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第230話 アドルフ爺ちゃんにカトレアさんが事情を説明する

 アドルフ爺さんは病室でびょんびょんと跳び上がるわ、屈伸を始めるわ、腕立てをするわで、落ち着かない。


「おじいちゃま、落ち着いてください」

「おお、カトレア、凄いぞ、こんなに動いて体がまったく痛く無いっ、明日から訓練だっ」


 うわあ、騎士の家の爺って感じだなあ。

 脳筋だな。


「よし、これで現役復帰出来る、ありがとうマコトちゃんや」

「現役復帰はやめなさい、アドルフ」

「動けるようになったのだから、復帰じゃ、復帰、たるんだ騎士どもを絞らにゃならんて」


 そう言って、アドルフ爺ちゃんはガハハと笑った。

 ポッティンジャー騎士団の皆さん、ご愁傷さま。


「で、ずいぶん話に聞く聖女候補さまとは違うが、なぜなんだい?」

「なんて言われてましたか?」

「マイケルは、いきなり奇襲で目潰しをしてきて、金的を蹴られたって言ってたな」

「そこからですか……」

「マコト、私が話す」

「おねがいね、カトレアさん」


 みんなで椅子に座って、カトレアさんの説明を聞く。

 大体正確な流れだね。


「なんと、一年生の女子に殴りかかるとは、それで返り討ちされても文句は言えまいに。なんという恥さらしだ」

「まあ、ビビアンさまが煽ってましたけどね」

「主人に言われてもだ、女子に殴りかかる? オルブライトの娘を庇っている女子にか? ぐぬぬっ」

「なぜ、ビビアンさまは、オルブライト嬢をそんなに敵視しているのか、アドルフはしらないか?」

「しらんなあ、ここ何年も入院しておったので、外の事はあまりしらんのだ」

「それもそうか、ふむ」


 学園長は考え込んだ。


「マーラー家も派閥を離れたか、なんとも、時代が変わったな」


 アドルフ爺さんはため息をついた。


「グスタフは少し……いかれていたからな」

「孫娘は出来物のようだな。なんとも惜しい人材をなあ」

「マーラーだけではないぞ、ウィルキンソン家もだ」

「諜報系全滅ではないかっ!」

「ワイエス家が残っておるが……」

「ワイエスはなあ、諜報というより、経済策略だろう、これは酷いな」


 爺様たちは嘆く事しきりであるね。

 まあ、私がだいたいやりましたけどね。


「そういえばアドルフ、ランディから手紙が来たぞ、週末王都に来るそうだ」


 ランディというと、デボラさんのおじいちゃんだな。


「なに? 何をしに来るのだ、孫娘の手伝いか?」

「そこまで酔狂ではあるまい、まあ、ひょうげた奴ではあるがな。王都広場で卵を配るそうだ」

「な、なぜ?」

「あ、私がやらせました、ワイエス家の家令さんがヤクザを使って私を拉致しようとしたので罰則で」


 学園長とアドルフ爺さんは渋い顔をして顔を横に振った。


「手紙では、喜んでおったよ、マコトくん。王都での卵の売り上げが倍になったそうだ。嬉しいので自分も道化服を着て配りたくなったそうだ」

「わあ……」


 ランディさんは、茶目っ気がある爺さんだな。


「日曜日に会いに行くか、カトレアおまえも来るかい? たまには食事でもしようではないか」

「は、はい、おじいちゃま」

「私も行こうかね、昼頃馬車でピッカリン家へ行くよ」

「おう、頼むよフランク」


 カトレアさんがおずおずとアドルフ爺さんの方に顔を向けた。


「あ、あの、私が聖女派閥に移った事を怒らないのですか?」


 アドルフ爺さんはきょとんとした顔をした。


「お前が主としてマコトちゃんを選び、命を助けてくれた恩でマーラー家にやっかいになっておるのだろう? 何を怒るというのだ?」

「で、ですが、私はビビアンさまに逆らうという騎士として恥ずべき行為を……」


 アドルフ爺ちゃんが爆笑した。

 学園長も爆笑した。


「そ、そんな、おまえっ、俺が何度ジェームズと喧嘩して派閥を出て行ったと思っておるのだ」

「そうだね、カトレアさん、そんな事を悩むだけ損だよ。ピッカリンというのは強情でまっすぐで馬鹿なので、すぐ上と喧嘩になる。そして、一度や二度の喧嘩で仲が途絶えるというのは、ビビアン様の器量不足だからなあ」

「なんども、ジェームズさまと喧嘩……」

「そうだそうだ、何度も何度も喧嘩をしては、俺から帰ったり、ジェームズが迎えに来てくれたりしたな」

「ほんとにな、派閥のみんなで、またかよと呆れていたものだ、懐かしいな」


 アドルフ爺ちゃんはにっこり笑った。


「マコトちゃんを主とあおいだのだ、お前も、マーラーの孫娘も。俺は何も怒る気はせんよ」


 そして、私の方を向いて、頭を下げた。


「マコトちゃん、馬鹿な孫娘ですが、ピッカリンらしさは持っております、どうか末永く可愛がってやってください」

「ややや、頭を上げて下さい、私なんか可愛がるとか、そんな偉い事は無いので」

「敵対派閥の重鎮の傷を、戦争で負った傷だからと治す懐の大きさ、本当に素晴らしい。英雄の気風が感じられますわい」

「いやいやいや、褒めても何もでませんよ、もう」


 アドルフ爺ちゃんも、学園長も私とカトレアさんを優しい目で見ていた。

 まったく、ジェームズ翁の側近は気っ風が良いね。

 なんで、息子世代は駄目なのかねえ。


 さて、治療も終わったし帰ろうかな。


「では、そろそろおいとまします」

「あ、もうお帰りですか、お構いもしませんで申し訳無い。治療費の方は」

「あ、いりません、気になるなら大神殿にお浄財を奉納してください」

「は? い、いや、そういう訳にはいきますまい、これだけの高度な治療を」

「聖女候補の勤めの一つなので、お気になさらずに。他にも呪矢の患者さんが居たら教えて下さい、光魔法は呪いに特効があるみたいですから」

「ほんとになあっ、ほんとになあっ、なんで、このお方を取り込めなかったのだ、ドナルドさまよ……」


 アドルフ爺ちゃんは胸を押さえて苦しそうにいった。


 ああ、十三才の頃の王様の謁見での話か。

 でも、やだよポッティンジャー公爵家に貰われるなんて。

 あ、そっか、死ぬ前のジェームズ翁と暮らせたかもしれないのか。


 うーん、だが、やっぱり私はキンボール家のお養父様おとうさまとお養母様おかあさまがいいや。


 私とカトレアさん、学園長とバッテン先生は病室を後にした。

 わーい、治療終わりー。

 わりと良い人だったな、アドルフ爺ちゃん。

 脳筋だけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 偉大すぎる背中を見ると、息子たちはその影で腐ってしまうとはよく言うね……
[一言] カロルやコリンナちゃんに知られると「たらし」と言われる案件である 休日にランディさんが王都に来てるならマコトがランディさんをたらし込む所を魔法塔の行きか帰りに見る可能性はあるのか
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