第214話 コリンナちゃんと地理上の情報を整理する
「マコト様、ドライヤーを使っても良いですか」
「んー、まあ良いか」
「マコト、まだ特許が」
「もうちょっとで発行されるから、短い時間で模倣されないって、現物も手に入らないし」
「それもそうかしらね。うーん」
ダルシーにドライヤーを掛けて貰う。
ブイーーンとな。
更衣室に居る、脱衣前後、着衣前後の女生徒たちが興味津々に横目で見つめておるが、なんなのかは解るまい。
「それ、なんですか?」
しまった、新聞記者が居るのを忘れていた。
「オフレコ魔導具です。聞かないでください、書かないでください」
「ずっとですか?」
「来週になったら良いですよ」
「ああ、特許関係ですね、解りました。来週お聞かせください」
ほっ、レイラさんと一緒なのをすっかり忘れていたよ。
「すごい、髪があんなに早く乾いてつやつや……」
新聞記者の観察力は凄いな。
さあ、髪も乾いた、ダルシーしまいなさ……。
メリッサさんと、マリリンと、エステル先輩が並んでる~~。
「マ、マコトさま?」
「かけてさしあげなさい」
「「「わーい」」」
んもう、みんなドライヤー好きだな。
そして、ちゃっかり並ぶんじゃないよ、エステル先輩。
ちなみにヒルダさんは、鶏卵と命令さんの陰謀の裏取りをすると言って、とっとと出て行った。
まあ、私としては彼女とお風呂に入れて、またちょっと親密になれた気もするから良いか。
「しかし、派閥抗争のネタといい、マコトさまにくっついていたら沢山スクープを拾えそうですね」
「やめてねー」
新聞記者にくっつかれても良いことは無いなあ。
いくら魔法学園新報の記者でもなあ。
ガドラガ大迷宮の遭難事故について調べてるらしいから、最後にはまた私の所に来そうだなあ。
可哀想だから、あまりベロナ先輩の事についてはしゃべりたくないんだよなあ。
まあ、黙っとこ。
さて、みんな髪も乾いたので、大浴場前で解散です。
「じゃあ、みんな、晩餐まで解散ね」
「「「「「はいっ」」」」
いや、エステル先輩は唱和せんでいいよ。
あんたは国王派閥でしょうが。
コリンナちゃんと階段に向かう。
しかし、肌がつやつやだねえ。
「マコトは肌がぷにぷにだな」
「私は元からだ」
「そういやそうだった。しかし経済封鎖か、いやな事をしてくるな。図書館行って、地図でも調べるか? 晩餐までまだあるし」
「そうだね、そうしよう。図書館なら大きい地図があるからね」
私たちは正面玄関から出て、図書館へ向かった。
校舎の中の図書室の方が近いが、図書館の方がなんか良い地図がある気がする。
◇◇◇◇◇◇◇
図書館の中に入ると、またルカっちがいた。
「おーう、マコト」
「おーう、ルカっち、地図はどこよ?」
「あっちの棚、巻いてある奴は大きいぞ」
「あんがと」
ルカっちが指し示した棚に向かい、でかい羊皮紙の巻物を取った。
アップルトン王国全図とある。
「誰?」
「ルカっち、図書館の主みたいな奴」
「ほえー、居るんだねえ、そういう人」
大きいテーブルの上に地図を広げる。
でっかいなこれ。
「命令さんのお家の領地のヒルムガルドはー、ここか」
「ヒューム川の上流だなあ。マーラー領はええと、ここだ」
マーラー領はヒルムガルドから見ると北北東ぐらいの方角にある。
街道でヒルムガルドまで繋がっているね。
「マーラー領から出た糸、布地は、ヒルムガルドで川船に乗せられて王都に着く感じだな」
コリンナちゃんがヒルムガルドから王都までのヒューム川の流れを指でなぞった。
結構距離があるな。
「私らのドレスは今、マーラー領で絶賛縫製中な訳だ、注文したのは一週間前、川をさかのぼるけど馬の旅だから、一週間掛けてマーラー領に到着」
コリンナちゃんが王都からマーラー領へ指を走らせる。
川沿いの街道を馬で行き、宿場町で泊まりながら、ヒルムガルドへ、ヒルムガルドからはマーラー街道を使って馬の旅。
こうしてみると、注文書を持って行くのも大変だねえ。
「で、一週間たって、ドレスが完成、馬車でヒルムガルドへ行く」
「そうだね、流通は大変だ」
この世界は鉄道もトラックも無いからなあ。
どっちかあれば一日二日で着くものを。
「で、命令さんは、ここで、マーラー領からの衣料品に関税をかけると。いくらぐらい掛けると思う?」
「ドレスが半額で出来たって事は、倍かな?」
ルカっちが地図をのぞき込んだ。
「違う、関税の最大限度までかけるよ、十五倍だ」
「「そんなにっ!!」」
「法律で、交易都市の領主が関税を決める権利を持っているからね」
まじかー、十五倍の関税なんか払いようがないぞ。
しかも、ドレスは元々高額商品だ。
「詳しいね、ルカ先輩」
「僕は読書家だからね。君の名は」
「コリンナですよ、ケーベロス男爵家です」
「ああ、姉がいたね、美人で人気者だった。よろしく、コリンナ」
「はい、よろしくおねがいします」
お、なんだかインドア系同士で仲良くなれそうっぽいね。
「しかし、十五倍は払えないなあ」
「王子に直訴したらどうかな?」
「交易都市の領主の権限は国王でも、そうそう奪えない。他の貴族からの反発を招くからね」
「くっそー、王家つかえねえっ」
ルカっちは興味を失ったのか、また貸し出しカウンターの向こうに帰って本を読み出した。
「他の道はないのかな?」
「陸路だったら」
マーラー領の領都、マーラタウンから街道を追ってみる。
うーん、どうやっても、王都の北東の山岳を越えられない。
陸路よりも川の運輸の方が二倍ほど早いんだよねえ。
「あっ!! 私天才かもっ! 思いついた」
「なんだい、言ってみな、たぶん馬鹿アイデアだけど」
「飛空艇を王家から借りようそうしよう」
「馬鹿」
「飛空艇のレンタル料は、関税を十五倍払うよりも高いぞ、たぶん」
カウンターの向こうのルカっちに突っ込まれた。
「そ、そうなの?」
「飛空艇は魔石を馬鹿みたいに食うんだよ。だいたい貸してくんねえよ」
「にゅ、入浴剤一年分で駄目かな……」
「ああ、あと、黄金の暁号はガドラガから帰ってきたら、しばらくドック入りで整備だよ」
ルカっちが答えてくれた。
「ぐわー、白銀の城号は?」
「おまえ、ドレスを運ぶのに王家が外遊する船を借りるつもりかっ」
「だめか~~~」
ぐわー、ドレスがドレスが。
困ったぞ、これは。
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