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第19話 残念剣戟令嬢と模擬試合をすることとなったのだ

「魔法を使っていいなら、試合をやっても良いけど、それでは絶対に私が勝ってしまうし」

「ふん、生意気なっ、こちらがあの卑劣魔法の対応を考えていないとでも思ったのかっ! 兄上の時と同じ条件で、私は一向にかまわんっ!! 勝負だっ!!」


 対応ねえ。

 あの魔法はちょっと凶悪だから、対人では封印しようかなとも思ってたのだけど。

 でも、便利だしなあ。


「では、両者、魔法ありで、木剣での模擬試合、勝っても負けても遺恨無しで、問題はないか?」

「えー、やだなあ-」

「貴様っ、卑怯未練なっ、それでも騎士かっ!」

「聖女候補でーす、分類でいうと、光魔法使いというか、僧侶かな?」

「細かいことは良いんだっ!」


 カトレア嬢は大雑把すぎると思うぞ。

 脳筋令嬢だ。



 修練場には、試合場が二枚ある。

 その一枚に、私とカトレア嬢、バッテン先生が上がる。

 他の生徒は観客席だ。


「よし、やろう」

「その前に、キンボールさん、魔法のバックラーを外しなさい」


 ちえっ、ばれたかー。

 私は口をへの字にしてバックラーを先生に渡した。


 私は、練習用短剣を右手に構え、カトレア嬢と対峙した。

 木剣を構えたカトレア嬢は、確かにマイクーと良く似ている構えだ。

 同じ流派の長剣術だね。

 腕前は、マイクーよりも、ちょっと落ちるぐらいかな。


「マコト、がんばってー」


 カロルが応援してくれたので、にっこりと微笑んで小さく手をふる。

 まったく、カロルは私の嫁だぜ。


「……いいかな?」

「あ、ごめんなさい、いいですよ」

「では、はじめっ!!」


 バッテン先生が手を振り上げ、カトレア嬢との模擬試合は始まった。


 腰を落とし、重心を下げてじりじりと移動する。

 左手をすこし前に出して、ゆっくりゆっくり前に出る。


 彼女の視線は……。

 私の顔を見ているな。


 ふむ。


 ちょっと半眼にしてみる。

 びくっとして、カトレア嬢が目をつぶった。

 なるほど。


 閃光が来ないので、急いで目を開くカトレア嬢。


 ふっふっふっ。


「くっ、卑劣な技を、卑劣な運用で……」

「魔法に卑劣も下劣もあるかいっ」


 じれたカトレア嬢が長剣を少し下げた。


『ウインドカッター』


 彼女の詠唱と共に、剣の先から、何かが飛んできている気配がした。

 私の前面、三十センチほどの所で火花が飛んで、なにかが砕け散る。

 障壁を無詠唱で張っていて正解だったな。


 真空を飛ばして切りつける、風魔法のウインドカッターだな。

 真空は目に見えないから、やっかいな魔法だなあ。

 たしか、包丁が飛んでくるぐらいの威力があるはずだ。


「貴様、どうやって防いだ……?」


 こっちの手を教えるかよう。


「あれは光魔法の結界障壁かしら?」

「光の中級魔法ではないですか、まさか……」


 くそう、さすがはA組、魔術にお詳しい令嬢が多いな。

 それに、これは聖女マリア様の得意技だったからなあ。

 マリア様の絵本にも出てくるぐらいの魔法だ。

 

 光の結界障壁は、何者をも通さない完璧な結界バリア魔法だ。

 堅さは前世の硬化ガラスぐらいで、凄い力で殴ると、バリンと割れる。

 割れる光子力系バリアであるのだよ。

 障壁は、光で出来ているので、全く視認ができない上に弓矢ぐらいでは貫通できない。

 超便利魔法である。


 基本的に前面に一枚張るのだが、術式の展開次第で長方形にも、ドーム状にも張ることができる。

 私はオタクなので、六角形のヘックス型に意味なく成形してバリアを展開している。

 バリアと言えば絶対六角形、そこは譲れない。

 物が当たった瞬間に、赤く光れば完璧なんだけどなあ。

 逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ、でありますよ。


 カトレア嬢が障壁を超警戒しておる。

 さて、そろそろ終わらせるかな。


 私は腰を上げ、結界障壁を解除した。

 そして、自然体ですたすた歩き、カトレア嬢との間合いを無造作に詰めた。


「くっ!」


 彼女は、木剣を構え警戒する。


 私は目を半眼にする。


 カトレア嬢は慌てて目を閉じる。


『ライトッ!』


 ビカリ。


「わっはっは、閃光魔法破れたりっ! ……、え?」


『ライト』『ライト』『ライト』『ライト』『ライト』


 ビカビカビカビカビカ!!


