第247話 王都中央広場でランディ爺さんから重大な手がかりをもらう
魔法省の敷地から外に出ると王都東門道である。
回りは住宅街でお店とか無いね。
魔法塔の社員食堂が不味いわけだ。
独占企業なのね。
カロルと並んでおしゃべりしながらテクテクと歩く。
良い天気だし、気分がいいね。
しばらく歩くと王都中央広場が見えてきた。
結構な人混みだなあ。
広場の西側に大きい幌馬車が止めてあって、その回りで道化師の人がゆで卵を配っていた。
「どうだどうだ♪ 美味しい大きい健康の源♪ ワイエスの卵、大卵♪ 一口食べたらやみつきだ~♪」
道化師のおじさんがやってきて、私に卵をさしだし、動きを止めた。
「せ、聖女様」
ワイエス家の家令のマイルズさんだ。
「やってますねー、どうですか調子は」
「は、はいっ、みんな喜んでいまして、今日は大旦那さまもワイエス領から出てきて一緒に配られているのです。ほんとうにありがとうございます」
マイルズさんから卵を受け取り、カラを剥いて食べた。
おおっ、なんか味の濃い卵だなあ。
美味しい。
「おいしいれふね」
「オルブライトさまもどうぞ」
「はい」
卵をもぐもぐしていると、マイルズさんの向こうに椅子に座ったカトレアさんと、アドルフ爺ちゃんと、学園長がいた。
アドルフ爺ちゃんが手招きするので、寄ってみる。
「おお、聖女さん、あんたも来たかい」
「うんにゃ、魔法塔に寄って、美術館に行く間に立ち寄っただけよ」
「ほほほ、そうかいそうかい」
昔の武闘派の爺ちゃんは目を細めて笑った。
学園長も微笑んでいる。
カトレアさんが小さく頭を下げた。
「お体の方はどうですか」
「快調快調!! 今朝もポッティンジャー騎士団をぶっ飛ばしてきた所じゃわい」
「お爺さまは元気になりすぎですわ」
「わっはっは、ずっと入院していて鬱憤がたまってのう」
相変わらずの豪快爺さんだな。
でも、私はそういう人が好きだな。
細い道化師の人が私の近くに寄ってきた。
「やあ、聖女さん、ランディ・ワイエスですよ」
ランディさんは細くてシワだらけのお爺さんであった。
「こんにちは、聖女候補のマコト・キンボールです」
「うちのデボラがいつも世話を掛けているね、ありがとう」
そう言って、ランディ爺ちゃんはふんわり笑った。
「敵対してやり合ってますけどね」
「うんうん、好敵手みたい、というか、デボラが一方的に負けてるね、良い事だ」
「良い事なんですか?」
「あの子には諜報の事は一つも教えて無いんだよ、で、この前の日曜日にワイエス領まで来てね、おじいちゃま、どうかお知恵を貸してくださいって、頭を下げたんだよ。あの高慢ちきなデボラがだよ。とても嬉しくなってね、状況を詳しく聞いたのさ」
「諜報の知識が無かったんですか?」
「無いとも、普通の令嬢がどうして諜報の事をしっているかね、才能の塊のマーラー家のヒルダ嬢でもあるまいしね。そして、どうして平民の出で、男爵家の養子の君が諜報の事をしっているのか、そちらの方がいぶかしいよ」
ま、まあ、私の諜報知識はスパイ映画とか、忍者漫画とか、小説とかからだけどね。
そんな知識でも、ご令嬢の諜報知識としては特筆物なのかもしれないな。
「それで、諜報知識を教育なさったのですか?」
「とりあえず現時点で有効そうな策を授けただけさ。経済封鎖はお手の物だからね」
「なんじゃあ、女学生に大人げないのう、ランディ」
「ははは、うちのデボラを救ってくれたお礼さ」
救ったって何よ?
