第1話 王様に謁見したら、悪役令嬢の父に絡まれたぞ
私は目の前にある、水晶玉に手を当てた。
その瞬間、ビッカーンビカビカビリビリととてつもない白い光が神殿の大ホールに乱舞した。
「光魔法だっ! 百年ぶりの光魔法だあああっ!!」
王都の第三神殿の司祭様が飛び上がって絶叫した。
見ていた平民の皆さんも、うひゃっほうと歓声をあげ拳をふり上げる。
こんにちわ、マコトです。
現在見知らぬパン屋家族一同に連れられて、ちょっとおしゃれをして神殿へ魔力属性鑑定式に来ましたよ。
んで、ステージにある鑑定魔導具の一抱えもある水晶玉にさわると、とてつもなく光りましたよ。
ここらへんはゲームでは見ることができなかったので新鮮ですな。
あと、ゲームではクリフお兄ちゃんは大きくなってパン屋のカウンターに立つ姿しか見たことなかったので、ショタおにいちゃんも新鮮です。
ちなみにクリフお兄ちゃんは火属性なので、パン釜の火を付けるのに便利に魔法を使っております。
この世界の住民は全員もれなく魔法の属性があって、その中で魔力が強いものが貴族さまになっております。
魔法は、冒険に戦争に便利だからねえ。
強いやつが特権階級になるのは仕方がありませんな。
ですが、平民でも、魔力が強い者は取り立てられて出世するのですぞ。
魔法の属性は、四大の火・水・風・土と、光と闇と、六属性になってますね。
その中でも光は出にくい。
闇が五十年に一人は出るのに対し、光は百年に一度ぐらいしか出ないらしい。
あまりの高レア属性のために、出ただけで将来安泰、神殿の聖女様になることが保証されているぞ。
これで、就職もバッチリだねっ。
ちなみに、百年前の聖女のマリアさまは、農家の娘だったんだけど、王子さまといっしょに、魔王を倒しに行って大活躍。
のちに王子さまとご結婚なされ王妃様になられたそうな。
すげえなあ光属性。
「マコトおまえ……」
「なんてことだ、マコト……」
「大丈夫、いつでも私たちがついているわ」
一緒に来てくれた、家族一同が涙目であるなあ。
すまんなあ、光属性とか引き当てる娘で。
真琴にとっては見知らぬ家族ではあるのだが、十三歳まで生きてきたマコトにとっては愛すべき家族だ。
ちなみに、ただいま現在、真琴の記憶とマコトの記憶は完全に融合している。
この世界で暮らしてきたマコトは、高瀬真琴と性格が寸分違わず一緒だ。
記憶にある行動が、ああ、高瀬真琴が異世界パン屋に生まれていたら、そうするであろう、という行為でいっぱいです。
なので、自分は十三歳のマコトなのか、十九歳の真琴なのか、判別がつかない。
というか、二人が混ざり合った第三の、真のマコトといえるかもしれないな。
記憶の中の、優しいお父さんも、優しいお母さんも、ちょっと生意気なお兄ちゃんも、みんな、みんな私の事を愛してくれていた。
私が、光属性を引き当てた時点で、神殿に行くなり、国に囲われるなり、実家のパン屋一家とはお別れなんだよなあ。
ごめんよごめんよ。
私は胸が引き裂かれるように悲しくなって、一言、お父ちゃんにつぶやいた。
「聖女パン」
「なにいっ!」
お父ちゃんは驚愕した。
「未来の大聖女さまがしこんだパン」
「なんですってっ!」
お母ちゃんも驚愕した。
「馬鹿売れ、店舗改装」
「お父さん、これは売れるよっ!」
「そうだなっ、ビジネスチャンスだなっ!」
うんうん、うちの家族はいい感じにゆるくて大好きだ。
大急ぎで家に帰り、聖女パンをみんなで試作した。
異世界チート知識で、クッキー生地をパンにかぶせて焼くというものを発案し、みごと聖女パンとして採用された。
いやまあ、前世のメロンパンなんですけどね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
聖女パンがちまたで大人気を博していたら、王家から使者が来て、王様と謁見できることになったぞ。
だが、王宮へ着ていくものが無い。
困った困ったと一家で悩んでいたら、黒塗りの豪華馬車がひよこ堂の前に着けられて、なんだかきらびやかな白と金の司祭服をきたおじいちゃんが降りてきた。
聖心教の教皇さまでございました。
大神殿がひよこ堂の近くなんで、ちょっくら顔を見に来たそうです。
教皇さまに、恐れながらとお父ちゃんが礼服の事を告げると、なんと、教会のお金で私に聖女服を作ってくれることになったね。
あと、ついでに大神殿への聖女パンの大量注文も貰った。
教会は、私を取り込む気がまんまんだなあ。
二週間後できあがった白と青の清楚な感じの神官服を着て馬車に乗って王宮へ行くぞ。
なんだかとても塗りのいい白い高級馬車で、こんなの幕張の夢の国にしか走ってないような感じだぞ。
「マコトさまは物怖じしておりませんね、とても堂々としてらっしゃいますわ」
お付きの王宮メイドさんがにこやかに微笑むが、そんなことは無い、あたしゃ心臓バクバクですよ。
根が小市民なので。
豪華王門をぬけ、豪華馬車を降りて、豪華玄関から王宮へ入る。
豪華廊下を歩いて、豪華階段を上がると、豪華謁見の間であった。
豪華豪華。
謁見の間では、きらびやかな貴族の皆さんがおられて、私を見て、「なんとも愛らしい」とか、「将来の大聖女らしい貫禄がありますな」とか言っている。
貫禄とか無いよ、心臓バクバクだよ。
前世でも貴族さんとか、王族さんとかあったことないよ。
中学の時の同級生の斉藤さんが、織田信長の家系だとか言っていたのを知ってるぐらいだよ。
玉座のイケメンの王様は満面の笑顔で、謁見の間で、ひざまずく私を迎えてくれた。
「よく来た、よく来たマコト嬢、ああ、かわいい聖女さまだね」
「ほんにかわいらしい事」
「申し訳ありませんが、市井のパン屋の娘でして、礼儀を知らず、ご無礼を働くかと」
「よいよい、聖女さまではないか、とても明るくてハキハキしておるな。気に入ったぞ」
「お心遣いありがとうございます」
そう言って、ぎこちなくカーテシーをする。
謁見の間に集まった人たちは、優しい微笑みを浮かべてくれた。
一人を除いて。
王様に近いところに、脂ぎった感じのおじさんがいて、私を憎々しげに見ていた。
……。
えーと、誰だろう。
悪者っぽいけど、こんな人、ゲームに出てきたっけかな?