 なんで、閃光が一発だけだと思って目を開けるかなー。

 ほんの少しの魔力しか使わないから、何連発だってできるのだぜ。


「うぎゃああっ、目がー、目がーっ!!」


 わっはっは、バルスバルス。

 連続バルス。


「ひ、卑怯者ーっ!! そ、そんなっ、何発もっ!! は、恥をしれーっ!!」

「さあ、いくぞーっ、カトレア嬢っ!! 覚悟しろーっ!! うわーはっはっはーっ!!」

「や、やめろーっ!!」


 わははははっ、私の思い通りにカトレア嬢が引っかかったので、テンション上がるっ、テンション上がるっ。


 さあ、いくぜ、いくぜっ!!


 私は、カトレア嬢の背中側に忍び寄り、股間に向けて手を差し込んだ。


「な、なにをするーっ!! 卑猥な事はやめろうっ!!」

「うるせえっ」


 彼女の首の後ろに手をまわし、膝裏を蹴って体勢を崩す。


「あ、あれは、何をなさってらっしゃいますの?」

「な、なんて、破廉恥な動きなのっ」


 そのまま、両肩に彼女の背中をつけて、首をがっちりホールド。


「投げ、技、かな?」


 ちがうぜー、カロル、投げないぜー。

 私は体格がちびっ子なので、長身のカトレア嬢が重い、重い、崩れてしまいそう。

 だが、ここは異世界。

 異世界には素敵な魔法がある。


 それはっ、身体強化の魔法だあああっ!

 魔力を、腰と、背中と、足に流して、強化っ!

 私は今、起重機並のパワーでもって、仰向けにカトレア嬢をかつぎ上げ、自分の両肩に乗せる。


 カナディアン・バックブリーカーの完成じゃいっ!!


