第198話 朝の食堂にエルザさんがやってくる
さてさて、食事が終わったので、205号室へ帰ってきた。
服を脱いで寝間着に着替える。
ダルシーが現れて、チェストの中から洗濯済みの制服を出してくれて、古い方は洗濯袋に入れて、一礼して姿を消した。
明日の朝は新しい制服を着ろってか。
私は畳んである制服をチェストの上に置いた。
いつもありがとうね。
ダルシー。
彼女がいるだけで生活の水準が二三段上がっている気がするね。
ハシゴを登って私のベットスペースへ、魔導灯が暗めなので、小さいライトの球を打って浮かべる。
さて、読書の続き続き。
文体は古いんだけど、なんだか文章がこなれてんなあ。
ビアンカさまはなかなかのインテリと見た。
まあ、昔の文章は神話からの引用とか多くて読みづらいんだけど、そこは知識力でカバー。
私は、聖女候補なんで、神話の類いは結構暗記してるしね。
王子を蘇生させたビアンカさまは、王子から求婚されるが、一生を女神に捧げていると言ってそれを断る。
それで、どうやら、国王派閥の貴族に悪印象を持たれたみたいね。
素晴らしい力を持つ物は取り込む、取り込めなければいっそ滅ぼすみたいな、国家の本能が働き始めたらしい。
いつでも国家が貪欲なのは変わらないんだね。
私も『塔』に睨まれてるかもしれないなあ。
その後、ビアンカさまは蓬莱に親善旅行にいったり、総本山にしばらく詰めたりして、活躍したそうだ。
なんだか、ダンジョンから飛空艇を掘り出して、ブンブン乗り回してたらしい、いいなあ、聖女専用自家用飛空艇。
私も欲しいなあ。
「私もほしいなあ」
……。
特に光り文字でのビアンカさまの返事は出ない。
ちえーっ。
くれよう。
さて、第二部、転落編だっ。
と言うところで、明日読もう。
もう寝る~。
すやあ……。
……。
…………。
……………………。
メイドさんがごぞごぞ起きる音で目を覚ました。
カーテンを少し開いて下を見る。
「おあよ、マコト、ねむ~」
「マコト、おはよう、良い朝だねっ」
いつもだるいマルゴットさんと、いつも元気なカリーナさんが着換えていた。
「おはよう、いつも大変だね」
「たいへんだよ~」
「あんたはご主人が今日帰ってくるのに、一週間何をやって眠かったんだい?」
「うへへへ、秘密じゃ~」
そういや、マルゴットさんはお嬢様のヘザー先輩がいなかったんだから、暇なはずだよね。
実際、何をやっていたのやら。
アンジェリカへの調査かな。
メイド組が出勤していった。
というか、マルゴットさんは毎朝どこに出勤してたのだ。
校舎裏のベンチとかで座ってサボってたのかなあ。
怠惰な人であるなあ。
コリンナちゃんが起きてきて着替えを始める。
私もハシゴを下りて、用足しをしたり、洗顔したり、歯を磨いたり。
制服を着ると、測ったようにケトルを持ったダルシーが入ってくる。
まあ、朝のお約束だね。
テーブルに座ってコリンナちゃんと差し向かいでお茶を飲む。
こくり。
うん、美味しい。
「うんうん、今日も美味しいよ、ダルシー」
「うんうん、美味しい美味しい」
「ありがとうございます。マコトさま、コリンナさま」
ダルシーは、本当に嬉しそうに笑うから、ほめた私たちも嬉しくなるね。
お茶を飲み終わったら、鞄に今日の教科書を詰めて、食堂へ向かおう。
三人で外に出て施錠する。
いつの間にかダルシーはいない。
階段をパタパタと降りる。
なんだか、知らないうちに学園生活が日常になってきたな。
コリンナちゃんがいて、カロルがいて、派閥のみんながいる日常。
卒業まで、この日常を守らないとなあ。
そのための聖女の力なんだろうなあ。
エレベーターホールには、聖女派閥のみんながいた。
カロルもいるね。
手を上げて挨拶。
ゆりゆり先輩もいるぞ。
あ、エルザさんだ。
どうした?
「おはよう、エルザさんどうしたの?」
「今日から私もみんなと一緒に食事をしようと思いまして」
「そうだったんだ」
それは良い事だね。
みんなでぞろぞろと食堂に入る。
カウンターで塩ポリッジを頼んで受け取る。
今日の副菜はソーセージエッグね。
カロルとお揃いであるよ。
木のカップにヤカンからお茶を入れて、トレイに乗せてはこぶ。
あいているいつものテーブルに腰掛ける。
なんだか、聖女派閥の指定席みたいになってきたよ。
ありがたいことだなあ。
エルザさんが私の前に座ったので、せっかくの機会だからしゃべりかけるぜ。
「エルザさんは食堂で見たこと無かったけど、どうしてたの?」
彼女ははにかんで笑った。
おお、レア表情だっ。
「いつもみんなとお食事を取りたかったんですけど、お昼ぐらいしかご一緒できなくてごめんなさい」
「いや、良いのよ、エルザさんの好きにして、強要とかじゃないし」
「いつもは部屋のキッチンでメイドに作ってもらってたのです。私はアレルギーがあって、卵がだめで」
「あ、アレルギーあったんだ」
というか、この世界にもアレルギーあるのね。
でも、エルザさんの前には塩ポリッジとソーセージエッグが置いてある。
「月曜日に金的令嬢風呂に入らせてもらいまして、そして昨日、メイドが新人だったので、卵を使った料理を出されて、食べてしまったんです」
「ほうほう、金的令嬢風呂はやめてね、聖女の湯だから」
「あ、ごめんなさい。で、うっかり食べてしまって、凄い湿疹が出るぞと思っていたんですが、出ませんでした」
げ、聖女の湯はアレルギーも治すのか、もしかして。
「それで、これでみんなとお食事ができると、嬉しくなってやってきました」
「そうなんだ」
「一時的な物かもしれませんので、様子を見てですけどね。マコトさま、目玉焼きいりますか?」
「あ、いらないならください」
エルザさんは自分のお皿から目玉焼きを取って、私のお皿に入れた。
「じゃあ、こんごとも、女子寮食堂でもよろしくね、エルザさん」
「はい、よろしくおねがいしますわ」
そっか、エルザさんが食堂に来なかったのはアレルギーのせいだったのか。
食堂の物は卵料理も多いからね。
よしよし、偉いぞ、聖女の湯。
金的令嬢風呂と言われなきゃもっと良いのだが。




