第20話 聖女派閥が本格的に動き出した訳で
お昼休みになったので、いつもの四人で外に繰り出し、ひよこ堂でパンを購入。
学園近くの自然公園の東屋でランチとなったのである。
「うむ、話をまとめると、マコトはおしっこを掛けられるのが好きで、カロリーヌ嬢は痛いのが好き、で良いのか?」
「ちがわいっ! お前はどんな話を聞いたんだっ、カーチスっ!!」
「ちちち、違うわよ、い、痛いのなんか、す、好きじゃ無いんだからっ!!」
「なるほど……、よくわからない」
エルマーは二つ目のマヨコーンパンを口に入れながらつぶやいた。
かー、だから思春期真っ盛りの馬鹿坊主どもはーっ!
乙女の秘められたわくわく冒険心を、1ミリたりとも解ってくれねえっ!
「というか、どうして女子の武術の時間の事をカーチスが知っているわけ?」
「ブロウライト家の諜者は優秀なんだよ」
「諜者っ? 誰っ、それっ?」
「ばらしたら諜者の意味がないだろう、馬鹿だなマコトは」
「くうううっ、カーチスのくせにっ」
「それよりも、話題の人間発電所という技を見せろ」
「わ、わたしは絶対掛かってあげないからねっ!! マコト!」
「う、うん、ソウデスヨネ……」
というか、制服姿の女子に掛けられる技じゃ無いぞ。
あ、ダメダメ、想像しちゃ駄目、よだれ出ちゃう。
素数、素数を数えるんだ。
ひっひっふー。
「じゃあ、俺に掛けてみろ」
「なあ、カーチスさんや、この技は股間に手をやるんだな、そうするとだな、君のデリケートなアレが、私の二の腕にぺったりとだな」
「そ、そんな破廉恥な技を令嬢に掛けたのかっ」
「ご令嬢には一撃で沈められる急所がないんだよっ」
「マコトは……、容赦という物が無い」
「じゃあ、俺がエルマーに掛けるから、教えてくれ」
「気がすすまない……、が、まあいい……」
私は芝生に出て、カーチス兄ちゃんにカナディアン・バックブリーカーのやり方を教えた。
さすがの脳筋カーチスなので、すぐコツを覚えて、エルマーを担ぎ上げた。
「わははは、なんだこの技っ、実用性がまったく無いぞっ、わはは、だが、楽しいっ!!」
「いたい……、くるしい……」
エルマーも掛けてみたいというので、彼にも教えた。
意外に力があるな、エルマー。
「おお……、これが人間発電所……、掛けるのが大変すぎる……」
「あああ、思ったより痛い、エルマー、降参、降参っ!」
「男の子って、馬鹿で楽しそうで、いいわね」
カロルが聖女パンをくわえながら笑って言った。
エルマーは満足するまで、カーチスを、ゆっさゆっさ揺らして、芝生の上に下ろした。
「いててて、揺らしすぎだエルマーっ!」
「すまない……、途中から、なんだか楽しくなった……」
「痛いのはここ?」
カーチスの腰に『ヒール』を掛けた。
「おお、さすが光魔法、一瞬で痛みが引くな」
「マコトの……、聖女らしい事を、初めて見た……」
「なによ、もうっ。ほら、エルマーも、腰を出して」
エルマーの腰にもヒールを掛ける。
カロルはニコニコ笑ってソーダを飲みながら、芝生まみれの私たちを見ていた。
なんか、お日様の下で、男子と馬鹿をやるのも楽しいな。
「マコトと居ると……、新しい楽しい事をいっぱい体験できる……」
「ああ、なんか楽しいな、誰かと取っ組み合うなんて、いつぶりだろうかな」
「僕は……、はじめて」
カーチスが遠い目をした。
エルマーは邪気の無い笑顔を浮かべる。
暴れん坊どもの服についた芝生を、ぱんぱんと落としてやって、東屋へ戻る。
「さて、聖女派閥、定例会、第二回を始めるぞ」
「なにか進展があった?」
「今朝の壁新聞前で、聖女派閥を知った何人かの下級貴族から参加の打診があった。すばらしい広報だったぞマコト」
「単にマクナイト卿に絡まれただけなんだけどね」
「ジェラルド卿から、聖女の地位は小国の王女クラス、とのお墨付きを貰ったのが大きい、やはり奴は切れるな」
「僕の父も……、王国派閥から、聖女派閥へ、移動しても良い、とのこと……」
