第24話 コリンナちゃんと、おいしくない夕食談義
「今日も下級貴族食はまずいね」
「子爵以下の令嬢どもにはゴミでも食わせておけという感じね」
「豚肉のシチューと書いてあったのに、肉のかけらも無いよ」
「肉は私たちの心の中にあるんだ」
「上手いことを言えば、シチューが美味くなるとでも言うのかい、コリンナちゃん」
「うるさい、黙って食べなさい、マコト」
もっしょもっしょもっしょもっしょもっしょ。
こんにちわ、マコトです。
現在、食堂で、コリンナちゃんと絶賛、飯マズに耐える修行中です。
もっしょもっしょもっしょもっしょもっしょ。
「メリッサ嬢は食堂に来てないね」
「お昼にパンを沢山買い込んでいたからねえ、パン食べているんじゃない?」
「食堂に来る一年生も減ったし、二年三年はほとんど居ない。みな何を食べているのだろうか。もしや美味しい真の女子寮食堂があって、みんなそこでごちそうをっ」
「妄想はやめるんだ、コリンナちゃん。真実は、このまずいシチューの中にある」
「くくく、まずいねえ、これは本当にまずいねえ」
「なぜ、こんなまずいご飯を我慢して食べてるのかなあ」
「マコト、女子寮の寮費には朝食代、夕食代が含まれている」
「うむ、暴利だね」
「下級貴族の困窮した家計から無理矢理ひねり出した食事代だ、食べないと負けた気になるんだ」
「世知辛い話だね」
しかし、さすがに、まずいご飯を食べるのがきつくなってきたな。
これは、食堂で異常にまずい料理を出して、生徒を脱落させ、その余剰分を横流しにし、調理の人手も節約するという、孫正義もびっくりの経営手法なのではないだろうか。
明日から、実家のパン屋で食べようかなあ。
ああ、でも、門限の七時までに帰ってこれなさそうだしなあ。
んー、この世界にタバスコは無いのか?
辛みで舌を馬鹿にして流し込みてー。
「自炊とか出来ないのかな」
「馬鹿だなマコトは、貴族のご令嬢はお料理とかしない。それは料理人の仕事だ」
「料理が趣味のご令嬢とか居ないの?」
「聞いた事が無いなあ」
もっと女子力上げろよ、異世界令嬢どもっ。
ちなみに令嬢という生き物は、掃除も洗濯もしない、そのような事をするとメイドの仕事を奪うといって嫌がられる。
C組の令嬢が、ダンジョンの授業を休むわけだよ。
野営とか絶対に無理だしね。
A組に所属するような、学園で高成績が欲しいご令嬢は、ダンジョンにメイドをぞろぞろ連れて行くそうな。
毎年何人もメイドがダンジョンで殉職するそうだよ。
なむなむ。
あ、そうか、戦闘メイドとか、諜報メイドって、そのために居るのかも。
そういう事ですか。
世の中は良く出来てやがるなあ。
という事はですよ、カロルのメイドのアンヌさんを斥候に連れて行けば良いじゃ無いですか。
あの人見るからに諜報系ですし。
うわあ、手近でパーティ完成ですよ。
盗賊を探す必要が無くなりましたな。
めでたしめでたし。
まあ、未来のダンジョン攻略パーティはいいや。
目の前の問題は、まずい食事問題ですよ。
どうしたものかなあ。
まずい食事で痩せるのはいいんだけど、私ってば痩せロリ体型なんだよねえ。
あばらが浮いてみえますし。
女性って痩せるときは、おっぱいから痩せて、お腹二の腕は最後なんだよなあ。
ちっぱいしか無いのに、これ以上無くなるのはやだなあ。
ロリ体型はある程度お肉が無いと可愛くないんだよなあ。
ガリロリって、なんか難民感あるし。
うーむ。
さて、まずいご飯も食べればお腹が膨れる。
やっとの思いで夕食を完食しました。
「ごちそうさま」
「おそまつです」
「同感です」
ああまずかった。
コリンナちゃんと一緒に205号室に戻って、明日の授業の準備などをしていたら、七時半近い。
さて、ユリユリ先輩との会談に挑もうか。
ユリーシャ先輩への贈り物の高級クッキー詰め合わせを持って廊下を歩く。
『マコトさん、あなたが私のペットになってくださるなら、派閥に入ってもよくってよ』
とか言われたら困るなあ。
ううむ、私にはカロルという人が。
だが、ユリユリ先輩のロケットおっぱいに溺れるのも捨てがたい。
迷う所ではあるね。
『マコト! 私はチッパイだけど、あなたを愛しているのよっ』
うん、カロルはそんな事絶対にいわない。
ふざけんな妄想。
もっとリアルを追求せよ。
創作のリアルを裏打ちするのは、大量の余計な事を考える力だ。
カロルの部屋のノッカーを鳴らすと、すぐ、アンヌさんが出てきた。
