第237話 土曜のお昼は王子の発案で王宮職員食堂へ
土曜日の午前の授業だ。
数学、地理、国語、魔術理論の四コマだね。
国語の時間は名著を読んだり、詩を作ったりしますな。
典雅な授業であるよ。
先生はアンソニー先生だ。
朗読はイケボで聞き惚れてしまうね。
ソネットは音律に決まりがあったり、九行目に転換点のターンと呼ばれる行が入ったりで色々難しい。
漢詩っぽくもあるよね。
私は割と言葉とか好きなので面白く授業を受けている。
A組でソネットが上手いのは、なんといってもケビン王子であるよ。
ロマンティックな詩を作って朗読して、女生徒にキャーキャー言われておる。
王族には必要な教養なので、家庭教師について学んでるっぽい。
ロイドちゃんも上手いのかなあ。
春歌とかを作りそうだが。
国語が終わると魔術理論。
ジョンおじさんとか、その先達の魔術師たちがコツコツと積み上げるようにして築いたのが魔術理論である。
まあ、仮説なんだけどねえ。
とりあえず、ある言葉の連なりに力が宿り、現実界に作用するのが魔術らしい。
また、その力は特定の図形にも宿るので、魔法陣が発達していったらしい。
その力は人の体に宿って、魔力量として計測できる。
魔法を使うと魔力量は減るし、休むと復活する。
魔力がなんであるかは諸説あるらしいね。
さて、午前の授業が終わったね。
アンソニー先生が来てホームルームだ。
最近、悪所に足を踏み入れて補導される生徒が増えているので注意するようにとの事。
まあ、悪所というのは性風俗やね。
下町はツバメ食堂の向こうに大きな色町があって、綺麗どころのお姉さんが相手をしてくれるそうだ。
生徒たちは思春期真っ盛りだからなあ。
ああいう場所に興味もあるだろうて。
乙女ゲームのシナリオには出てこなかった色町通りだけど、男が居れば、そういう場所はあるわな。
起立して礼。
さてさて放課後だ~~。
一週間の授業が終わったぞ。
私は座ったまま手を上に上げて伸びをした。
「お昼はどうしようか、マコト」
「そうねえ、今日は外食の順番だけど、またどこか安いランチを探そうか?」
「たまには僕から提案させてくれないだろうか」
ケビン王子が出張ってきたぞ。
「え? 王子様は街の安食堂なんか知らないでしょうに」
「街の安い食堂は知らないが、でも安くて美味しい食堂は知っているんだ」
「どこよ?」
下級貴族レストランとか言ったら怒るからね。
「王宮職員食堂だよ」
満面の笑みでケビン王子は答えた。
「安いの?」
「定食が大体五百から七百ドランクだ」
ケビン王子に代わってジェラルドが答えた。
「お、安い」
「王宮内の施設であるから、味は保証済みだ。そして王族と一緒で無ければ王宮には入れない」
「それは良いねえ」
学園の上級貴族レストランよりも、ずっと安いな。
うんうん、これは良い。
しかも、王宮と学園は隣り合っているから、移動もたいしたことは無い。
穴場だなあ。
「よし、そうしよう」
「うん、気に入って貰えると思うよ」
B組のみんなもやってきたので、どやどやと一階まで下がる。
階段でヒルダさんと、玄関でゆりゆり先輩とライアン君と合流する。
「今日はどこに行きますの?」
「王宮職員食堂だよ、ゆりねえ」
「まあ、ケビンが案内してくれるの、珍しいわね」
「何時も聖女派閥の人たちに教えて貰ってばかりだと心苦しいからね」
そう言ってケビン王子は、ほがらかに笑った。
ライアン君は王宮に行くと聞いてゲッソリとした表情を浮かべた。
「き、緊張します、王宮に上がるだなんて……」
「そう? 私はあまり気にならないけど」
「おまえだけだ」
コリンナちゃんに毒づかれた。
彼女もなんだか緊張している。
あ、そっか、身分の低い人は一生に一度も王宮に入る事が無いのだな。
それは緊張するかもしれない。
そんな私たちを無視して、ケビン王子は中庭をずんずん横切って、王宮門に向かって歩いた。
ケビン王子とロイドちゃんは、この道を馬車で通学してるんだよなあ。
たいした距離でもないのにねえ。
道はしばらくして王宮門に行き当たった。
門番の人がケビン王子を見てにこやかに微笑んで通用門を開けてくれた。
「今日は聖女派閥の子たちと会合だから」
「わかりました」
門番さんは鷹揚にうなずいて私たちを通してくれた。
この人も強いんだろうなあ。
筋肉だるま系でゴツい。
「わあ、王宮だわ」
「初めて入りましたわ」
「マリリン知ってる? 卒業記念のダンスパーティは王宮の大広間で行われるのよ。だから卒業までに、あと一回は入れるわ」
「そうですのね、お勉強を頑張って、無事に卒業したいですわね」
「本当ね」
お洒落組が笑い合うね。
うん、あんたたちは勉強頑張りなさいよね。
とはいえ、実は魔法学園は、そんなに勉強を頑張らなくても卒業は出来るのだ。
C組があるからね。
あいつらはほとんど勉強無しで進級できるし、卒業できる。
社交界でも、魔法学園卒業という事で大きな顔を出来る。
まあ、ほとんどの人は、頭の緩い社交族を「C組あがり」と捉えるので知らない人へのはったりにしかならないけどね。
なんでも良い事ばかりではないのだよ。




