第23話 カロルの部屋は錬金売店と化しているわけで
メリッサ嬢と一緒に女子寮へ帰る。
階段を上った所でお別れである。
「今日は楽しゅうございました、絶対、幹部のお姉様を説得して、マコトさまとお友達になりますわ。それではごきげんよう、マコト様」
「がんばってくださいね、ごきげんよう」
彼女の部屋は四階の二人部屋だそうだ。
しかし、メリッサ嬢では派閥の説得が上手くいくと思えないが。
虐められなきゃいいけどなあ。
205号室に入ると、マルゴットさんのベットにカーテンが掛かっている。
この人いつも寝てるな。
諜報活動で夜に出歩いているのかな?
私の机の上にメモ書きが置いてあった。
『ユリーシャ様から連絡がありました。私の部屋に来て。byカロリーヌ』
と、書いてあった。
もう返事が来たのか、行動が早いな、ゆりゆり先輩。
私は買ってきたパンをチェストに入れて205号室を出た。
ととんと階段を上がっていく。
やっぱり自力で五階まであがるのは疲れるなあ。
五階について、西の端を目指して歩くと、カロルの部屋の隣の鎧戸が開いていて、アンヌさんがカウンターの向こうに座っていた。
「こんにちわアンヌさん、お店番?」
「はい、マコト様、今日からポーション等を売ってます」
へえ、ポーションに、解毒剤、魔力活性剤、いろいろ売ってるなあ。
市価よりも安い。
「男子は買えないの?」
「男子寮にも、このような販売所施設がありますので、ここから卸しています」
「がんばってくださいね」
「はい」
アンヌさんと喋っている間にも、女騎士風の人がやってきてポーションを買っていた。
ダンジョン実習に出る上級生の人かな?
ドアを開けると、錬金釜の中身をぐるぐるかき混ぜているカロルが見えた。
「いらっしゃい、マコト、ちょっとまってねー」
ぼわんと煙があがると、釜の中身が透明な緑色に変化した。
「へー、ポーションって、そうやって作るんだ」
「そうよ、今度マコトもやってみる?」
「え、光魔法でも出来るの?」
「薬草のだし汁に、土魔法のアースヒールを付与しているだけだから、光のヒールを付与すればポーションができるわよ」
「意外に簡単な物なんだね」
「原理はね、高品質にするには、浄水したり、材料を切りそろえたり、手間がかかるのよ」
「ふーん、面白そう、今度やろう」
「ええ、是非、どんな効果のポーションが出来るか楽しみね」
応接セットのふかふかのソファに座る。
アンヌさんがハーブティーを入れてくれた、今日はハッカっぽい味だな。
「あ、これお土産、食べてね」
「え? なになに」
「パンの見本セット、さっき作ったの」
「わあ、綺麗ね、それとちょっとずつなのね、いろんなパンが試せるわね」
「あとで、アンヌさんと一緒に食べてね」
「夕食の時にいただくわ、ありがとう、マコト」
お茶請けのスティッククッキーをぽりぽり囓る、これはあれだ、ブルボンルーベラだな。
高級品らしく、前世のルーベラと味は違うのだけど。
美味い美味い。
「ユリーシャ先輩から早速お返事があったわよ」
「すばやいね、ユリユリ先輩」
「今日の夜、八時に副舎監室でお待ちしております、だそうよ」
「……貞操の危険を感じる」
「そ、それは無いんじゃないかな。私とアンヌも一緒に行くから」
「じゃあ、大丈夫かな、一応お風呂に入って、あたらしいドロワースを履いておこう」
「なにゆえなの?」
「いや、もしもがあったら困るし」
「無いと思うわよ」
「念には念を入れて」
「まあ、マコトがそうしたいなら」
販売所のベルがひっきりなしに鳴って、アンヌさんが呼び出されて、ポーション等を販売していた。
「販売所、盛況だねえ」
「市価より安いからね、明日から二年生はダンジョン実習だし」
「おー、楽しそう、早く二年になりたいな」
「マコトは変わってるわね」
「そうかなあ、ダンジョンって憧れるじゃん、一攫千金、お宝取り放題!」
「そんなに儲かるダンジョンにはいかないわよ」
「そうなんだ、ちえーっ」
「二年生になったら、パーティ組んで一緒に行きましょうか」
「そうだね、あ、カーチスとエルマーも誘おう! 騎士、魔法使い、聖女候補、錬金術師で、結構バランス良いね」
「カーチス様が前衛一枚で大変ね」
「聖女と、チェーン君が前にでるよっ」
「聖女は前に出てはいけないでしょうに」
「シーフか、スカウトが欲しいねえ、索敵大事」
