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第22話 子爵令嬢と一緒にひよこ堂へ注文に

 アンソニー先生のホームルームが終わった。

 起立して、礼。


 うぇ~い、やっと放課後だ~。


「それじゃ、また後でね、マコト」

「あいよう」


 カロルはユリーシャ先輩への面会の手続きに、お手紙を書くらしい。

 エルマーは魔術部へ。

 カーチスは剣術部だろう。


 私はどうしようかな、と思っていたら、教室のドアの隙間からメリッサ様がこちらを覗いてらっしゃる。

 視線はじっと私を見ている。

 目を合わすと、ぷいっと横を向く。


 なんなんだろうなあ。


「なにか、ご用ですか、アンドレア様」

「……」


 声を掛けたら、おずおずと寄ってきた。

 猫ですか、あなたは。


「あのその、あのですね……」

「はい」

「あのあの」

「はい」

「キンボール様に、その、私の勘違いの謝罪をいたしたくまいりましたの」

「謝罪を受け入れますっ」


 以上、さあお帰りあそばされませっ。


「……」

「……」

「あ、ありがとうございます、それで、その、あの、お恥ずかしいのですが」

「はい」

「キンボール様と、その、あの、お、お友達にですね、な、なれれば良いなあと、その、お友達になって下さいっ!」


 うわ、きっぱり言われると断りにくい。


「良いですよ」

「うわあ、本当ですかっ! ありがとうございますっ、私、昔から聖女さまに憧れていまして、今代の聖女さまとは、是非ともお友達になろうと思ってたんですよっ、わあ嬉しいなあっ」

「そうですか」

「一緒に放課後、おしゃべりをしたり、街へ一緒にお買い物に行ったり、そんな些細ですけど、神殿では得られない物を、私なら差し上げられると思うのです」


 私は思わないがな。

 カロルとやるよ、そういうのは。


 あと、別に神殿でも、尼さんとおしゃべりしたり、孤児院の子供たちとお買い物に行ったりと、暖かい交流はあったのだが。

 なんだか、メリッサ様の想像の中の、お可哀想なお寂しい聖女候補さま像が大きいようだねえ。


「そうですか」

「聖女候補様は無愛想ですわねえ、お友達にはもっと、ほがらかにお声をかけると、友情も深まる物なのですよ」

「そうですか、アンドレア様のおっしゃる通りですね」


 にっこり。


「あ、そうです、アンドレア様のご実家の派閥はどこでしょうか?」

「え、実家でしたら、ポッティンジャー公爵さまの派閥ですけど?」

「あー、ざんねんだなあ(棒) 私、ポッティンジャー嬢ともめ事を起こしてしまいまして、このままでは、アンドレア様が派閥で虐められてしまうかもしれませんわ」

「ええーっ!! そんなあ」

「派閥のもめ事は恐ろしゅうございますわ。私のために、アンドレア様が悲しい目に合われるのは心苦しく思います、今回のお友達の件は無かった事にいたしましょう」


 いたしましょう。


「誤解です、キンボール様、派閥の領袖りょうしゅうのビビアン様はそれはそれは良いお方で、素敵な方ですのよっ。お互いに、なにか誤解なすってらっしゃるのよ。そうですわ、私がキンボール様と、ビビアン様の橋渡しをしますわ。お互い話し合えば、きっと誤解は解けますわ」