どうぞと小声で言って、通してくれる。
「来たね、マコト、行こうか」
「うん、ユリユリ先輩に襲われそうになったら助けてね」
「それは無いです」
まあ、一応用心のためにね。
「ん、カロルお化粧してる?」
カロルは、うっすら頬紅で、ほんのり口紅で、なんとも可愛らしい。
おしゃれさんだな。
「うん、一応ね、マコトはしないの?」
「化粧品は持ってないなあ」
聖女候補は清楚質素を信条とするので、教会的にお化粧はいい顔されないんだよね。
「こんどマコトに、口紅と頬紅をプレゼントするわね」
「わあ、ありがとうカロルッ!」
これは楽しみだなあ。
「乳液とかは……、いらないみたいね。子供の肌みたいにぷにぷにだわ」
カロルが私の頬をつついてきた。
うひひ、こしょばい。
「ヒールかけると、お肌もつやつやになるんで、基礎化粧品はいらなーい」
「聖女様は便利ねー」
さて、ユリユリ先輩の元に向かおう。
「先輩のお部屋は?」
「女子寮の一番上、屋上のペントハウスね」
「げー」
階段上がっていくのは面倒だなあ。
「エレベーターを使いましょう」
「あ、そうか、カロルが居るから」
「一応伯爵令嬢ですから」
「領地では、伯爵さまよりも、お嬢様の方が領主として慕われております」
「そ、そんな事はないわよ、お父様も愛されてるし」
「伯爵様は、仕事をいたしませんし」
「錬金術師は素材を集めるのが仕事なのよ」
「そんなにお父さん、家にいないの?」
「一年中飛び回ってるわね」
「お母さんは?」
「私が十歳の時に亡くなりました。病気でね」
んー、惜しいなあ、もっと前に知り合っていたら、カロルのお母さんの病気を治せたかもしれないのに。
まあ、光魔法を使えるようになったのは、十三歳で魔力鑑定式からだから、言ってもしょうが無いんだけどね。
という事はカロルは十歳ぐらいから領主の仕事を代行してるのか。
なんと立派な孝行娘だろうか。
エレベーターの門番にドアを開けて貰って、中に入る。
普通に前世のエレベーターだな。
ただ、階数を決めるのは、ボタンじゃ無くて、ゴツい鉄のレバーだ。
アンヌさんがガシャコンとレバーを右いっぱいに倒した。
ゴウンと音がして上昇感覚。
なんだか久しぶりだなあ、この感じ。
チーンとベルが鳴り、ドアが開く。
入り込んで来たのは少し冷たい外気。
エレベーターから出ると、空に満月が煌々(こうこう)と輝いていた。
「ふお、良い夜景」
「ここからの景色は綺麗よね」
学校施設に灯りはついてないが、王都側は色とりどりの灯りが見えて、前世の夜景みたいに綺麗。
東には男子寮があって、灯りがともって、時々人影が横切る。
広い屋上の敷地に、ガラスの大きな温室と、ペントハウスが二棟。
片方は舎監生のエステル様の部屋かな。
結構広いな、一棟がひよこ堂の敷地面積ぐらいありそうだね。
舎監生をすると、こんな広い部屋というか、家が貰えるのか。
いいなあ、私も三年になったら舎監生になるかな。
当然、副舎監はカロルだ。
うっしっし。
あ、でも仕事が面倒くさいので、舎監生がカロルで、副舎監が私の方がいいな。
うんうん。
「あの温室はなに?」
「植物部が観葉植物とかを育ててるのよ。私も一区画借りて薬草の栽培を始めたわ」
有料で借りれるのかあ。
一瞬、ここでカカオの栽培をして、チョコの値段を下げよう、とか考えたが、めんどくせえので却下である。
私は、キンボール家と、大神殿から、あ、あと、ひよこ堂からも少々、お小遣いは貰ってるのだが、なんだかんだで足りない。
うーむ、何か金策しないとなあ。
普通に学生生活するには足りるお金なのだが、毎日外食とか、夜遊びとか、無茶をするには足りない。
なんとかしなくては、楽しい学生生活のためにっ。
乙女ゲーをやってた時は、よくこいつら毎週デート行くお金があるよなあ、と思っていたが、あれはぜったい上流貴族の攻略対象にたかってるよね。
観劇だ、乗馬だ、レストランでお食事だ、と、毎週デートに行き放題であったなあ。
ちなみに、ゲームでは、デートの約束を取り付けると、施設の前で待ち合わせであった。
まあ、イベントの関係上しかたが無いのだが、冬にスキー場の前で待ち合わせはなかろうと思った。
デートというのは、行き帰りも含めてデートやろがいっ。とか思ってたなあ。
友情エンドを目指す私としては、なんとか自分でお金を稼ぐ必要があるんだね。
放課後に地道に冒険者でもするかな。




