第194話 図書館を出て、集会室によりライアン君に鍵を授ける
「ルカっち、この図書館にビアンカさまの残した蔵書とか残ってないの?」
「うーん?」
ルカっちは天井近くのステンドガラスを見上げ思案顔をした。
「この学園はビアンカさまの邸宅の廃墟に作られたんだね。その際に色々と掘り出された物が博物館に送られたらしいよ。で、本もかなり出たけど、貴重な文化財だからね、図書館の地下図書庫に納めてあるらしいよ」
「読めないのか~」
「二百年前の羊皮紙だからねえ、保存状態にもよるけど、劣化が酷くてなかなか難しいだろうね。僕も読んでみたいけどね」
そう言ってルカっちは笑った。
やっぱり図書館の委員をやるぐらいだから、本が大好きなんだろうねえ。
「あとこの学園を建てた時の記録が建築の棚にあるよ」
「おお、面白そう」
私は建築の棚に飛んでいき、『王立アップルトン魔法学園、建築の記録』という本を取ってきた。
「じゃ、これだけ貸してください」
「うん、解った。読書カードを作るよ」
ルカっちは私の読書カードを作ってくれた。
そして、書名と貸し出し日時を書いてくれた。
「貸し出しは五冊までで、期間は一週間だよ。よろしくね」
「わかったよ。んじゃあ、ありがとね、ルカっち」
「うん、またね、マコトくん」
そう言って、ルカっちは読みかけの本を開いて読み始めた。
本の妖精とか言ってたが、あながち嘘でも無い感じだな。
「ところで、ルカっちは何を読んでるの?」
「ん、下世話な騎士道小説だよ」
「面白いの?」
「……さあ? 出てくる色が綺麗だから読んでるんだ」
「色?」
「ほら、音に色が付く人がいるだろう、僕は文字に色とかイメージが出る人間でね、だからいろいろなイメージや色が出る本が好きなんだよ」
おおお、前世で聞いた事がある、共感覚ってやつだね。
魔法じゃないけど、人間の脳って凄いよなあ。
「その本は読み物としてはどうなのよ?」
「うーん、どうだろう。あまり面白く無いかもね。わりと淡々として盛り上がりに欠けるし」
「それでも色のために読んでるんだ」
「そうだよ、色々な色が見えて綺麗なんだ」
変わってんな、ルカっち。
んじゃまたな、とルカっちに手を振って図書館を出た。
かび臭い図書館の建物から出ると外は明るいね。
「マコトさま、ご本の方、お部屋に運んでおきましょうか?」
いきなりダルシーが横に出てきて、びくっとした。
「あ、ああ、お願いできる?」
「かしこまりました」
ダルシーは四冊の本を持って渡り廊下から飛び降り、そしてポーンと跳び上がって女子寮の方へいった。
重拳は便利だなあ。
立体機動だ。
さて、集会室を覗いて、そのあとお風呂にいくかな。
二階渡り廊下横の階段を降りて、一階渡り廊下を伝って集会場へ。
中に入ると、おしゃれ組と剣術組がいた。
あとライアンくん。
「おろ、ライアンくん」
「あ、領袖、寄らせてもらってます」
「もう、体の方は大丈夫?」
「ええ、とても調子が良くて感謝してます」
ライアン君から麻薬の影響は抜けたようだね。
めでたしめでたし。
「ライアン君と何喋ってたの、メリッサさん?」
「いろいろポッティンジャー公爵家派閥の秘密を探っていましたわっ」
「あはは」
ライアンくんが苦笑いをしている。
「メリッサは単にゴシップを話してました」
「あ、カトレアさまっ、ばらしちゃいやですわっ」
ああ、なるほど、メリッサさんとマリリンは、ライアン君と同じく、公爵派閥だったから、積もる話もあるのね。
「男性が少ない派閥だから、居づらいかもしれないけど、気軽に遊びにきてね」
「はい、ありがとうございます領袖」
エルマーも居心地悪そうにしてたしなあ。
カーチスに至っては、最初の一回来ただけだわ。
男性の派閥員かあ。
といっても、むやみに人数を増やしてもなあという気もするね。
流れに身をまかせましょうぞ。
「ところで、カトレアさんとコイシちゃんは、どうして集会室に? バッテン先生は?」
「筋肉痛で動けなくなったってさ、今、お風呂に行ってるよ」
「よる年波には勝てないみょん」
コイシちゃんはなにげに酷いな。
しかし、どうなんだろう、もう大浴場の薬効は抜けてるんじゃないかな。
一瓶しか入れて無いし。
あとで確かめてみよう。
「さてと、じゃあ、私はお風呂行ってくるよ」
「わたしも行くみょん」
「わたしもわたしも」
「ご一緒しますわ」
「いこうか」
みんなで行かんでもいいのにな。
まあ、いいか。
「それでは僕も失礼しますね」
「またね、ライアンくん」
「はい、また寄らせていただきます」
うん、ライアンくんは集会室に二度とこないな。
そんな気がする。
みんなが外に出たので施錠する。
「あ、ライアン君にも鍵をあげよう」
「え、良いんですか?」
「また来て欲しいからね-」
私はポケットから集会室の鍵を出してライアン君に渡した。
ライアン君は拝むように受け取った。
いや、そこまでありがたがるものじゃないぞ。
ライアン君と別れて、私たちはぞろぞろと女子寮を目指す。
バッテン先生がいたらヒールでも掛けてあげようかな。
筋肉痛にはヒールでいいんだよね?
キュアかな?
うーん、まあ、先生に会ったらためそう。