第215話 女子寮食堂で命令さんが勝ち誇る
うーむ、もぎゅもぎゅ。
とりあえず、考えながらも晩餐であるよ。
いつものみんなと楽しいお食事なのに、良い考えが出ないなあ。
今日のメニューは、豚のソテー、オニオンスープ、キャベツサラダ、黒パンであるね。
もぎゅもぎゅ、黒パン美味しい。
「考えてないで、ご飯に集中しなさい」
「ご、ごめんなさい」
カロルに怒られちゃったぞ。
ママかよう、君は。
目の前にはエルザさんとヒルダさんだ。
まんなかにルが入るコンビ。
大人っぽくて怖そうな感じも共通点だな。
「最近は下級貴族食も美味しいですね」
「本当に、マコト様には感謝ですわ」
今日は卵料理出てないから、エルザさんのアレルギーが治ってなくても大丈夫であろう。
しゃくしゃく。
オニオンスープも美味しい。
うーん、なんとかしてヒルムガルドの経済封鎖を解きたい。
「そんなに、マコトが悩むなら、逆封鎖をかける?」
カロルがキャベツサラダを口に運びながら言った。
「え、どうするの?」
「ヒルムガルドに流れるオルブライト領の錬金薬品を止めるの」
「うーん、うーん、それは庶民の人に悪いしー」
上流貴族のブースから、命令さんが勝ち誇った笑顔でやってきた。
「ほっほっほ、そんな事は織り込み済みよっ!! そんな事になった場合はポッティンジャー領から格安で錬金薬を売ってもらえるのよっ!」
「くっ、手を回してましたか」
「ほっほっほ、やっと気づいたみたいねっ! あなた方、聖女派閥のドレスは一着も届かなくてよ、欲しければ、十五倍の関税を払うのねっ!!」
命令さんは、勝ち誇り高笑いと共に、そう宣言した。
「おまえ、マーラー家の報復を恐れないのだな……」
ヒルダさんがすごむと、命令さんは一歩下がった、が、踏みとどまる。
「ほーっほっほっほっ!! 甘いわね、ヒルダ・マーラー、私どもの家は、昨日付で暫定的にポッティンジャー公爵派閥に入りましたの、攻撃してきたら、条約違反ですわっ!!」
「くっ、そんな手が……。だが、ばれなければ……」
あー、そっちも折り込み済みか。
聖戦かけるって脅かしても、こっちも剣と弓で引っかかるしな。
力業も駄目かあ。
「さて、ホルスト様、どうしたら、その法外な関税を外してくださいますか?」
私はにっこりと作り笑いを貼り付けて、命令さんに聞いて見た。
「そうねえ、まずは私に土下座して戴こうかしら」
ヒルダさんから凶悪な殺気が上がった。
「その上で、ホルストさま、いつも生意気を言ってもうしわけありませんでした、お許しくださいと言ってちょうだい」
エルザさんからも殺気が上がった、聖剣リジンがワーーンと起動音を立てる。
カトレアさんが立ち上がる。
コイシちゃんも立ち上がった。
「その上で、そうねえ、私の靴を舐めてちょうだい。そうしたら関税を五倍ぐらいに負けて差し上げてもよろしくってよ、ほーっほっほ!」
カロルが口をナプキンで拭いて立ち上がった。
ジャリジャリジャリとチェーン君が立ち上がる。
「関税をただにしろ、そうしたら、私がマコトに交渉してやってもいい」
コリンナちゃんも立ち上がった。
「はっ! なにを、男爵家の娘風情がっ!! 私に直答を……」
聖女の湯闘争委員会の人が立ち上がると、下級貴族ブースにいた全女生徒が立ち上がった。
「あなたは聖女さまが、われわれにどんな素晴らしいことをしてくれたか忘れたのっ!! 恩知らずっ!!」
「食事も、お風呂も、聖女さまがやってくれたことじゃないかっ!! あんたはそれを豚のようにおいしいおいしいって食べてたじゃないかっ!! この、豚足令嬢!!」
「な、なんですってーっ!!」
命令さんが激怒しても、下級貴族ブースの子たちの激情は止まらない。
「「「出て行け、豚足令嬢!! 豚足令嬢!! 豚足令嬢!!」」」
「あ、あなたたち、こ、この私、ケリー・ホルストに向かって、なんてことをーっ!!」
女生徒はなおも豚足令嬢コールと共に足を踏みならした。
わあ、私は愛されてんなあ。
あと、命令さん嫌われすぎ。
彼女は肉をくれと言ってきた事はあったが、美味しい美味しいと食べた事はないぞ。
「やめて」
私が一言言うと、みなピタリと止まった。
「殺す?」
「こ、殺さないよ、カロル」
カロルはむっとした顔をした。
彼女は時々過激だよね。
「みんな聞いてね、経済封鎖は法律に乗っ取って行われたホルストさまの権利です。王様でも剥奪できない権利です。ホルストさまと、後ろに居るデボラさまは、条約の隙をついて、我々を攻撃してきました。でもね、派閥抗争というのはそういう物なのです。お互い知恵をふりしぼって、闘争するわけで、勝ったり負けたりします」
「そ、そうよ、解ってるじゃない、平民上がりにしては……」
命令さんがビビり声で言った。
「このままホルストさまを全員で撲殺すれば、剣弓毒を封じた条約にはひっかかりません」
「ひ、ひいいいいいいっっ!!」
命令さんは恐怖の悲鳴を上げた。
「でも、そんな事をすれば、みんなが罪人になっちゃうし、ホルストさまのお父様が怒って関税を続けてしまうので、ホルストさまは撲殺され損です」
「や、やめなさいよ、あなたっ!」
「かと言って、十五倍もの関税を払う事はできません。これから聖女派閥は知恵を合わせて突破方法を考えます。猶予は一週間ほどあります。ですので、みなさんも勝手にホルストさんに意地悪したり攻撃したりするのはやめてくださいね」
食堂内はシンとした。
「でも、聖女さま、私は悔しくてっ!!」
聖女の湯闘争委員会の子が涙ながらに訴えた。
「大丈夫よ、ありがとう。でも、私に任せておいて、かならずホルストさんとデボラさんをぎゃふんと言わせて、新入生歓迎ダンスパーティには素敵なドレスで参加するわっ!」
上級貴族ブースに座っていたエステル先輩とヘザー先輩が手を叩き始めた。
それは一瞬でみんなに広がり、万雷の拍手となって私を包んだ。
だが、そうは言ったが何にもアイデアは無いのだ。
あはははは。
どうしようー。
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