第226話 聖女派閥は下町の食堂、ツバメ食堂に乗り込む
さて午前中は授業であるよ。
金曜日の時間割は、歴史、音楽、倫理、武術だね。
歴史は楽勝~、音楽もまあまあ、問題は倫理だよなあ。
基本的に世界が中世の終わりあたりなので、倫理は王家と貴族の関係を対応するもので、そこに庶民平民への視点なぞぜんぜん無い。
生粋の貴族が平民上りの私を馬鹿にするわけであるよ。
アップルトン王国の政治体制は、王家が貴族に領地を公認し、貴族が一定の税を王家に収める形となる。
王家も自身の領地である王領があって、そこからの税も国庫に入れている。
貴族領よりも、王領の方が税負担は楽らしい。
貴族というのは王家の家来というよりも、小型の国家みたいな感じかなあ、それが寄り集まってアップルトン王国を作っているのだ。
で、王家の家臣だけでは行政がなりたたないので、王立行政府に色々な仕事をさせているわけである。
日本で言うと官僚みたいなもんだね。
コリンナちゃんのお家の下水道局も行政府の一部だ。
下級官僚だと、地位は貴族だけど、お金が無くて大変だそうだよ。
などと考えていたら倫理の時間は終了である。
倫理の試験が大変そうだなあ。
前世の日本の常識に反する倫理規定が結構あるし。
ちょと、過去問題を図書室で探して予習しておこう。
三時限目が終わると武術の時間である。
皆でぞろぞろと武道場へ向かう。
更衣室で運動着に着替えて武道場へ。
バッテン先生がにこやかに私らを迎えてくれる。
準備体操をして、いつものように二人一組で型打ちをする。
カンカカン。
いつも通りコイシちゃんと打ち合いであるよ。
私は籠手と盾剣、コイシちゃんが木刀だね。
大分慣れてきて、盾剣で木刀を結構さばけるようになってきた。
「上手いみょん、足運びが良くなってきたみょんね」
「ありがとうコイシちゃん」
コイシちゃんに褒められると嬉しい。
「私ともやろうではないか」
「カトレアさんとか、よしっ」
コイシちゃんとカトレアさんがチェンジして、また打ち合う。
カンカカンカン。
カトレアさんはコイシちゃんと違って、やっぱり直線的ね。
得物もエッケザックス用に模擬エストックだし。
突き技が多いね。
突きは線の斬り攻撃じゃ無くて、点の攻撃なので、いなすのが難しい。
おおお、突きまくられて盾剣がめくられて一発胴を抜かれた。
痛い。
「突きは正確に受けないと、押し切られる」
「解った、難しいなあ」
打たれた所にヒールする。
ふう、痛かった。
「もう一回やろう」
「その意気やよし!」
カンカカンカンカン。
盾剣の剣の付け根に突きを合わすといいな。
端で受けるとまくられるか。
「上手い上手い」
「よしよし」
手元に集中するのがコツだな。
カトレアさんとカンカンやっていたら予鈴が鳴った。
うむ、意外に今日は勉強になったな。
更衣室で着換えていたら、バッテン先生が来た。
「キンボール、ちょっと良いかな」
「なんでしょう?」
「今日の放課後は暇かい?」
「まあ、暇ですが」
「それは良かった、放課後一緒に学園長室に行こう」
「どうかしましたか?」
「いや、例の帝国の呪矢の被害者を見てくれないかと言う話だよ」
「あ、解りましたよ。行きます」
「ありがとう、放課後に迎えにいくよ」
「おねがいします」
軍隊の被害者さんか、まあ、飛空艇も探さないといけないけど、呪矢の患者さんが先決か、長い間苦しんでるだろうからね。
飛空艇は最悪ダンスパーティの三日前ぐらいまでなら間に合う。
一日でマーラータウンまで飛び、王都にとって返す。
最大の速度で飛べば、二三時間で着けるはずだ。
ただ、ダンスパーティまで二週間を切ったから、急がないといけないのは変わらないね。
私たちは更衣室を出て、A組に戻った。
カーチス兄ちゃん他のB組の衆がもう来ておる。
「さあ、今日はどうするんだ、マコト」
「良く晴れてるし、今日は外かな。安くて美味しいランチを探そう」
「そうだね、安いランチのお店は楽しいね」
「まったくです、王子」
ケビン王子とジェラルドもやってきおった。
いや、おまえらは今日も付いてくるつもりか。
「カロルはランチのお店知らない?」
「わ、私はあんまり外食はしないから、アンヌはどう?」
虚空に問いかけると、アンヌさんが現れた。
「安いランチですか、しばらくお待ち下さい……」
そういうと目を閉じてアンヌさんは黙った。
なんだよ、なんかのデータのロードでもしてるのか?
「下町に美味しくて安いお店が出来たようです、まだ評判になってませんので空いていると思われます。ご案内しましょうか?」
「おねがいします」
「はい、ではご案内します」
アンヌさんの先導で廊下を歩き出した。
ぞろぞろ。
階段下でヒルダさんが合流し、校舎の出入り口でゆりゆり先輩が合流した。
校門の所にライアン君がいた。
「ライアンさん、みんなでお昼に行くんだけど、一緒にどう?」
「ありがとうございます、ご一緒しますよ」
そう言ってにっこり笑った彼はカーチス兄ちゃんの隣に並び、ケビン王子を見て固まった。
まあ、そうだろうね。
王都と言っても、前世の東京よりもずっと小さいので、壁沿いの下町までは歩いてすぐであるよ。
安っぽい平屋の並ぶ町並みの中に目指す料理屋さんはあった。
つばめ食堂、と、”日本語”で書いてあった。
中をのぞき込むと、下着屋のカマラさんがもぐもぐとカツ丼を食べていた。
目が合うと黙礼を交わす。
「カマラさん関係のお店?」
「うん、弟がやってるよ、レシピは私です」
「何があるの?」
「カツ丼と牛丼よ。王都には、お米の良いのが来てるから助かるよー、乙女ゲー万歳」
前世の知識で料理屋を経営しはじめたのか。
まあ、蓬莱料理店もあるから素材はあるんだろうなあ。
肉とかは良い物があるし。
「お知り合いですか?」
「うん、味に問題は無いと思うよ」
カマラさんが、私の後ろを見て固まっていた。
「ふうわあ、ケビン王子さま、ロイド王子さま、ジェラルドさま、カーチスさま、エルマーさま」
うわあ、ヒカソラファンだ、ヒカソラファンがおる。
「すごいなあっ、さすがは主人公ねっ!」
「主人公らしく、ビビアンさまに絡まれているよ」
「わあ、良い物見せて貰ったなあ。ハロルド、お客さん~~!! 常連さん見込み予定だから丁重にね~!」
店の奥から白衣を着たイケメンが出てきた。
「い、いらっしゃい、学園の方ですか、ど、どうぞ」
「どうぞ、お食事を楽しんで行ってくださいね」
カマラさんはそう言ってにっこり笑った。
異世界知識無双プレイをしておるなあ。
こういうのも楽しそう。
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