところに当てる気は、ちょっとしかありませんよ。

 うん。


 チーン。

 エレベーターが二階に着いた。

 ドアが開く。

 ダッシュで逃げるっ!


「アンヌ、捕まえて」

「はい」


 ひっ、高速移動してきたアンヌさんに肩をがっちりつかまれたよ。

 エレベーター番の女騎士さんに変な目で見られながら、私はアンヌさんに肩をギリギリ握られながら歩かされる。

 アンヌさんの握力が強い。

 勝てる気がしませんよ。


「マコト、メモを出しなさい」

「やっ」

「怒るよ」


 怒ってるじゃーんっ、もう怒ってるじゃーん。


「や、やめろうっ」


 わわ、カロルがポケットをまさぐってくる。

 こしょばいっ。


「ああいう物はね、腕の立たない錬金術師が片手間に作るものだから不潔なの、大事な所が病気になっちゃうから、絶対駄目だよ」

「ああいう物って、錬金術師が作るんだ」

「魔導具制作は錬金術師の縄張りよ」

「じゃあ、カロル製のああいう物、あるの?」

「なな、何言ってるの、な、無いわよ、ねっ、アンヌ」


 アンヌさんが黙って目をそらした。

 ああ、これはあるね。

 絶対にあるね。


「ずるいっ、カロル、自分だけっ」

「ず、ずるいって言われても、その、仕事で試しに作っただけで、つ、使ってないしー」

「ちょうだいちょうだい、カロル製のああいう物、安全安心清潔で問題なしー、ちょうだいちょうだいっ」


 ちょうだいちょうだいとおねだりしながら、カロルの腰をきゅうきゅう抱きしめた。

 さあ、カロルよ、私の突然のセクハラ攻撃で、メモの事を忘れるんだ。

 うしし、スカートとドロワース越しのカロルのお尻~。

 もみもみもみー。

 

「や、やめなさいっ」

「ああいう物をくれるまで、私は君のお尻をもむのをやめないっ」


 くれくれくれー。


「……マコト、いいかげんにしなさい」


 うわ、氷点下ぐらいの冷たい声がカロルから出た。

 マジギレなすった模様。


 腰に回された手を払いのけ、私の背後にカロルが回り込む。


 へ?


 ちょ、後ろから、股間に、股間に手が回ってーっ!


「いやあ、私に、いやらしい事をする気なのね、エロ同人みたいに~っ!」

「エロ同人って何よ?」


 後ろから、よっこいしょと、カロルに担ぎ上げられたっ。

 うそっ、これって、カナディアン・バックブリーカー?!


「ぐわわっ、痛い痛いー」

「昼間、男の子たちが掛けてるのを見てやってみたかったの」

「さすがお嬢様、すばらしい人間発電所でございますっ」

「あはは、なんだか楽しいわね、これ」


 うはっ、見てるだけで覚えるかーっ、どんだけハイスペックの近接格闘性能だーっ。

 というか、思っていたより背中が痛いーっ。

 いたたたたたたたっ。


「うるさいわね、何騒いでいるのマコト……」


 ドアがぎいと開いて、コリンナちゃんが顔を出した。

 そして、カロルの両肩の上で、マフラーみたいになって、うぞうぞあばれている私を無表情に見た。


「……」


 コリンナちゃんは、黙ってドアをパタリと閉めた。


「……」


 ゆっさゆっさ。


「揺らすと痛いっ、下ろして、おしっこ出ちゃうっ」

「あ、ごめんなさい、マコト。おしっこは勘弁して」


 その後、カロルにお店のメモは取り上げられてしまった。

 くそうくそう、カロル製のエッチなお道具をちょうだいよう。

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