第258話 お養母様にドライヤーを差し上げる
ご令嬢ご令息のドライヤーに関するデマは、サーヴィス先生が実物を稼働させたのでとけました。
みなさま、これは良いとせっせと教本を読み、魔法陣を羊皮紙に書き写しております。
うむうむ、教本は意外に易しくて詳しいな。
魔導インクの小瓶とペンも付いている。
小洒落た箱に入っていていいな。
この前のドライヤーはカロルに書いて貰ったから、自分でも作ろう。
図形が魔術になるなんてロマンがあるじゃないですか。
見本を見ながらペンで図形をかきかき。
最初は戸惑ったが、前世で取った杵柄でだんだんと描線が綺麗になってきた。
いや、私はパソコンで描いてたからつけペンはそんなにはやってないですけどね。
基本図形だけだと言うけど、結構時間が掛かるな。
気がつくとカロルが私の手元を見ていた。
「なによ」
「描線上手いわね、マコトは器用だわ」
「まあねえ」
「うらやましい……」
エルマーの描線はわりとガタガタであった。
「こんなのでいいのかな、カロル」
「あ、コリンナ、回線が一本抜けてるわよ」
失敗したら、羊皮紙の表面をナイフでコリコリやって削り取る。
しかし、魔導インクって発明だよなあ。
みな、進捗は色々だが、今日の実習は終わった。
次の月曜日に忘れないようにキットの箱を持ってくるようにとサーヴィス先生が厳命したのだった。
私はキットを収納袋に無詠唱で入れた。
「コリンナとエルマーのキットも入れる?」
「たのむ……」
「コリンナは私の寄子だから私が持っておくわ」
「たすかるカロル」
とりあえず来週月曜日までキットには用はないからね。
私と、カロルと、エルマーと、コリンナちゃんでクラスへ帰る。
コリンナちゃんとはA組前でお別れ。
早く来年になってコリンナちゃんがA組に来ないかな。
わりと面倒であるよ。
さて、アンソニー先生が来て、ホームルーム。
新入生歓迎ダンスパーティまで音楽の時間はソシアルダンスの練習になるそうだ。
こうやって地道に夜会用に訓練を積むのだな。
一人前の貴族になるのは大変だぜ。
起立して、礼。
やあ、放課後放課後、開放感があるねえ。
「さあ、図書館に行こう」
カロルに袖を捕まれた。
「集会室へ行くのよ」
「うう」
「キンボールのおばさまがお待ちよ」
早くホルボス山の情報を調べたいのに。
あ、図書館に行くと、今度はお養父様に地下書庫で仕事させられそうだな。
ランプ役として。
まだ、お養母様の方が良いか。
「カロルも来る?」
「おばさまの事、好きだからつきあうわ」
「わーいわーい」
よし、さすが私の嫁、話がわかる。
カロルと一緒に教室を出て、階段を降りる。
渡り廊下を渡って集会棟へ。
ドアの前に立つと、何やら話し声がする。
誰だろう。
ドアを開けると、お養母様と学園長がいた。
「あらあら、マコトちゃん、いらっしゃい」
「お待たせしましたお養母様」
「ほほほ、待ってませんよ、学園長様にお相手してもらっていたのよ」
「学園長、すいません」
「いやいや、中庭を歩いていたら呼び止められてね、キンボールさんのお養母さんには、在学中もよく呼び止められたものさ」
「だって懐かしかったのですよ」
「お養母様は学生時代、どんな娘さんでしたか?」
「あまり変わってないね、ほがらかで優しくて、みんなの人気者だったよ」
「あら、いやですわ、学園長」
お養母様は優雅に笑った。
「それでは、私は戻るよ、また学園にいらっしゃい、ハンナくん」
「はい、またおじゃましますわ、学園長」
なんというか、お養母様は無敵だな。
さすがはお養母様。
さすおか。
お洒落組がやってきて、部屋の隅から箱を持って来た。
「さあ、マコトさまのお養母様、どれでもお選びになってください」
「まあ、これはなんでしょう? 綺麗ね」
箱の中には三つのドライヤーが入っていた。
おお、なんだか高級そうな外装だぞ。
鍛冶部がんばるな。
「ダルシー」
「はい、マコトさま」
ダルシーは慣れた手つきで霧吹きでお養母様の御髪を濡らした。
そして、ドライヤーでブーーーンと乾かす。
「まあまあ、髪を乾かす魔導具なの? これは良いわね」
「聖女派閥で作って売ってるんです、お一つどうぞ」
「まあまあ、悪いわね、マコトちゃん、ではね、そうね、この木の物をくださいな」
お養母様が選んだのは木で外装を組んだ魔導ドライヤーだった。
コリンナちゃんが、魔石の位置と交換方法を説明した。
妙になれてるなあ。
「もう、在庫は三つだけ?」
「ええ、また明日持ってくるそうですよ」
「鍛冶部の方でも売り切れ続出で、嬉しい悲鳴ですって」
まあ、売れてるならいいか。
売り上げはコリンナちゃんが把握してるだろうし。
お養母様はドライヤーの使い方をお洒落コンビに習って、自分でも使っていた。
なんとなく、お養母様孝行をした感じで自分が誇らしいね。
いひひひ。
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