第203話 飛空艇が帰ってきたが、緊急事態発生
北方酒場、鰊の波亭のランチを食べ終え、私らは店の外に出たよ。
意外に美味しかった。
またきて、今度はでかいベーコンを食べよう。
うんうん。
上空に大きな飛空艇が現れた。
おお、黄金の暁号だ、一週間の迷宮実習から帰ってきたのだなあ。
ヒルダ先輩と会うのも久しぶりの気がする。
出迎えに行って、さっそく、お土産を貰うのは浅ましいだろうか。
うむむ。
聖女派閥と、国王派閥のみんなが口を開けて黄金の暁号を見ているのは、なんだかおかしい。
というか、道行く人、みなが空を見上げている。
王都でも、飛空艇は滅多に見られないからなあ。
ゴウンゴウンと音を立てて、飛空艇は高度を下げていく。
「キンボール!!」
名前を呼ばれたので、びくっとしてしまった。
え、誰?
と思ったら、バッテン先生が全速力でこちらに走ってきている所であった。
「はえ? なんですか先生、そんなに慌てて」
「一大事だっ、ガドラガ大迷宮で事故があり、二年生五人パーティが深い階層に転落、二名死亡、三名重傷で、治癒魔法とポーションで命をつないでいるっ!!」
「ま、マジですかっ!!」
二名死亡?
そんなに危ないの、ガドラガ大迷宮って。
「通信が入ってきたっ! お前なら何とかできるかと思ってっ、今から急ぐぞっ!」
「はいっ!! みんな先にいくっ!」
「がんばってくれ、キンボールさんっ」
「いそぎたまえっ!」
私はバッテン先生に手を引かれ駆けだした。
「時間が足りないっ! どこかに馬はいないかっ!」
馬、裸馬とか、王都でもそんなにはいないが……。
ダルシーが姿を現した。
「私におぶさり下さい、飛びます!」
「そ、そうか、うん、そうしようっ!」
私はダルシーにおぶさった。
彼女は私の足と自分のお腹をぽんぽんと叩いて、跳び上がった。
うわああああっ!
すっごい浮遊感。
後ろを見ると、バッテン先生が力尽きたのか道に座り込み、カロルの介抱を受けていた。
ダルシーは民家の屋根に着地し、更に跳び上がる。
「ダルシー、足場として障壁を作る、オーケー?」
風の音が強い、ダルシーはうなずいた。
「3、2、1、今っ、障壁!」
ダン! ダルシーは私が作った光の障壁を踏みつけ、さらに高空に飛ぶ。
あ、これは、飛空艇に飛び乗れるか?
「飛空艇! 直接飛び込む! 出来る?!」
ダルシーはこっくりうなずく。
「3、2、1、今っ、障壁!」
飛空艇が近づいてくる。
グラウンドに着陸するために高度を落としているから、好都合だな。
「3、2、1、今っ、障壁!」
飛空艇の真上に出た。
ダルシーが体をよじって落下地点をずらす。
甲板にいるヒルダ先輩が目を丸くしてこちらを見ていた。
私は手を振った。
ダアアアアン!
ダルシーが甲板に着地した。
「ありがとう、ダルシー」
「いえ、当然の事です」
ダルシーは少し誇らしげだ。
だが、褒めるのは後だ。
「先輩っ! けが人は?」
「こっちよ、もの凄い登場ねっ」
「光の聖女候補は派手好きなんでっ」
ダルシーは姿を消した。
私は甲板を駆ける。
「な、どうしたんだね、君は誰かね、一年生じゃないか、どうして」
太った先生が声をかけてきた。
「私は聖女候補です、連絡を聞いて飛んできました。けが人はどこですか」
「あ、ああっ! ああっ!! こっち、こっちだっ! こっちこっちっ!」
先生が先導してくれる事になった。
飛空艇の内部の階段を駆け下る。
ああ、こんな時じゃなきゃ、内部を観察したいのになあっ。
先生は最下層まで降りて、突き当たりの部屋に体当たりをするようにドアをあけた。
「彼が一刻も持たない重傷者だ。あともう一人重傷者がいる、もう一人は腕なので後でいい」
こいつはー。
「寄生型魔獣!! こんな奴までいたんですか!!」
ヒルダ先輩が悲鳴を上げるように声を出した。
「五階、落とし穴で落ちた、救助隊が着くまでに時間がかかって」
男子生徒の目が真っ白になっていた。
生きているのか、これ?
ずるり、彼の肩から白い一抱えもありそうな多脚の白い蟲が顔を出した。
リン。
と、子狐丸が鳴く。
よし、切り裂いて治して倒して助ける!!
私は子狐丸を抜いて白い蟲に斬りかかる。
両断すると、蟲は溶けるように消える。
パン!
被害者の胸がはじけ飛び、無数のウジ虫のような幼虫が飛び散った。
「あぶないっ!! マコトさんっ!!」
問題無い、幼虫はみな障壁に当たって止まった。
幼虫を子狐丸で切り裂いてなぎ払う。
私は手から光分析魔法を出した。
ピッ。
うわあ、食い荒らされているなあ。
後一匹大きい奴、他に無数の幼虫がいる。
まだ、心臓はどっくどっくと動き、脳に幼虫も入り込んではいない。
今助けるから、がんばってくれよ。
子狐丸で彼の肺を突き刺し、親蟲をたたき切り、囓られていた肺を治す。
ごぼっと音を立てて、彼は血を吐く。
そのまま、幼虫を斬って斬って斬っていく。
軌跡の所にある痛んだ臓器を治してまわる。
はあはあ。
すげえ魔力を使う。
他の二人まで魔力が持つかな。
カロルにマジックポーションを貰っておくんだった。
エレベーターが降りるような感覚を感じ、ズシンとした音と共に、飛空艇が着陸したのを感じた。
『エクスヒール』
足が無くなっていたので生やす。
そして、幼虫を切る切る切る、いなくなるまで斬り、臓器を治す。
ジャリンジャリンと細かい魔石が床を叩く。
よしっ。
「終わった」
被害者の彼は気を失っているが、寝顔は安らかだ。
目も治しておいたから、大丈夫だろう。
「すごい、切り刻んでいたのに、傷一つ無い……」
「この刀は治療用なんです、次の生徒は」
「そうだっ、次の子も重体だっ、夜まで持たないと」
「行きましょう、治します」
ヒルダ先輩が私を拝んでいた。
「聖女さま……」
「やめてくださいよ、食堂じゃないんだから」
「ふふ、そうね」
ヒルダ先輩は小さく笑って、私に頭を下げた。
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