「二年生になるまでに、誰か探しましょうか」
「うんうん、今から楽しみ楽しみ」
お友達とダンジョンアタックは燃えるなあ。
二年生までに、シーフを探すぞう。
ちなみにゲームでは、好感度が高い攻略対象と二人でダンジョンである。
ダンジョンデートかよっ、とは思うが、攻略対象どもは、どいつもこいつもスペックが高く、普通のダンジョンの魔物もたいした物は出ないので、そんなに苦戦はしない。
攻略対象との好感度を上げたくない、もしくはダンジョンに誘われるほどの好感度を得ていない時は、自動的にカロルが「私と行こうよ」と、チェーン君と共にやってくる。
カロルとチェーン君は、意外に強い、というか、ポーション使い放題なので、かなりラクチンであるよ。
スチルを埋めるプレイでは、いつもお世話になりましたよ。
好感度低いと出てくるスチルとかあるからねえ。
「そうだ、マコト、明日の午後、冒険者ギルドに行かない?」
「冒険ですか、冒険ですか、行きますよ、戦いますよっ」
「ちがうわよ、冒険者ギルドに薬草の採取依頼を出しに行くの。材料が少なくなってきちゃって」
「なーんだ、ついでに冒険者カードを作っておくかな、カロルは?」
「あるわよ」
カロルは制服の胸元から、銅色カードを出して私に見せた。
「カロルは、もう銅色なんだ」
「領地でカードを取って、ゴーレムで色々討伐したからねー。なんだかんだで上がりました」
冒険者には、その功績によって、ランクがある。
最初は鉄色、経験を積むと銅色、いっぱしの冒険者になると銀色、もっと偉くなって一流冒険者で金色、ギルドマスタークラスだと白金色、伝説級になると魔法銀色のギルドカードが貰える。
ちなみに、ミスリル色の冒険者なぞ、大陸に五人もいない。
私らは、学園卒業までに銀色をとれれば良いかなって感じ。
カーチスルートの場合は、金色必須だけどね、あの兄ちゃんは強い女の子が好きなのだ。
さて、そろそろカロルのお部屋をおいとまして、お風呂にでも入るかな。
ユリユリ先輩に、抱かれるかもしれないしさあ。
「それじゃ、また後でね」
「七時半には来てね」
「りょーかいー」
さてさて、お風呂お風呂。
この程度の文明の発達具合で、24時間お風呂入れっぱなしは、エネルギー効率的にあり得ないんだけどね。
いいんだいいんだ、魔石かなんかで、こう、どうかしてるんだから。
なんでもかんでも魔法で解決すればええんや。
部屋に戻って、新品のドロワースと、汚れ物袋を持って階段を降りる。
地階にある、大浴場の隣の洗濯所に行って、銅貨を払って洗濯をお願いする。
おパンツぐらい自分で洗えやという感じだが、すまぬ、ドロワースとか洗うのは技術がいるので無理。
メイドさんが居ない下級貴族生徒は、こうやって洗濯所にお願いするのだ。
洗濯所は、蒸気とアイロンの匂いでいっぱいだ。
なんか、労働する女性の香り、という感じがするね。
洗濯女さんや、メイドさんが右往左往しておる。
大浴場に入り、服を脱いでロッカーへ。
鍵を手首に縛り付けて、いざ浴室へ。
まだ夕方の早い時間なので、お風呂はすいている。
ざっと体を洗い、湯船につかる。
「くはあっ、極楽極楽」
遠くの裸ん坊の令嬢がひそひそ話している。
「キンボール様は、なんだかオッサンくさいですわ……」
「そこも、キンボール様の萌えポイントですのよ、なにも解ってらっしゃらないわね、あなた……」
うっさいわい。
いっぺん出て、きちんと体を洗い、シャンプーリンスもする。
もちろん乙女ゲーなので、シャンプーもリンスもあるぜい。
淑女の負担となる、リアル中世っぽさは、オフリミットなのだよ。
異世界定番お金儲けセットのシャンプーリンス開発、大売り出し、大もうけが、使えないのがつらいんだがな。
再び湯船へ、はあ、お風呂好き好き。
お湯をたっぷり堪能してから上がり、脱衣場で体と髪をタオルで拭く。
もちろんこの世界にタオルはある(略
とりあえず、少女漫画の中世と思ってくれていい。
女のお子様が惨めな思いをするようなリアルは極力省いてあるのだ。
事象の方はストレスフリーなのに、なぜに社会の成り立ちばかりがリアルなのだろう。
リアルにある悪意はみんなあるし、悪徳もいっぱいだ。
人の心の営みはリアルなのかな。
前世の日本のように、いい人もいれば、悪い人もいるのだな。
だが、この世界にドライヤーは無い。
くそうくそう。
髪を乾かすのが大変。