「クレイトン家は、あまり政治に関わらないからな。だか腐っても侯爵家だ、居てくれるだけで、派閥の価値がぐぐっと上がる、助かるぜ、エルマー」
「まかせろー……」
「あと、大物だ、南の公爵家アップルビー家から参加の打診がきているな」
「え、三大公爵家の一つじゃん、自派閥だってあるんじゃない?」
「アップルビー家はあまり派閥を作りたがらないから、今までは王国派閥だった、なぜ、こちらに参加しようとしてるのは不明だな、王家の紐付きか?」
「なんだろう、覚えが無いよ」
「マコト、アップルビーは、ユリーシャ先輩のお家よ」
「あ、あのおっぱい先輩っ」
「どこで人を覚えているのだ、お前は」
ゆりゆり先輩かー。
ゆりをこじらせて派閥参加かなあ。
だが、ありがたい事だ。
「公爵家一つ、侯爵家一つ、辺境伯一つ、伯爵一つ、聖女候補一人、なかなかの派閥ね」
「マコトが連日やらかすせいで、聖女候補ファンの層ができつつあるし、もう少しで想定していた派閥の大きさになると思う」
「派閥抗争……、初参加で、とても新鮮だ」
「現状を整理しよう。現在学園を二分している派閥は、国王に付き従う王国派閥、そして、上流貴族を中心としたポッティンジャー公爵派閥。そこに、我が聖女派閥が切り込んで、将来的には三派閥の三すくみ状態まで持って行きたい。そこまで行けば、ポッティ公の派閥も軽々には動けまい」
「派閥の……、運営に長けた者が……、欲しいな……」
「ジェラルド卿を取り込みたい所なんだが、そうすると、王国派閥の力が激減してしまうからなあ」
「バランスが大事よね」
できればポッティ公派閥の貴族を切り崩したいけど、こっちの派閥に味方したふりの埋伏の恐れもあるしなあ。
難しい所だね。
なんとか、毒飼いの令嬢、パメラ・ゴーフル子爵令嬢を救って、こちらに取り込みたい所だけど。
うーむ。
教会の諜報部隊の手を借りるかなあ。
「大神殿の兵は学園内に駐留できないのか?」
「できるけどー、できるけどー、あの人たちコワイから」
「リンダ・クレイブル様が大神殿に来てるそうよ」
「うっはー、やっかいな人が来てるな」
「普段は、いい人なんだけどねえ、どうも考え方が過激で」
「今度紹介してくれ、一度、大神殿の狂天使と手合わせしてみたい」
もう、この戦闘狂は。
まだ見ぬ強敵が大好きでいかんね。
「あと、放課後にでも、アップルビー公爵令嬢にご挨拶に行ってくれ」
「りょうかーい」
「私が、ユリーシャ様に、ご訪問のお手紙を出してお約束をしておくわね」
「ありがとう、助かるよー」
「いいのいいの、マコトにはメイドも執事も居ないしね」
「私も諜報メイドを雇った方がいいのかな」
忍者メイドとか、憧れちゃうな。
『ビビアン嬢の動向を探って参れっ』
『ははあっ』
みたいなー。
「うーんどうだろう、マコトの部屋にメイドは置けないだろうし」
「神殿の侍女神官には諜報の心得がある者もいるだろうが、いらないのではないか、エルマーも持ってないし」
「魔法卿の家には……、諜者はいらない。政治闘争を……、する暇があったら、研究だ」
「将来、マコトが聖女さまとして、諜者を使う必要もあるかも、だから、学園で慣れておくというのも考え方よね」
「どうしようかなー」
「まあ、そこは自分で考えろ、では、第二回聖女派閥会議を解散する」
「いつも、議長ありがとう、カーチス」
「なんの、まかせておけ」
そう言うと、カーチス兄ちゃんは太く笑った。
まったく、頼りになるやつだぜっ。
攻略対象としては、あんまり萌えないけどな。
しかし、ゲームやってるときは、裏でこんな複雑で激しい政治闘争が動いていたとは思わなかった。
ビビアン嬢を王妃にするために、沢山の人たちが働いていたのだなあ。
社会って複雑だ。
よし、放課後はユリーシャ先輩の所へご挨拶だな。
うむうむ。
しかし、今日の午後は、魔術の授業はあるんだろうな。
また、ぼっちだと辛いぞ。