 パン屋の娘は目障りだから学園から出て行け、とか言う奴の誤解は解けないと思うけどねえ。


「こういう事は一年生だけで決められる事ではありませんわ。派閥の幹部様にまず相談では無いでしょうか」

「おっしゃる通りですわ。さすが聖女候補さまっ。私、今から幹部のお姉様にご相談してきます」

「そうですね、それまではお友達の件は保留という事で」

「私、がんばりますわっ」


 いっちゃえいっちゃえ、そして、パン屋の娘と和解とかあり得ないと怒られろ。


「あ、そうだ、メリッサさん、パンは?」

「あら、もう名前呼びをしてくださるのね、私も良いかしら、マコトさま」


 メリッサ嬢は、嬉しそうに、うふふと笑った。


「あ、失礼いたしました」

「良いんですのよ、嬉しいですわ。そう、パンね、その、昨日いただいた、パンがたいへん美味しかったのですが、他のパンの種類が解りませんのよ」


 学生配布用のパンのメニューチラシとか作った方がいいかなあ。

 まあ、今日は良いけど。


「それでは、一緒にパン屋まで行って、実際に見て選びませんか」

「平民のパン屋なんて……。メイドを走らせる場所では無いのですか?」

「いえいえ、ひよこ堂は上級貴族も歩いてゆくお店でして、国王陛下も学生時代には通われたそうですよ」

「まあ、陛下が、由緒正しいお店なのね」

「ぜひ、ご一緒に街へお買い物に」

「まあ、パンが最初だなんて、ちょっとしまりませんわね、でも、嬉しいですわ」


 うむ、パン屋の営業活動は大事だ。



 メリッサ嬢と連れだって、学園の外に出る。

 ご令嬢はあまり歩く機会がないのか、よちよちとした感じに歩いている。

 日傘とかさしているな。


 メリッサ嬢はドレス組だ、アップルトン魔法学園では、標準服という制服があるんだが、別に私服を着ても良い。

 なので、上流貴族は夜会に着ていくような豪華なドレスを身にまとって学園生活を送るわけだ。

 洗濯とかは大変じゃ無いのかねえ。

 A組にはドレスさんは少ないのだが、C組はほとんどドレスさんだ。


「ふう、最近歩いていませんので、凄い汗ですわ。淑女として恥ずかしいですわね」

「二年になったらダンジョン実習がありますよね、その時はどうするんですか?」


 セイバーみたいな装甲ドレスとか着ていくのかな。


「おほほ、淑女はダンジョンなんて野蛮な場所には行きませんわ。お休みしますのよ」

「さいですか」


 それじゃ、学園にいる意味ないじゃんよ。

 家でぶらぶらしてろよ、まったく。


 まあ、ご令嬢というのはそういうもので、有閑といって、暇なら暇なほど上品という考え方が根付いているらしい。

 働いたら負け、ニート上等って感じだな。

 カロルとか、コリンナちゃんみたいな勤勉令嬢の方が珍しいらしい。



 ひよこ堂についた。

 放課後なんで、そんなには混んでないな。


「おろ、マコトどうした?」

「顧客を案内してきたよ」


 クリフ兄ちゃんが目に見えて緊張した。


「お友達のアンドレア子爵家のメリッサ様だよ」

「ふう、そうでしたか」

「ちょと、あなた、なんでほっとしてますのっ?」

「いえ、ここの所マコトが、侯爵さまだ、辺境伯さまだ、伯爵様だと雲の上の方をお友達としてご紹介されてましたので、すいません」

「そ、それは、侯爵さまにはかないませんけれども、子爵でも立派な貴族なのですわよ」

「そうですね、申し訳ありません」

「ま、まあ、マコト様のお兄さまでいらっしゃるのだからゆるしてさしあげてもかまわないわ」

「ありがとうございます」


 あ、メリッサ嬢、ちょと赤くなった。

 クリフ兄ちゃんも、なかなかのイケメンだしな。

 まあ、身分違いで、どうなるものでもないけどね。


 メリッサ嬢を伴って店内へ入る。


「まあ、おいしそうなパンがいっぱいですわねっ。パンとはこうやって売られてますのねー」


 パン屋初体験かあ、どんだけ箱入りなんだろうか。


「兄ちゃん、メリッサ様の注文で一日一回女子寮に配達は可能かな?」

「うーんそうだなあ、一件ぐらいなら問題無いだろうけど、沢山になったり、校内で持ち込み販売とかすると、パン屋ツンフトがうるさそうだな」

「学園内のパン販売を仕切ってるのはどこよ?」

「名月堂だけどな」

「王家御用達の超一流じゃん、女子寮の下級貴族用のパンは酷いもんだったけど」

「ああ、名月堂が入ってるのは、上級貴族のレストランだけだよ、他は名月堂傘下のパン屋がやってる」

「なるほど、うちが入り込める可能性は?」

「王家か上流貴族の口利きが無いと入れないだろうなあ」

「うちは、あまりそういう営業してないからね」

「あんまり沢山注文とってもなあ、パンを焼き切れないからな」

「なるほどねえ」


 あんま無計画に注文をとっても生産が間に合わないか。

 大神殿から、定期的に大口注文も入ってきているしね。


「このパンと、このパンと、あと、聖女パンをください」


 メリッサ嬢が買うパンを決めたようだ。


「まいどありがとうございます」


 あ、そうだ。


「兄ちゃん、クッキーの空き箱ある?」

「あるよ、何に使うんだい?」

「ちょっと思いついた」


 人気のある八種類のパンを選んで、それぞれ包丁で四等分する。

 クッキーの木箱に、布仕切りを使ってくっつかないように八個の切ったパンを並べる。

 リボンにパンの名前を書き、上に乗せる。


「お、食べられるパンの見本か」

「そうそう、パンは食べてみないと解らない所あるしさ」

「まあ、綺麗ですわっ」


 蓋をして、メリッサ嬢に渡した。


「私に? 嬉しいですわ、マコト様」


 メリッサ嬢はふんわり笑った。


「小さいから、沢山のパンが試せるな、売れるかな」

「買いますよ、売って下さいな」


 兄のつぶやきを聞いた、めざといご令嬢がパン見本箱をほしがると、店内にいたメイドさんや、奥さん方が口々にほしがった。


「いろんな種類のパンは試してみたかったのですけど、ひよこ堂のパンは、殿方のおなかにも合わせるために、少々サイズが大きゅうございましょう。これならお茶の時間に楽しめて、良いですわ」

「これだけでも、ランチとお晩餐になりそうですわね。美味しそうですわね」

「うちのお嬢様はパンの種類が解らないので聖女パンばかりたべているのよ。これなら、色々試せて食の広がりがでそうよ」


 パン二個の分量だからね。

 小食の女の人には丁度良いかも。


「はいはい、並んでくださいね、今作りますので。マコト、名前リボンを作ってくれ」

「解ったよ、メリッサ様、お手伝いしていただけるかしら?」

「やりますわよ、楽しそうですわ」


 一時間ぐらい、メリッサ嬢といっしょに、パン見本箱を制作した。


「ありがとうございます、アンドレア様、これはお礼のクッキーです、お食べください」

「まあ、ありがとうございます。とても楽しゅうございましたわ」


 それは良かった。


 ユリーシャ様への手土産に、高級クッキーの箱を店から強奪して、私たちはひよこ堂を後にした。


「楽しゅうございましたわ、時々なら直接ひよこ堂さまへおうかがいするのもよろしゅうございますわね」

「うん、散歩すると気が晴れるしいいですよね」


 暖かい日差しの中、メリッサ嬢と一緒に学園に戻っていく。

 今日も良い天気だなあ。

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