第256話 お養母様を連れてひよこ堂に行く
お養母様を連れて階段を降りる。
途中、ヒルダさんと、ゆりゆり先輩が合流した。
「あ、これは領袖のお母様」
「まあまあ、これはヒルダさん、先週はご足労いただいてありがとうございましたわ」
「いえいえ、暖かく迎え入れていただいて、こちらこそありがとうございます」
「わざわざ、我が家まで礼服のサイズをはかりに来ていただいたのに、お持てなしもできませんで」
ああいかん、マダーム系長挨拶が延々と続く予感がする。
「ささ、お養母様、ご挨拶は移動中にしましょう」
「あら、そうね、行きましょう行きましょう、ひよこ堂のご両親ともご無沙汰ですし、楽しみだわ」
お養母様を連れて、聖女派閥は学園の校門をくぐった。
「本当にもう、子供が大きくなるのはすぐね、ついこの間マコトちゃんが家に来たと思ったら、もう高等学園生なのね」
お養母様、しみじみ言わないで下さいよ。
「マコトさまのお母様、昔のマコトさまってどんな感じだったんですか?」
「そうねえ、今よりちょっと小さかったわね、でもとても大人びていてね、堂々としてるの、あんな貫禄のある子供はちょっといなかったわね」
「「「わかる~~」」」
そこ、メリッサさん、マリリン、ジュリエットさん、声を揃えないっ。
まあ、十三才と言っても、中身の半分は十九才だったしね。
三年たって今は二十二才だよ。
うん、ぜんぜん実感は無いけどね。
ひよこ堂が見えてきた。
クリフにいちゃんが私を見つけて笑顔で手をふりかけて、お養母様に気がついて、こめつきバッタみたいに腰を九十度に曲げて頭をさげた。
「あらあら、クリフさん、立派になったわねえ、お久しぶりです」
「これはキンボールの奥様、本日はお日柄も良く」
クリフ兄ちゃん、挨拶が変だぞ。
その後は、お店に入り、実家の両親とお養母様が挨拶合戦である。
なんで大人の挨拶はこんなに長いのかねえ。
マダーム挨拶合戦をやっている間に、私たちはクリフ兄ちゃんに頼んでパンを買う。
私は、聖女パンと卵サンドだな。
「お養母様、パンは何を食べますか?」
「んー、そうねえ、聖女パンと、あと甘いのあるかしら」
「なんか新作ある? クリフ兄ちゃん」
「春の新作の、イチゴクリームコロネが今日発売だ」
「じゃあ、聖女パンと、それを。あ、もう一つイチゴクリームコロネをちょうだい、みんなで味をみるよ」
「おっけー、マコトの袋にいれるよ」
クリフ兄ちゃんが亜麻袋の中に聖女パンと卵サンドとイチゴクリームコロネ、そして、ソーダを入れてくれた。
お養母様の分の、聖女パンとイチゴクリームコロネも袋詰めしてソーダをいれた。
うーん、お養母様ソーダ飲むかな。
お茶なら、ゆりゆり先輩のメイドさんのミーシャさんがお茶ワゴンを引いてるけど。
「お養母様、ソーダ飲みます?」
「マコトちゃんは?」
「私は飲みますよ」
「では、私も飲んでみるわ、ソーダなんか初めてよ」
もう、お養母様は何でもチャレンジするなあ。
みんなで自然公園に行き、芝生に敷物を引いて座る。
今日は良い天気だし、ここは池の側なので景色が良い。
髑髏団も最近は出ないしね。
お養母様の隣に座って、あれこれと世話をやく。
キンボール家のメイドさんも付いているから、まあ必要はないんだけど、娘に世話を焼かれるお養母様はとても幸せそうであるね。
「まあ、このイチゴクリームコロネ、美味しいわ、帰りに買ってお父様にも食べさせましょう」
「お養父様は甘いパン好きじゃ無いと思うけど」
そう私が言うと、お養母様は、ほほほと笑った。
「あの人はマコトちゃんの前では格好を付けているのよ、実は甘い物大好きなの」
「そうなんですか、知らなかった」
「娘の前では、格好いいお父さんでいたいのよ」
本当にもう、お養母様はおっとりしていて、ほがらかで、これまで何回、その性格に救われていたか解らない。
穏やかで優しい賢夫人であるよ。
お養母様の事、大好きだなあ。
イチゴクリームコロネを、カロルやコリンナちゃんたちと分け合って食べた。
「まあ、ソーダはシュワシュワしますわ、面白いわねえ。シャンパンの酒精が入っていない物みたい。これは夜会で酒精を取りたくない人にも良いかもしれないわね」
「派閥のパーティでも出しましょうか」
「まあ、それは良いアイデアだわ、カロリーヌさん」
「ありがとうございます」
お養母様はカロルのくりくりの短髪の頭に手を乗せて撫でた。
「……、あの?」
「いろいろね、辛いことがあったら、私でも、マコトちゃんにでも甘えても良いのよ、まだカロリーヌさんは十六才なのだから、一人で抱え込んじゃだめよ」
「……はい」
「世界には悲しい事がいっぱいあるわ、でもね、楽しい事もいっぱいよ、気楽に生きるのがコツなのよ」
「……」
「マコトちゃんのお友達になってくれてありがとう、あなたは私のもう一人の娘のような気がするわ。マコトちゃんをおねがいね」
「そんな、私の方こそ、マコトには助けて貰ってばっかりで……」
「お互い助け合って、楽しく生きていくんですよ」
「はい……」
あー、もう、お養母様ってば……。
かなわないなあ。
ありがとう、お養母様。
カロルを慰めてくれて。
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