第210話 入浴剤校内販売の旅
小瓶五十本と大瓶二十本ができあがった。
計算では大瓶は九週間持つはずだが、どうなるやら。
小瓶もすぐはけそうだなあ。
「さっそく配りに行こう、大浴場にも入れるからカロルも入ろう」
「……いやよ」
「えー、えー、ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
「マーコートー」
あ、いかん、マジギレされる流れだ、引いておこう。
「わかったよう、ちえーっ」
「なんで、一緒にお風呂に入りたがるのよっ」
「カロルを愛しているから」
カロルの頬が赤くなった。
「んもうっ、馬鹿っ」
「うひひ、さーせん」
まずはどこから配ろうかな。
ゆりゆり先輩から行こうか。
小瓶からだな。
「ゆりゆり先輩は今どこにいるのかな」
「……派閥の集会室におりますよ」
ダルシーが現れて教えてくれた。
本当かな。
一拍の間があったけど、なんなんだろう。
「じゃあ行きましょう」
「わかった、ダルシーありがとう」
「いえいえ」
「あ、ちょっとまって」
ダルシーを呼び止めた。
頭を入念になでてあげる。
なでなでなでなでなで。
「飛空艇の時の活躍を褒めてなかったわ、ありがとうダルシー」
「そんな、当たり前の事をしただけで……」
ダルシーは目を細めて嬉しそうだ。
よしよし。
空飛ぶメイドは高速移動に大変に助かるね。
入浴剤の大瓶を三本、小瓶を十本ほど鞄に詰めて錬金室を出た。
「先にコリンナちゃんを捕まえないとだめよね。書類に書き込んで貰わないと」
「そうね」
「……コリンナさまは、ペンティア同好会の部室におります」
「ありがとうダルシー」
一拍置いてるのはどこかから位置を聞いてるのかな?
諜報メイドは不思議であるね。
ダルシーはまた姿を消した。
私はカロルと一緒に女子寮を出て、集会棟に向かう。
女子寮からだと、外周路を使った方が早いね。
はあ、緑が春の感じで美しいなあ。
春の花の下を行くカロルが可愛いんじゃあ。
うひひひ。
「マコト、締まらない顔はやめなさい」
「うひひ、ごめんごめん」
「直ってないし」
しばらく歩くと五階建ての集会棟が見えてきた。
上の方の家賃は高いんだろうなあ。
入浴剤で大もうけして引っ越そうかな。
ペンティア同好会のドアをノックする。
「はあい」
カーター部長の声がして、ドアが開いた。
中では、コリンナちゃんと、太っちょのセシル先輩がペンティアで対戦しておった。
「あ、マコト、カロル、どうしたの?」
「入浴剤を売るから、会計処理してよ」
「そうか、いいよー」
「お駄賃は出すわよ」
「そりゃ助かるよう。ちょっと待ってて、もうちょっとで終わるから」
コリンナちゃんはコマを動かした。
「あなたたちはガドラガ大迷宮から帰ってきてすぐペンティアなの?」
「そうともさー、迷宮とか正直行きたく無いんだけど、進級があぶなくなるからね」
「どうだったの? 大迷宮は?」
「思ってたよりも楽だったかな、浅い階でうろうろしてただけだけどね、一回目だし」
これが普通の生徒のパーティなんだよなあ。
ベロナ先輩のパーティが優秀すぎるようだ。
ガチ迷宮攻略パーティは、王都近郊のダンジョンを巡って実力を付けるので、ガトラガでも結構深い所まで行くらしい。
「よし、チェックメイト」
「うわー、やられたーっ、勇者を隠してたかあ」
「心理上の盲点って奴ね、女王は陽動よ」
うむ、着実にコリンナちゃんはペンティアが上手くなっているようだ。
コリンナちゃんは立ち上がって、こちらに寄って来た。
「で、何をすれば良いの?」
「オルブライト商会の入浴剤ブランド『マコト』の金銭管理と、在庫管理、あと小瓶のシリアルナンバーの管理よ」
いつから入浴剤ブランドに私の名前が付いてるのだ。
まあ、解りやすいといえば解りやすいけれども。
「おお、大事ね、オッケーオッケー、必要な書類は?」
「会計簿と、在庫管理帳と、ナンバー管理表かしら。大瓶は二十本以下、小瓶は百本以下ね」
カロルの要求に沿って、コリンナちゃんが羊皮紙に書類を作っていく。
やっぱ、この世界はエクセルが無いから大変だなあ。
「小瓶の管理番号は? 六桁ね、000001から瓶はあるのね。了解~」
「やっぱりコリンナに頼むと書類仕事の安心感が違うわね」
「まあ、実家がこういう仕事だしね」
「じゃ、ゆりゆり先輩に売りつけに行こう」
ペンティア同好会のメンバーに挨拶をして、隣に移る。
聖女派閥の集会室に入るとお茶の良い匂いがした。
今日はお洒落組とゆりゆり先輩だけだな。
「あら、こんにちは、マコトさま」
「ごきげんよう、マコトさま」
「できましたのっ!」
ゆりゆり先輩がたちあがって、こちらへ小走りでやってきた。
「はい、できたてほやほや、シリアルナンバーも一番です」
「これがあれば、ペントハウスのお風呂も聖女の湯ですのね」
ゆりゆり先輩は小瓶をさしだした私の手を握りしめた。
なんか、しっとりとしててキモイ。
「ユリーシャ先輩、一本一万ドランクです」
「……、お、お高いのね……、でも、十本頂くわっ!」
ゆりゆり先輩は大金貨をお財布から出した。
「今のところ、一人二本までになっております」
「そうなの、お釣りをいただけるかしら」
「ダルシー」
ダルシーを呼んで、大金財布から八金貨のお釣りを出して、ゆりゆり先輩に出した。
大金を持ってると危ないので、小銭以外のお金をこのお財布に入れて、ダルシーに持っていて貰っているのだった。
「まいどありー」
ゆりゆり先輩は熱っぽい目で小瓶を見つめていた。
彼女が、今晩お風呂でミーシャさんと何をするかは、まったくもって興味が無い。
「あら、聖女の湯の元ですの?」
「そうよ、小さいバスタブ用で、一本一金貨よ」
「け、結構しますのね」
マリリンが引きつった声で言った。
「上級貴族向けなのよ」
「さすがに手がでませんわね」
メリッサさんがため息交じりに言った。
まあ、伯爵家以上じゃないと、一回のお風呂に一金貨は無理だろう。
素直に地下大浴場にいけですよ。
「あ、今日も地下大浴場に聖女の湯の元を入れるんですの?」
「そうだよー、あちこちに売った後でね」
「私も付いていってかまいませんこと?」
「わたしもわたしも」
「いいよーん」
お洒落組二人が増えて、私たち入浴剤販売班は五人パーティになった。
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