第239話 王様と王妃さまに入浴剤をねだられるが突っぱねる
プリンをゆっくり食べていると、出入り口から王様と王妃様がやってきた。
全員起立であるよ。
「いや、よいよい、お忍びだよ」
「席に座って食事を続けて良いわよ、私たちの目的は聖女候補さまにお礼を言うことだから」
あ、やばいな、これは入浴剤のおねだりだな。
王様と王妃さまはロイドちゃんとジュリエットさんをどかして席にどっかりと座り込んだ。
「ところで、キンボール嬢、この前の入浴剤は素晴らしく良い物だった」
「ありがとうございます」
あー、プリンうめー。
「本当にお肌がすべすべになって、とてもよろしかったわ、ありがとう」
「いえいえ、愛する王家のためですから」
そして、二人は黙った。
私も黙々とプリンを食べる。
とてつもない緊張感が私と王様王妃さまとの間で発生している。
無言。
無言だが、入浴剤をもっとくれようという圧迫感がある。
あー、プリンうめー。
「つ、次の入浴剤は何時売ってくれるんだい、キンボール君」
「月曜日に大瓶を二本お売りします」
「そ、それでは、大浴場で男湯女湯の二回分しか……」
「で、できればもっと売ってくださらないかしら」
私は懐から七個の小瓶を出した。
「こ、これは?」
「浴槽用です、一瓶で一般的なバスタブが聖女の湯となります」
「お、大瓶を売ってはくださらないの?」
「作るのが意外に大変なので、学園の女子寮と男子寮優先です。王家には優遇として、小瓶を七本、一週間分お売りできますよ」
まあ、嘘だが。
作ろうと思えば量産は出来るけど、さすがにカロルの錬金生産を邪魔する訳にもいかないからね。
「わ、解った、だが、後々大瓶の数を増やすよう考えてはくれんかな。職員たちの突き上げがひどいでな」
「考えておきますね。お代金は七金貨となります」
王様が懐を探って、お財布を出した。
コリンナちゃんが小瓶を取り、王様の前に進み出て、金貨と交換してきた。
まあ、どこも入浴剤が欲しいのは一緒だなあ。
のちのち王家へ、何かのおねだり材料として使おうか。
「父と母がすまないね」
「いいんですよ、小瓶を渡しておけば王妃様もご機嫌でしょうし」
「そうだね、ひとまずは大丈夫だよ、ありがとう、キンボールくん」
「気にしないでくださいね」
ケビン王子と私は、小声でこそこそと喋ったのである。
さて、食べ終わった食器を返却口に返しに行く。
総メイド長のマリーさんが、ずいと近寄ってきた。
な、なんだろ。
と、思ったらおたまで中空をぱかりと叩いた。
もう一回。
ダルシーとアンヌさんが出てきおった。
「王宮内は隠形禁止だよ」
「ばばさま酷い」
「痛いです」
知り合いなのかな。
「聖女さんも、こいつらをちゃんと躾なさいよ」
「は、はい、ごめんなさい」
ダルシーが私の後ろに立った。
アンヌさんはカロルの後ろだ。
「知り合いなの?」
「メイドの里の大先輩です。王立諜報メイド組織の長でもあります」
こらまた、凄い人と知り合ったな。
さて、聖女派閥の子たちを引き連れて、王宮の学園門まで行く。
「美味しかったですわねえ」
メリッサさんがしみじみとつぶやいた。
「王宮に就職すれば、あんな美味しい物が毎日食べられるのかしら」
「マリリンは腕を上げれば護衛女騎士になれるみょん」
「あら、そうかしら」
「女性らしい気遣いができる護衛騎士は確かに欲しいな、マリリン嬢」
「まあ、嬉しいわジェラルドさま」
ジェラルドの癖に気配りができるじゃないか。
やれば出来るのか。
さて、マッチョの門番さんに通用門を開けてもらって、学園に入る。
「それでは、私は大神殿に行ってくるから、日曜の朝まで学園はたのんだよ」
「まかせておけ」
「うむ……、がんばる」
カーチスとエルマーがうなずいた。
まあ、男子寮で何があろうと、私は知らないけどな。
「いってらっしゃいみょん」
「孤立行動だから気を付けろ」
「カトレアさんは心配しすぎだよ」
エルザさんは剣術組の隣に立って小さくうなずいた。
というか、なんだか彼女が剣術組で一番頼りになりそうなのはなぜだろうか。
次点はコイシちゃんだ。
カトレアさんは強いんだけど、性格的に突っ走りそうで安心できん。
「じゃあ、日曜の朝まで、いってらっしゃい」
カロルがふんわり笑って送りだしてくれた。
いってくるぜー。
「そういや、クラーク博士なら、飛空艇の事、なんか知ってるんじゃないか?」
「あ、そうだねっ」
コリンナちゃん、ナイスアイデアだ。
お養父様なら、ビアンカ様の事とか知ってそうだね。
「飛空艇……、とは?」
「ジェラルドには関係ないから気にしない」
「新しい飛空艇を見つけるあてがあるのかね?」
「あるけど、ねーよ」
「どっちかね」
「言う訳ないじゃーんっ」
あんたは、他派閥だしな。
ジェラルドはむっとして黙り込んだ。
「じゃあ、行ってきまーす」
みんなに手を振って、私は中庭を横切り、校門の方へ歩いた。
さて、大神殿に行って孤児たちと遊ぼうか。
私は校門をくぐって王都大通りを歩き始めた。