「アップルトン王国に聖女がいらっしゃられた、それはおめでたいことでございますな。ですが……」
「どうした、ポッティンジャー公爵、なにか懸念でもあるのか」
ポッティンジャー……。
んと、どっかで聞いた事があるわね。
誰だっけ。
「あまり厚遇をあたえると、庶民というものはつけあがります。二百年前の乱をお忘れではありませんでしょうな」
「ふむ、ビアンカの乱か……」
元マコトの知識だと、先々代の聖女のビアンカさまは、いろいろやらかしたらしい。
おごり高ぶり、イケメンを侍らせて、神殿で贅沢の限りを尽くし、最後は首を落とされたとか。
先代聖女のマリアさまとの差がすごいなあ。
ポッティンジャー、ポッティンジャー。
あああ。
そうか、そうか、BL描きには用がないから忘れてたけど、ヒカソラの悪役令嬢の家名だわ。
ビビアン・ポッティンジャー嬢だ。
どのルートでも出てきて、主人公に嫌がらせの限りをつくす人だ。
んで、ハッピーエンドだと、もれなく没落したり、死刑になったりするんだよね。
「庶民は厳しくしつけなければなりません。どうでしょうか、彼女は、我がポッティンジャー公爵家が引き取り、教育するというのは」
「ふむ、ポッティ公の後ろ盾ならば大きいな、ふむ」
え、やだよ、悪役令嬢のおうちなんか行ったら、いろいろ酷い目確定だよ。
それと、なんだか、あー、ポッティ公、目が嫌らしく光っているぞ。
あれは、男性向き薄い本に出てくる変態の目だ。
あんな人のいるところへ行ったら、私は普通にロリータ監禁調教されてしまう。エロ同人みたいに。
私は手を上げた。
王様が目を丸くした。王妃様も目を丸くしている。
ポッティ公も驚愕している。
あら、マナー違反かな?
まあ、いいや、私、平民だし。
「私、普通に嫌です」
「お、そ、そうか」
「まあ、マコトさま、目上の人に勝手に話しかけてはいけませんよ」
「貴様っ! パン屋の娘風情がっ!! 直答で拒否とはっ!! み、身分をわきまえろっ!!」
苦笑する王様王妃様、激高するポッティ公を横目に勝手に、私はさらに手を上げる。
「えー、あー、手をあげるのは、発言の許可を求む、ということなのかな、マコト嬢」
「はいっ!」
「そういう風習はないから、覚えてね、マコトさま」
「すいませんっ! おぼえますっ! でも、公爵さまなんて恐れ多くて怖くて、絶対嫌ですっ」
「きさまーっ!! 首を切ってやろうかーっ!」
ポッティ公が怒鳴る怒鳴る。
「うわあ、怖いよ怖いよ~(棒)」
私はわざとらしく泣き真似をする。
王様、王妃さまが、口をぎゅっと閉めて、肩をふるわせておる。
笑ってはいけない王宮謁見室24時となったな。
あ、教皇様が早足で近寄ってきた。
「ポッティ公! 聖女候補様に、声をあらげるなどっ!」
「なんだと、これはただのパン屋のガキだっ!! 聖女候補でもなんでもないっ! 聖女は上流貴族から出るべきだっ!」
「ご無体な! 王よ、是非とも聖女さまは神殿で教育させていただきたくっ!」
「公爵家がふさわしいっ! 鞭にて、パン屋の娘を厳しくしつけますぞっ!」
王様は困った顔をして私を見た。
「なにか、本人の希望はあるかね? いや、マコト嬢、手をあげなくてもいいよ」
「そうですね~」
主人公の養子先はどこだったっけかなあ。
あまりBLに関係ない情報なんで覚えて無いなあ。
というか、BL同人に主人公とか、悪役令嬢出すと嫌がる人多いからさー。
ゲームの方でも、主人公のパン屋の実家エピソードは多いんだけど、男爵家の情報はテキストぐらいだからなあ。
あ、そうだ、マコトを養子にした男爵って学者の人だったな。
「学者さまのお家がお勉強もできて良いとおもいます、です」
「学者か」
「ではキンボール家はいかがでしょうかな」
お、イケメン宰相が口を挟んだ。
主人公のディフォルト名は、マコト・キンボールだからビンゴだね。
「おお、そうだな、彼は温厚だし、歴史学者だ。マコト嬢も得るものが多いであろう」
「後日お引き合わせしましょう」
おっし、三人目の父ちゃんゲットだぜ。
しかし短い間に、私は何人、新しい父ちゃんを得るのかね。