第232話 205号室に帰ってビアンカ様の伝記を読了する
女子寮の地下大浴場に来たのだが、なんだこの混み方は。
私を見て舌打ちしている子もおるぞ。
どうやら金曜日なので聖女の湯があろうかと期待した女生徒が張っていたらしい。
聖女の湯は、月曜と水曜だと言っておろうが。
もう。
とはいえ、混んでいると言っても月曜の夜とかほどでは無いので浴室に入る。
かけ湯をして湯船に入ると、カトレアさんと、エルザさんと、バッテン先生がいた。
「あら、先生もお風呂ですか」
「うん、帰って来て剣術部と一緒に一汗かいて来たところだ」
まったく元気な先生だな。
あー、いい湯加減だなあ。
私は、お風呂に入るために生きている気がするよ。
お風呂大好き。
さて、暖まったので洗い場に出るとダルシーが現れて洗ってくれる。
うーむ、こしょばいね。
髪も丁寧に洗ってもらってバスタオルをまいてもらうのだ。
さて、再び湯船でのんびりする。
「それじゃ、私はこのへんで、また晩餐にね」
「はい、またー」
「おつかれさまでしたわ」
ほどほどに混んできた浴場を出て、更衣室で制服を着た。
その後、ダルシーにドライヤーを掛けて貰う。
ブオオオオオオン。
「あの、金的さま、それは何ですの?」
「ドライヤーよ、髪を乾かす魔導具ね」
「すごいですわ、どこで買えますのかしら」
「まだ売ってませんけど、もうすぐお店に並ぶと思いますよ」
日曜日に特許状が来たら、ドワーフさん関係で工具店などに、派閥の管轄で魔導具屋さんに卸す感じだね。
女生徒の羨望のまなざしの中、ドライヤーをかけ終えてピカピカの髪で浴場を出た。
ふう、お風呂に入るとさっぱりするね。
階段をパタパタ上がって205号室へと向かう。
今日は晴れだったから夕焼けが綺麗だね。
女子寮中が真っ赤だよ。
205号室に入ると、コリンナちゃんがまた勉強しておった。
「コリンナちゃん、また勉強かい」
「うむ、勉強は私を裏切らない」
「なんとも偉い事だ」
「マコトの方はどうだった? ピッカリンの爺様だろ、いきなりぶたれたりしなかったか?」
「しないしない、ベットでうんうん唸ってたよ」
「そっか、かの豪傑アドルフ・ピッカリンも年には勝てないか」
「そりゃあねえ。だけど治療したら治ったから、今日から鍛錬だって騒いでた」
「うへえ、さすがはピッカリン、カトレアさんのおじいちゃんだな」
「おう、とてもピッカリンだったぜ」
靴を脱いでハシゴを登り、ベットで横になる。
読みさしのビアンカ様の伝記を読み始める。
第二部の転落は嘘だと解っていても読むのがキツいのだ。
おごり高ぶった女性が陥る間違いが沢山書いてあり、許さんという筆跡だよ。
というか、ビアンカ様、本人が書いたくせになあ。
なんという茶番感。
いくつかの罪が上げられていて、贅沢、驕慢、なにより政治に口を挟んだ事が一番の害悪と書かれていた。
この時期に、ビアンカ様の頃の王家が潰れているから、やっぱり王家絡みで何かあったのか。
王子様を復活させたとあるが、ビアンカさまと婚姻した記録は無いね。
というか、ビアンカさまは結婚もしてないな。
人間関係は色子を何人も侍らせたとか、色欲にまみれたパーリーを開いたとか糾弾されておるが……。
糾弾してるの本人だしな。
眉唾である。
さすがに百五十年前の人の交友関係は推し量れない。
王家とごたついて、共倒れの形を取ったのかな。
蘇生魔法に不備があったのかねえ。
うーむ。
聖女の魔法は伝統的な光魔法があって、その上に高度な魔法を積み上げる感じだね。
ビアンカさまの蘇生魔法も失伝していてマリア様には伝わってないし。
未来視、千里眼とかも伝わってなかろう。
マリアさまが伸ばしたのは攻撃的な光魔法の方だ。
最後の方は、生身でビーム砲台みたいになっていたというね。
あと、飛行魔法も出来たと聞く。
美術館には、光の翼を生やし空を行くマリア様の絵が残ってる。
まったく光魔法はチート過ぎて訳がわかんないよ。
なんだよ、ガンダムか、マリア様は。
ビアンカさまの処刑は斬首だったらしい。
雨の日に、民衆の前で首を落とされたという。
まあ、これも嘘なんだろうけどねえ。
身代わりを使ったか、死体を動かしたかしたのでしょう。
ビアンカさまの伝記は最後にこう結んでいた。
『希代の聖女として前半生を光の中にあった聖女ビアンカは、後半生堕落し、処刑されるまでの悪行を働いた。人は変わる。どんな人間も堕落とは無縁では無い、それは聖女であってもだ。この事を我々は忘れないようにしなければならない』
名文だねえ、糾弾してるのが本人じゃ無きゃね。
最後の見開きの白紙部分が光り出した。
やや、ビアンカさまからの通信!
『読了ありがとうございました。感想などいただけると励みになります』
……。
あんたはWEB作家かよっ!!!
飛空艇の場所を教えろやあっ!!
飛空艇の飛の字も出ないで、ビアンカさまの文は薄れて消えた。
がっくり。




