第196話 食堂で聖女の湯要求闘争が始まった
ベットに寝転んで本を選んで開く。
羊皮紙の本って一枚一枚が分厚いから内容の割に重いんだよね。
開いた本はビアンカさまの伝記本であるよ。
やあ、古い本は言い回しとか古風だねえ。
雰囲気があって嫌いではないぞ。
目次を見ると、本の前半は『栄光』後半は『転落』と二部構成になっているようだ。
ビアンカさまは、二百年前、王都の商家の家の末娘として生まれた。
十三才の魔力鑑定式で光魔法を引き当てて、めでたく聖女となったらしい。
その頃は魔法学園は無かったので、そのまま教会に引き取られて聖女として育てられたらしいね。
彼女が人生の前半で起こした数々の奇跡が詳しく書いてある。
やれ、サイロ一杯の焼けた押し麦を良い押し麦に変えたとか、王都に攻めてきた邪竜を倒したとか、都市を埋め尽くすアンデット災害を解決したとか。
なんか、見てきたように詳しく書いてある。
文も綺麗で上手いな。
誰が書いた本なのだ?
昔の本は作者名が無いからなあ。
『自分で書いたよ、マコトちゃん』
欄外に光る文字が現れて消えた。
……。
もう、やたらと未来視して干渉すんなやーっ!
ビアンカさまはー。
なんでもお見通しってわけかあ。
でも、どうなのかね。
未来ってのは、完全に決まってるのか?
それとも確率の高い未来を見て、当たるかもで、差し込んでるのかな?
どっちにしろ、未来が見えるというのは、脳に負担が掛かりそうだなあ。
ストレスも半端ないだろう。
これはビアンカさまが自分で書いた、プロパガンダ用の本か。
転落編も、民衆がこう信じて欲しいという感じに書いてあるんだろうな。
まあ、いいや、自筆なら間違った事はあまり書いてないだろう。
ビアンカさまを身近に感じる為にも読み進めようか。
しかし、いろんな事をしてるなあ。
ビアンカ様は、二十代の頃に死者蘇生の魔法を編み出したようだ。
事故死した王子様を蘇生させて、王家から感謝された模様だ。
「おーい、マコト、晩餐」
「うお、もうそんな時間?」
夢中になって読んでたので、声を掛けられてびっくりしたよ。
私はしおりを挟んで本を閉じた。
「今行く-」
はしごを下りてコリンナちゃんと部屋の外へ。
施錠をして食堂に向かおう。
「なにを読んでたんだ?」
「ビアンカさまの伝記だよ」
「へえ、悪聖女の伝記かあ、よくあったねそんなの」
「図書館まで行って借りてきたよ」
「ああ、あのでかい図書館か、あるだろうね」
ぱたぱたと階段を降りる。
外はもう暗いね。
ああ、しかし、今週は平和で良いね。
週末のお養父様へのご報告も、お顔を青くさせずにできそうだ。
よしよし、平和が一番だよ。
カロルともいちゃつけるしね。
エレベーターホールに行くと、聖女派閥のみんなが待っていた。
「あら~、マコトさま~」
「ジュリちゃんお帰り、お芝居良かった?」
「よかったですよ~、一杯泣いてしまいましたわ~。身分差の恋って悲しいですわよね~」
「悲しかったよねえ」
おっとあまり感想を言うと、マリリンが見に行く時につまらなくなるね。
エレベーターがチンと鳴って、カロルが降りてきた。
彼女はニッコリ笑って小さく手を振った。
うっひっひ、可愛いなあ、私の嫁は。
「よし、これで揃ったね、食堂に行きましょう」
「「「「はいっ」」」」
ぞろぞろと食堂へと入る。
だんっと一人の女生徒がテーブルから立ち上がった。
私たちの前に立ち塞がる。
な、なんだ?
「マコトさまっ!!」
「はい?」
「毎日、私たちは、毎日、金的令嬢風呂に入りたいのですっ!!」
食堂の女生徒達が一斉に立ち上がり、拍手をした。
なんだよ、金的令嬢風呂ってよおっ。
いらっ。
「舎監のエステルさまに依頼されました、毎週月曜日に聖女の湯をするそうです」
女生徒たちが、おおっと歓声を上げた。
「げ、月曜日だけですか?」
「いいじゃん、毎日入らなくても」
「私は酷い生理痛だったのですが、金的令嬢風呂に入ったとたん、痛みがすっと抜けて、お肌はつるつるに、髪はさらさらになったのです。私は、あなた様を信心し、一心不乱に帰依しますので、どうか、毎日、金的令嬢風呂を!」
「金的令嬢風呂って言うのをやめろ、今後薬剤を作らないぞ」
女生徒ははっとして顔色を変えた。
「ああ、ごめんなさいごめんなさい、聖女さまっ、聖女の湯、聖女の湯ですねっ」
「お風呂はエステルさまの管轄だから、聖女の湯の日を増やしたいなら、エステルさまに言ってね」
女生徒は深くうなずいた。
「わかりました、聖女さま、ご無理を言ってごめんなさいっ」
彼女はぺこりと頭を下げた。
「みんなっ!! 署名よっ、署名を集めてエステルさまに詰め寄るわっ!!」
詰め寄るのは止めてさしあげなさい。
「聖女の湯に毎日入るために、全力で運動を始めますっ!!」
「「「「「応っ!!!!」」」」
あんたたちはどんだけ聖女の湯に入りたいのか。
私は心の中でエステルさまに合掌した。
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