「ななな、何をなさってらっしゃいますのーっ! あれはっ、どんな状態ですのーっ!」

「カトレア様の体を肩にのせて、力強く、ゆっさゆっさ揺らしてますわっ!」


「やめろー、恥ずかしいーっ、痛い、背中が痛いーっ! くっ、殺せーっ」


 カトレア嬢の、生くっころ、いただきました、ありがとうございますっ。


「うおォン! 私はまるで人間発電所だーっ!!」

「な、なんだか意味が解りませんが、とても力強いお言葉ですわーっ」

「人間発電所、心に残りますわーっ」


 あー、右手に当たるカトレア嬢のおなかが、暖かくて柔らかいなあ。

 うっひっひ。


「キ、キンボールさん、その技はなんだい?」

「関節技の一種ですよ」


 ゆっさゆっさ。


「痛い痛いっ! 苦しいーっ!! 死ぬーっ!!」


「だれだ、この性悪に、酷い技を教えた奴は……。聖堂騎士だな、きっと」

「秘密です」


 この技を覚えたのは、昔のプロレス漫画、ジャイアント台風でだな。

 コンビニで復刻版が売ってたので、楽しく読んだ。

 腐女子にはプロレス技の研究も必要なのだ。

 あと、馬場さん×ブルーノサンマルチノだけは譲れない。


「降参しろっ、カトレアさまめっ」


 ゆっさゆっさ。


「ちっきしょー、ピッカリン家に降伏の二文字はないーっ、いたいー、背中がいたいーっ!」


 くそう、両肩の上で美少女に、うぞうぞ苦しまれると、なにか感じてはいけない喜びが下腹部から、うっほうっほと盛り上がってくる。

 この、品の無いよろこびは、淑女として、あまり育ててはいけない物の気がする。

 にゃろう、強情な奴め、はやく降伏しろっ。

 私が、S方向に目覚めたらどうするっ。

 ゆっさゆっさ。


「金的令嬢さまの腕が、カトレア様の股間に……」

「カトレアさまも、苦しそうだけど、なにか、その、とても気持ち良さそうな雰囲気も、きゃっ、わたくしったら」

「さすが、金的令嬢さま、逆らう者に容赦がないのですわ。カトレアさまを肩に持ち上げて仁王立ちするお姿の、なんと雄々しいこと」


「ぐわあ、恥ずかしいっ、いっそ殺せーっ、うわああっ、兄上ー、助けてーっ! うっ、うっ、うわーああああんっ」

「……カトレアさんが、マジ泣きしたので、そこらへんで許してあげなさい、キンボールさん」

「そうですね」


 カトレア嬢を肩からおろしたら、彼女は試合場にうずくまって、えーんえーんと、幼女のように号泣した。


 わはっはっは。


「ざまあっ」


「模擬試合の勝者! マコト・キンボールさん!」

「うぇーい」


 体操服の令嬢たちが、きゃーきゃーと歓声をあげた。

 が、三分の一ぐらいの令嬢たちは、冷たい目でこちらを見ていた。


「えーと、キンボールさんの使った技は、特殊な訓練を積んだ人間以外は危険ですので、まねしたりしないように。いいですね」


 そうね、プロレス技は、年に何人ものちびっ子が事故にあってるから、危ないね。


 そこで、ちょうど終業の鐘が鳴った。


「それでは、時間も来た事だし、今日は解散、次の授業は明後日です、武術の初心者は素振りの復習をして、次までに振れるようになっておいてください。では、解散」

「「「ありがとうございましたー」」」


 泣いてるカトレア嬢は、バッテン先生がお姫様だっこで医務室に連れて行ってくれた。



「やあ、勝ったよー、カロルー、ほめてほめてー」

「う、うん、その、凄かったよ、マコト」


 カロルは頬を赤くして、目をそらしていた。


「なによ」

「いや、なんだか凄い技だと思って。どうしたら、肩に担いで攻撃するって発想が出るのかな、あれって、他人に見せるのが前提の技よね」


 お、カロルは勘が良い。

 さすがにこの世界では格闘技を観客に見せるという概念が無いからね。


「あれ、技を掛けられている方はどんな感じなのかな、痛いの?」

「背骨がゴリゴリして痛いらしいよ、そうだ、ちょっと掛けてあげようか、カロル」


 カロルはちびっ子体格だから、カトレア嬢よりも簡単に持ち上がるだろう。


「え? そ、その……」


 カロルは頬を真っ赤に染めて、視線を泳がせた。

 あ、でも、カロルのお腹に触ったら、あの、なんだな、うう、すべすべかな。

 あ、私も顔が熱くなってきた。


「じゃ、じゃあ……。あっ、駄目っ、やっぱり無しっ、やっぱり無しっ」

「えー、良いじゃん、ちょっとだけ、ちょっとだけだからさっ、ねっ、ねっ」

「は、恥ずかしいし、その、マコトの上で失禁とかしたら、困まっちゃうし……、えっ、なんで、いきなりしゃがみこむのっ!?」


 うっかり、技を掛けて、よいしょっと持ち上げたカロルに肩の上で失禁されるシーンを思い浮かべてしまった。

 カロルの股間から、お小水がしたたりおちて、私の肩を暖かくぬらして、ちょっと、おしっこの匂いが……。

 ふにゃんと腰の力が抜けて、しゃがみこんでしまう。

 顔を両手で覆ってしまった。

 こ、これは、ガチエロい……。


「カロルはエロいー」

「な、なによっ、想像してしゃがみ込むマコトの方がエロいわよっ!」


 しばらく、二人でエロいエロいと罵り合っていた。

 ああ、なんという幸せか。

 いっそ殺せ。



挿絵(By みてみん)


脚注:マコトはカナディアン・バックブリーカーだと思い込んでますが、実際はアルゼンチン・バックブリーカーです。絵的にはアルゼンチン・バックブリーカーの方がはえますので、BL本制作時に取り違えて、間違って覚えたようです。

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― 新着の感想 ―
コブラツイストとか吊り天井固めはしなかったのです(泣) ジャーマンスープレックスも無かったのです。
[一言] これ、とあるアニメ化もゲーム化もしたプロレス漫画の技に似てますねー。何の作品かは敢えて言わないけど、もしかしなくてもコレをモデルにしたのかな?プロレス知識が無いから分からんけど
[良い点] よかった、脊椎は無事だった……
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