と考えていたら、ランディ爺さんは深々と頭を下げた。
「聞けば、同じ派閥の娘を池に落として殺しそうになったというし、そこのカトレア嬢も破滅させそうになったというね」
「まあ、そうですね」
「そんな事になったらどうなるのかあの子は想像もついておらなかったよ。助けてくれてありがとう。孫娘は心の傷を負うところじゃった」
「いや、成り行きですし、派閥抗争の結果なので、気にしないで下さい、恩に着るなら経済封鎖を解いてくださいよう」
「ははは、それは駄目じゃな」
ちえ、食えねえ爺だな。
でも、こういう悪じじいは嫌いじゃ無いぞ。
「デボラさんは今、領で教育中ですか?」
「今はタウンハウスでわしが諜報の基礎から教えている所じゃ。三年に上がるまでに完成させたい物じゃが、これはデボラしだいじゃな」
来年は強敵になったデボラさんが立ち塞がるのか。
まあ、基礎を覚えてくれるのは正直助かる。
馬鹿な真似は先が読めないしね。
「助かります。よろしくお願いしますね」
「こちらこそな、なんとお礼を言っていいやら解らぬ、なので経済封鎖をやってみた、これを解く事はあなた様の為にもなろう」
ああ、爺様の課題なのか。
まったく。
「聖戦かけてヒルムガルドを更地にしますよ」
「ほっほっほ、武力を使った時点で聖女さまの負けじゃわい」
「むううっ」
「そうそう聖戦なぞは使えぬよ、わしの昔の領にいた、なんといったかな、悪の聖女さんではあるまいに」
「ビアンカさまがワイエス領に?」
「そうそうビアンカさま、ビアンカさまじゃ、歴史上唯一刑死なさった聖女さまじゃ、うちの昔の領地が王都の東にあってな、そこに別荘があったそうじゃよ」
「別荘?! 郊外? え、ええと、どこら辺にあったのですか、その別荘は」
まさか、ここで繋がるのかっ!!
ビアンカさまめっ!!
「東の小高い山があるじゃろ、ここからは見えんが、ホルボス山じゃな、その麓に別荘があって、領民になにやら善行を施したとか伝わっておってな、その村ではビアンカさまの信仰がまだ続いてるそうじゃよ」
ホルボス山!!
カロルを見ると、彼女は知らないと首を振った。
私はランディ爺ちゃんの手を取った。
「ありがとう、凄い贈り物を貰ったわ、ランディお爺さん」
「な、なんじゃ、何か経済封鎖を解く鍵でもあったのかい?」
「そんなところ、助かったわ」
ランディ爺さんは顔をくしゃくしゃにして笑った。
「うむ、これは、デボラではかなわんなあ」
「だろう、ランディ、わしらの好敵手であったマリアさまにも似て手強い聖女だて」
「そうじゃなあ、アドルフ、マリアさまを思い出すぞ」
「ああ、たしかにな」
学園長も笑みを浮かべた。
「マリア様と戦ったんですか」
「おうよ、裏でも表でも、まあ、強敵でなあ、ジェームズが王になれなかったのは大体マリアさまのせいじゃな」
「軟硬取り混ぜて強敵であったなあ。なんど煮え湯を飲んだ事か」
「それでいて、憎めない所もあって、本当に魅力的な敵だったね。俺たちはみなマリアさまに育てられたと言っていい」
「マリアさまがお亡くなりになったとき、ジェームズはそれはそれは落ち込んでなあ。死ぬならもっと早く死ねよと毒づいておったが、あれは内心マリアさまが好きじゃったんだろうなあ」
「なんとも懐かしい」
爺さん三人は昔話をするとき特有の澄んだ感じの表情で笑った。
そうかー、やっぱりマリアさまも魅力的な人だったんだなあ。
「とりあえず、孫たちにも素晴らしい好敵手じゃな」
「そうじゃそうじゃ、孫どもも息子どもも、みなポッティンジャーが大きくなってからの事しか知らんからのう。強敵と戦った経験が無いんじゃわ。だからあんな馬鹿な力押しをするんじゃな」
「孫世代を鍛える良い機会でもあるね」
なんだよ、私は噛ませ犬じゃないぞ。
そんな私の気持ちもしらず、爺どもは懐かしそうに昔話を語るのであった。
まったく、爺どもめ。
長生きしやがれ。
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