第216話 ビアンカさまから無理難題を出される
困った困ったと205号室へ戻り、寝間着に着替えてベットに潜り込む。
マジで困ったな。
派閥の主要メンバーのドレスと礼服をなんとか一週間以内に学園入りさせないといけない。
川船ルートは閉鎖されたから、早馬か? 馬でもヒルムガルドは通らなきゃだし、そうすると関税掛けられるだろうし。
ヒルムガルドは昔の関所だから、横を通ってすり抜けるルートが無いんだよな。
ヒルムガルド方面ではなくマーラータウンから東にいく街道を行っても、山脈があるから早馬は無理と。
詰んでるなあ。
ぐわーと、声を上げてしまい、下のベットのカリーナさんにどかどかと蹴飛ばされる。
すんません。
はあ、本でも読むか。
ビアンカさまの伝記を開く。
どっかにビアンカさまの飛空艇のありかとか書いて無いかなあ。
『飛空艇をあげる。さがせ』
開いた第二部『転落』のタイトルの下に、ビアンカさまからの光文字が浮き出た。
……。
はああああああっ?
おまっ、ちょっ!
なんだよっ! さがせってさあっ!!
場所を示しやがれでございますよっ!!
ほら、光文字で続報、続報!!
光文字が薄れて、消えたあと、しばらく待っていたが続報はない。
くうううっ!!
なんだようっ!!
くっそー、過去から見てほくそ笑んでやがるなあっ!!
なんだよなんだよっ!!
ちっきしょーっ!!
◇◇◇◇◇◇◇
メイドさんが起き出す気配で目をさました。
ベットのカーテンを開ける。
外はちょっと薄曇りかな。
「おはよー」
「おはよう、マコト、昨日はドタバタやってたけど、なんだい?」
「なんでもない」
「そうかいそうかい、まあ、若いからね」
「エローい」
何にもしてねえよっ、ビアンカさまを呪って暴れてただけだ。
さっさと仕事行け、メイドどもめ。
メイドさんが出勤したので、ハシゴを下りて、洗顔したり、用をたしたりしたあと、制服に着替える。
「なんか冴えない表情だなあ、どうした?」
「ドレスの輸送が出来そうだ」
「お、おお、マジかい? 関税無しで?」
「うん、関税も輸送費もかからん」
「ど、どうやって?」
「ビアンカさまの小型飛空艇を探す」
「……はい?」
ダルシーがケトルを持って入ってきた。
「お茶でございます」
二人で向かい合って、お茶を飲む。
うん、美味しい。
「で、なんだ?」
「ビアンカさまの小型飛空艇がどこかにあるらしい、探してそれを使ってドレスを空輸する」
「頭は大丈夫か、二百年前の飛空艇だぞ、潰されてどっかの飛空艇のエンジンになってるに決まってる」
「ビアンカさまから直々に通信が来た、ってことはどこかに残ってる」
「んー、信じられんが、子狐丸とかを、くれてるしなあ。うーん、あり得るのか?」
「過去から見て、面白がって『さがせ』って、言ってくるんだからあるんだろうさ」
「面倒な人だなあ」
「面倒な人だ、物をくれて気前が良いが」
ありかを教えてくれよう、もう。
「とりあえず、どこからだ?」
「まずは図書館、秘蔵書庫になんかあるかもしれない。あとビアンカさまの神殿、また映像が更新されてるかも」
「はあ、雲を突くような話だな」
「悪聖女さまだから」
「本当に悪い」
お茶を飲み終わったので、教科書を鞄に詰めて登校の準備をする。
ダルシーはカップを片付けた後、消えた。
ふう、カロルに相談しようかな。
私たちは205号室に施錠して、廊下を歩く。
「しかし、飛空艇かあ、燃費とかどうなのかね?」
「わからんねえ、船体だけあって、魔石は空だと、相当お金かかるね」
「まあ、関税十五倍よりは小さいだろうよ。まったくの無関税になるし」
「あ、そっか」
アップルトン王国の物流は、領をまたぐたびに、少額の関税を取られてるから、飛空艇で飛び越して一気に無税だと、けっこう儲かるな。
それはいい、それはいい。
エレベーターホールにはいつもの面子が揃っていた。
やあ、もう、派閥で食事をとるのが日常になってきたね。
今日はカロルは先に来ていた。
「おはよう、マコト」
「おはよー、カロル」
「やっぱりヒルムガルドを攻める? うちの騎士団も出せるよ」
「おーう。戦争はやめよう」
カロルは時々過激だな。
オルブライト領は領地が大きいし、騎士団もある。
ちなみに、騎士団の指揮権もカロルが譲渡されているそうだ。
「ま、朝ご飯を食べながら話そう」
「ん、なにかアイデアが出たのね」
「出たっていうか、なんというか」
私たちは食堂に入った。
いつもの席が空いている。
悪いなあ。
カウンターに並ぶとクララがつやつやしておった。
「クララ、昨日のお風呂はどうだった?」
「すごいねえ、疲れが吹き飛んだし、お肌がつやつや、月曜日の奴より効いてる感じよ」
食堂を見回すと、みなつやつやであった。
メリサさんに甘々ナッツ入りポリッジを頼んで受け取る。
トレイにポリッジとお茶を入れて、テーブルに運ぶ。
首を伸ばして命令さんを見ると、彼女と取り巻きはつやつやしていなかった。
さすがに、そこまで神経は太くないらしいね。
みなでテーブルにつく。
「いただきます」
「「「「「「日々の糧を女神に感謝します」」」」」」
やめろ、食堂中で私に感謝をささげるんじゃない。
もう、天丼だなあ。
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