第204話 二層目の病室で焼け焦げたスーザンを治療する
太った先生の先導で階段を駆け上がる、次は一階上らしい。
「先生、寄生型魔獣の被害者を搬送するのは、国法で禁じられていますが」
「知っている、解っていた、だがな、だが、イルッカ君は、イルッカ君は、王都に帰りたいと、帰りたいと、そういって……」
先生は人情家のようだ。
声を詰まらせて、涙を流している。
でも、寄生型魔獣はやばいので、これは問題になりそう。
「ヒルダ先輩、無かったことにしましょう」
「だけどね、マコトさん、一歩間違えば王都が廃都に成るところだったのよ」
私は感知光魔法を打った。
カーン。
いる。
船倉の奥にいる二匹のネズミが寄生型魔獣の幼虫に寄生されている。
「私が全滅させますから。問題ありません」
「私が厳罰を受ける。聖女さんがそんな事をしなくていいんだ。イルッカ君が助かったなら、私は収監されても本望だよ」
良い先生だなあ、太ってるけど。
ヒルダさんを見ると、彼女は肩をすくめた。
考えるのは後にしよう。
次の被害者の命を救うのを優先だ。
「ヒルダ先輩、船員さんに言って、ハッチを開けるのは待っていて貰ってください」
「いるの? まだ」
私はうなずいた。
っても、感知魔法で船の外に逃げても追い詰めるけどなあ。
ヒルダさんは身を翻して階段の方へ駆けていった。
先生は私を二層目の奥へ先導する。
「ここだ、彼女も酷い状態で」
「アントーン先生っ!! スーザンは死んだりしませんよねっ」
ドアの前にたむろっていた女生徒の群れが太った先生を捕まえた。
「大丈夫だ、聖女さまが来てくれた」
「「「ああっ!!」」」
彼女たちは一斉に手を合わせて私を見つめる。
「スーザンを、スーザンを助けてください、金的さんっ!」
「マジックポーション余ってないかな?」
「こ、これを」
赤いマジックポーションの瓶が三本差し出された。
カロルが作った物かな?
学園の生徒が持ってるならそうだろうな。
「一本もらうね」
私は瓶を受け取り、コルクを抜いて飲み干した。
まっずーーっ!!
なんだ、このケミカルな苦みは。
でも、お腹の底がぽかぽかして魔力が少し回復するのが解った。
「ありがと、ちょっくら治してくるね」
「おねがいします、おねがいします」
アントーン先生がドアを開けた。
キツい軟膏の匂いと、膿の匂いがした。
ベットの上に居たのは、少女の残骸だった。
体の半分が焼け焦げて、左腕は無く、右足と左足も欠損していた。
火に焼かれた感じか。
「だれ?」
しゃがれた声がした。
意識があるのか。
「聖女候補、治しに来たよ」
光の診断魔法を当てる。
ピッ。
酷い状態だなあ、よく生きてるな。
「わたしは……いいから、ベロナを……治して……上げて」
私はアントーン先生を見る。
「ベロナ・ベントゥラ伯爵令息、このパーティのリーダーだ、腕をキメラに食われてしまったが、命に別状は無いよ」
私はうなずいた。
スーザンの寝るベットに腰掛ける。
「先にあなたよ、スーザン」
「死んでも……、いい……、ベロナが……たすかったなら……、私たちの……望み」
「ベロナも治すし、スーザンも治すわ、任せておいて。みんな死んでしまったらベロナだって辛いわよ」
「二人で……、生き残っても……」
「イルッカ君も生き残ったよ、スーザン君、君も生き残ってベロナ君を支えてあげないと」
「だって……、治らない……、エクスポーションが何本いるか……。父はそんなに……、お金を……」
「うるせえっ!! 治すって言ってんだろっ!!」
私はキレて、スーザンの焼けただれた顔に手を置いた。
『エクストラヒール』
ピカッと手が光を帯びると、スーザンの顔がみるみるうちに治っていく。
なんだなあ、自分の能力ながら、チートだよなあ。
「え? え?」
『エクストラヒール』
肩から焼け焦げた腕にエクストラヒールを掛けていく。
ぼろぼろと炭化した皮膚が剥げ落ちて赤ん坊のようにつやつやした肌の腕が生まれていく。
『ハイヒール』
胸の辺りとか、お腹の焼け焦げはハイヒールで十分だ。
『エクストラヒール』
右足の欠損部から足が生えてくる。
『エクストラヒール』
右足の無くなった足首が戻り、足の先が戻る。
スーザンの背中に回り、皮膚の焼け焦げをハイヒールで治す。
「というか、何にやられたのこれ?」
「キ、キメラです、火を吐かれて、直撃して、足を食われて」
そう言うと恐怖を思い出したのか、ぶるっと震え、スーザンは涙を流した。
キメラかあ、大物だなあ。
「生きられるんですか、私、ベロナと、イルッカと一緒に」
「生きなよ。死んでもつまんないよ」
スーザンはそれを聞くと、口を大きく開けて、子供のように号泣した。
感激屋らしいアントーン先生も涙を流した。
「スーザンくん、よかったよかった、ああ、ありがとう聖女さん、本当にありがとうっ」
「先生が諦めないで飛空艇で運んできてくれたおかげですよ。ガドラガに被害者がいたら間に合わなかった所です」
「いや、そんな事はない、そんな事は無い、あなたのおかげだ」
アントーン先生はボロボロと涙を流した。
さて、けが人はあと一人。
ベロナ伯爵令息か。
命に関わる怪我じゃなさそうだが、心がやられてそうだな。
リーダーだしな。
精神的ケアの方は、あんまり得意じゃないんだけど、しょうがないか。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、評価とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
励みになりますので。
下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと、この作品が成長して、いろいろな展開に繋がるので、是非ご検討くださいませ。




