第202話 北方酒場、鰊の波亭でランチタイム
北方酒場、鰊の波亭であるよ。
大衆酒場だねえ。
お昼にランチをやっているようだ。
Aランチは六百ドランクお魚中心。
今日のメニューは一角魚の焼き物らしい。
一角魚?
「北方の海で上がる魚で、脂がのっておいしいみょん」
「そうなのか」
前世では一角は哺乳類だったが、こっちでは魚の模様だ。
Bランチも六百ドランクお肉中心のようだ。
アコラク豚のベーコンソテーらしい。
「北方の特産豚みょん、ドカンとベーコンが出るみょんよ」
「そうなんだ」
どっちにしようかなあ。
コイシちゃんが先にお店に入った。
席を手配してくれるようだね。
「カロルはどっちにする?」
「お肉かなあ」
「じゃあ、私は魚にしよう。ちょっとずつ分け合おうよ」
「いいね」
でっかいベーコンも気になるしね。
「入るみょん、ラッキーだったみょんよ、個室が空いてたみょん」
「それはたすかるね」
ケビン王子が喜んだ。
まあ、そうだな、大広間で食べると王子見たさに混乱が起こりかねない。
私たちは店内に入った。
おお、船の碇とか、装具とかが飾ってある。
元は船乗りの酒場なのかな。
コイシちゃんに付いていって、個室に向かう。
「いらっしゃいませー」
給仕の娘さんが頭を下げる。
北方の民族衣装だ、かわいいねえ。
前世のアイヌ衣装っぽくもあるな。
「いらっしゃ……」
娘さんはケビン王子を見てつまった。
「娘さん、王子はこんな所にこないんだ」
「は、はい」
「だから、僕はよく似てる生徒なんだよ、いいね」
「ははっ! かしこまりましたっ!」
給仕さんはかしこまった。
逆効果じゃないかい?
大きい個室だったので、みな入った上に余裕もあるね。
なにより。
給仕の娘さんが注文を聞いていく。
「私はAでおねがいします」
「はいっ、わかりました」
「私はBランチをおねがいしますね」
「了解いたしました」
きびきびと彼女は注文を取っていく。
わりとBの人が多いね。
王都は内陸だからお魚は運びにくいし、取れても川鱒ぐらいなんだよね。
まあ、川鱒美味しいけどね。
「ロイドさま~、わたくしこういう所初めて~」
「そうかそうか、ジュリエットは来た事無いのか、今度飲みにいくかい?」
「え~、どうしようかな~~」
ロイドちゃん、飲酒は大人になってからやぞ。
「コイシくん、さっきから皆しょっぱいしょっぱいと言っているが、北方料理はしょっぱいのかね?」
「そ、そうですみょんね、ケ、ケビン王子さま、北方は貧しいので、何でも塩漬けにするみょんから、しょっぱい料理が多いみょん。このお店は王都民の口に合わせてあるから、そんなにしょっぱくはないみょんよ」
「そうなのかい、僕は北方料理が初めてだから、楽しみだよ」
「こ、ここのお店は美味しいから、期待してほしいみょん」
ケビン王子はコイシちゃんの答えを聞いてにっこり微笑んだ。
ロイヤルスマイルだなあ。
コイシちゃんは真っ赤になった。
「うちのメカケ候補を口説かないでください、王子」
「ブロウライト卿の側妃候補なのか、それはそれは」
「コイシ嬢はリンダ師に一太刀いれて、大神殿から蓬莱の魔刀をたまわった手練れだと聞いたな」
「しょしょ、しょんな、まぐれですみょん、マクナイトしゃま」
「まぐれでも凄い事だ、はげみたまえ、コイシ嬢」
「は、はひっ」
というか、ジェラルドは誰に対しても偉そうだな。
焼けた鉄板の上に乗った、角の生えたホッケぐらいの大きさの魚が運ばれてきた。
おー、ジュウジュウいってる。
メインの魚に、ライ麦パン、コンソメスープ、ミニサラダがついていた。
六百ドランクでこれなら安いな。
ランチなので、ぞくぞくとお皿が運ばれてくる。
カロルのBランチもドカンと大きいベーコンが鉄板の上でジュウジュウ音を立てている。
おお、でかいお肉はいいなあ。
今度来たら、あっちにしてみよう。
みんなにお皿が行き渡った。
私は目の前のAランチに合掌した。
「いただきます」
「「「「「女神様に今日の糧を感謝いたします」」」」」
みんなで、私を拝むなっ。
ケビン王子と、ジェラルドと、ロイドちゃんまで。
やめれっ。
フォークで一角魚の身をほぐして口に運んだ。
パクリ。
ふむ。
なんとも言えない滋味が広がる魚だな。
若干しょっぱい感じもする。
脂がのっていて美味しい。
カリカリのライ麦パンと一緒に食べると美味しい。
「これは、美味しいですな、魚ですが、味わい深い」
「少しくれたまえ、ジェラルド、僕のベーコンも少しあげよう」
カロルが微笑んで、ベーコンを私のお皿に入れてくれたので、お返しに一角魚の身を彼女の鉄板に乗せる。
どれどれ?
ぱくり。
ほおっ、これは美味しいベーコン。
燻製の度合いがそんなに強くなくて、なんだか前世の焼き豚っぽい感じ。
ジューシー。
この味わいで、あの大きさだと、満足感あるね。
「あら、お魚美味しいね」
「ベーコンもいけるね、薄く燻製してあって香ばしくてジューシーで美味しい」
「ちょっと大きいから、もうちょっと食べて、マコト」
「ん、お魚もあげるよー」
カロルとシェアして食べ進める。
「このお店美味しいね、コイシちゃん」
「うちのお父さんの部下だった人が作ったお店みょん。大繁盛したんで、王都にも支店を出したみょんよ~」
そうだったのか。
……、コイシちゃんのベーコンの色が違う。
「そのベーコン、他のと違うね」
「北方の味付けそのままみょんよ」
ああ、だから、お塩を今日はかけてなかったのか。
「一口食べるみょんか? マコトしゃん」
「ください」
コイシちゃんがフォークで差し出したベーコンの欠片をぱくりと食べる。
……。
しょっぺーーーーっ!!
「あはは、北方味付けだみょんからねー」
「どんな味なの?」
「カロルしゃんもどうぞ」
カロルも一口食べて、しょっぱい顔になった。
塩辛すぎだろう、北方の味付け。
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