表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

232/1513

第229話 聖女候補はアドルフ・ピッカリンを治療する

 重厚な馬車は王都をがたごとと音を立てて走る。

 音はうるさいがあまり揺れない。

 軍用みたいな馬車だな。


 馬車が止まって降りてみると、そこは王都の南にある、国立病院であった。

 アップルトン王国一の大病院だね。


 この世界の医療は、はっきり言って進んでいない。

 錬金術で作る各種治療薬の効果が凄すぎるんで、病人を泊めておく場所ぐらいの発展度だね。

 病院に入れる人は一握りで、あとは各地の教会で神父さんに治癒魔法を掛けて貰うか、錬金薬を買って自宅療養が多い。

 錬金薬って奴は、外科治療にも内科治療にも、抜群の効果を発揮するので重宝がられているだけど、呪矢みたいな魔法絡みの疾病だと、どうにもならないんだよね。

 あくまで効果があるのは、自然な傷と病気に限るのだ。


 国立病院の中に入る。

 大きくて綺麗な建物で、看護婦さんも美人揃いだね。

 一日いくらぐらいであろうか。

 馬鹿高そう。


「こっちだ、マコト」

「おじいちゃんの病室知ってるの?」

「ずいぶん長い間入院してるからね」


 そんなに具合が悪いのか。


 建物の真ん中にあるエレベーターにみんなで乗る。

 学園長とバッテン先生、カトレアさんに私だな。

 しかし、こういう閉鎖空間に入ったらダルシーはどうやって付いて来ているのだろうか。

 空でも飛んで付いて来てるのかな。

 あの子は謎であるよ。


 チン。


 ドアが開くと最上階である。

 うへえ、さすがはポッティンジャー派閥の重鎮だ、男爵家の隠居だというのに、良いところに入院してるなあ。


 奥の方のドアにカトレアさんの後をついて入ると、そこには大きい爺さんがいた。


 ベットの上で、寝て居るようだ。

 しっかし、爺さんなのに良い筋肉だな。


「んー、おお、カトレアか、よう来たな。お、おおっ、フランクッ久しぶりだのう、何年になるか、ん、くっ、ぐぐぐっ!」


 爺さんはいきなり苦悶の表情を浮かべ、ベットの脇にある薬を飲んだ。


「ちょっと、まっておくれよ、カトレア。今、じいちゃんはちょっと痛いでな、ぐぐぐっ」


 しかし、痛そうだな。

 体の中心に呪矢でも受けたかな。

 足とか腕ならともかく、体幹に近い部分に呪矢を受けたら社会生活は営めないよなあ。


「痛いのはどこですか?」

「ん、あんたは誰じゃ? カトレアの友達かい?」


 見てられないのでベットに寄って声を掛けた。

 しょうが無い、勝手にやらせてもらうよ、アドルフじいちゃん。


 ピッ。


 光分析魔法を打って、私は驚愕した。

 何本呪矢を受けてるんだ、この爺さん。

 五本、六本、七本、八本か。

 よく痛みで死ななかったな。


「アドルフはジェームズを庇って呪矢を受けたんじゃよ」

「まあ、あのとんまはメカケをこますときに、片手をやられおったがなあ、まあ、ジェームズらしいわい、わはは……、いたたたたっ」


 背中、足、腕と沢山残ってるな。


「お爺さん、治療するから動かないでね」

「な、なんじゃいったい」


 私は子狐丸を抜き、活性化している腕の呪矢のやじりをたたき切った。

 カチャンとやじりが実体化して床に飛んだ。


「な、何をする、いきなり切りつけるとはっ! 返事によっては……、おろ、痛くない」


 立ち上がりかけたアドルフ爺さんの前に手の平を出した。


「私はマコト・キンボール、大神殿の聖女候補です。これは治療刀の子狐丸。いま、お爺さんの体にある呪矢を全部切り飛ばして無効化させますから、じっとしていてください」

「聖女候補? それじゃあ、おまえさんがビビアン様を虐めてるっていう悪女なのかい、俺はそんな奴に治療されるのはまっぴらだなっ!」


 私は爺さんの言葉を無視して、腕にあるもう一本の呪矢を切り飛ばす。


 カーン。


 やじりがはねて床に転がった。


「切られたのに、痛くねえ、なんだ、その刀は」

「治療刀ですよ、つぎは足に行きます」

「お、おう、しかし、アレが長年の痛みの元かい?」

「呪矢と呼んでます」

「私もね、マコト君に治療してもらったんだ、膝が治ってね、走ることもできるんだよ」

「ほんとうか、フランク、そりゃすげえな、しかし」


 うるせえ、足を早く出せ。

 私は毛布越しにアドルフ爺さんの足を切り、呪矢を叩き出した。

 次は左太もも。


「と、とりあえず、聞きたい事はあるが、治してくれんなら、ありがたく受け入れる」

「左にちょっとずれて、はいっ」


 スパーン。

 カンカン。


 しかし、子狐丸はすごいな。

 切ってるのに血が一滴も出ないし、痛みも無い。

 もうすこし高度に使えば、神経だけ切断するとか、血管だけ切断するとかも出来る。

 けど、今回は体の中にある呪いのやじりを壊せば良いだけだから、楽な物だ。


 ベットで体の向きを変えて貰って、背中の呪矢も切る。

 まあ、切ると言うよりも刺して、呪いを壊す感じだけどね。


 背中は多いな。

 四本も刺さっていた。

 でっかい体で若いジェームズ翁を抱えるように守ったんだなあ。

 忠誠心が凄いな。


 肝臓にちょっと疾病があったので、合わせて切って直しておく。

 病の方は、ポーションの種類を特定して飲まなければならないから、症状が出ないと治されないんだよね。


 鏃は八本、床に並べると壮観だね。


「痛くないっ!! なんともないっ!! これは凄いっ! すごいぞ、マコトちゃん!!」

「いや、あははは」


 アドルフ爺ちゃんは満面の笑みで私に抱きついて、高い高いと持ち上げた。

 いや、私はあんたの孫娘じゃあないんですが。

よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。

また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ジェームズ翁に近い人はやっぱり人が良いね 当人含めてノリと勢いの人達なんだろう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