第190話 長耳は学園の夜を音波で探知する(Side:長耳)
Side:長耳
『長耳定時速報:聖女派閥のメンバーの現在をご報告いたします。領袖のマコト様は現在、錬金室から階段を使って降りておられます。なにか良いことがあったのか、笑い声をあげていらっしゃいます。コリンナさまは205号室に、カロルさまは錬金室におられます。カトレアさまは地下大浴場で入浴中。エルザ様、メリッサ様、マリリン様、コイシ様、ジュリエット様は、それぞれのお部屋でご就寝されました。ユリーシャ様はペントハウスにいらっしゃいます』
『緊急速報:先日の盗賊の仲間とおぼしき五名の賊が東側の壁を突破しました。が、駆けつけた諜報メイド、ギララに対処され、死亡いたしました。お手すきの方は埋葬のお手伝いをねがいます』
『警戒速報:大神殿のリンダ・クレイブル導師が学園西側の外周道路を移動中。学園侵入時は誤って戦闘を仕掛けないでください。彼女の脅威度はS+です』
『長耳定時速報:エルマーさまが魔術実験室から出て、男子寮にお戻りになるようです』
『カーチス様:就寝前の定時報告をおこないます。気になる会話を拾いました、お伝えします。傍受時刻は21:36分、場所は学園四階のポッティンジャー公爵家集会室です』
カチャンカチャン(ティーカップが受け皿に当たる音)
「これで、あの忌々しい偽聖女に一泡吹かせられるわね」
「本当ね、あんな陰険な女は今すぐ没落して、平民に戻ればいいのよ」
「まったく、パン屋の分際で生意気よね」
「私の家は伯爵家なのよ、いくら聖女候補とはいえ、恐れ敬うのが普通でなくって? それなのに、あの馬鹿は私に逆らってばかり、思い上がってるのよね」
「そうですわね、諜報の基本も知らないくせに、偉そうに『あなたは諜報がむいてないわ』なんて、どれだけ傲慢なのか。ああいう跳ね返りを許しておいては貴族の沽券にかかわりましてよ」
「そうですわそうですわ、良い事を言いますのね、私もちょっと食堂で便宜をはらってもらおうとしただけなのに、ルールを盾にがみがみと難癖をつけて、そのせいで私はお友達に食べ物に卑しいと思われましたの。風評被害ですわっ」
「おつらい思いをされましたのね。お気持ちをお察ししますわ、でも大丈夫、私とあなた様が組めば、聖女候補なんか物の数ではなくってよ」
「ふふふ、パン屋の娘の吠え面がいまから見えるようですわ。地方都市伯爵の実力を見せてやりますわよ」
「頼もしい味方ですわ、こんごともよろしくおねがいしますわ」
「こちらこそ、お近づきになれて嬉しく思いますわ。二人でパン屋の娘に恥をかかせて、学園を追い出しましょうね」
「そうですわ、あんな小物に何時までも関わってはいられませんのよ、来年から私は大仕事がまってますから」
「おほほ、あなたのご主人のお嬢様のお輿入れですわね。遠大な計画で、さすがは英雄の考えたはかりごとと感心しましたわ」
「この国の中心をがっちり掴んでしまうのですわ。そのためにはどんな犠牲も恐れてはいけませんことよ」
「あら、景気のよいお話ね、成功の暁には、我が家も一枚噛ませて頂きたいわね」
「ほほほ、成功の暁には、私たちの派閥は栄華の頂点を迎えますわ。少しぐらいの利益誘導は出来ましてよ」
「これは良い方と知り合えましたわ、これからも宜しくおねがいいたしますね、デボラ・ワイエス伯爵令嬢さま」
「ええ、こちらこそ、こんなにお話の解る方だとは思いませんでしたわ、ケリー・ホルスト伯爵令嬢さま」
「それでは失礼いたしますわ、ごきげんよう」
「計画が次の段階に入りましたら、またご連絡さしあげましてよ」
「おほほほ、楽しみですわ」
ガタン、キー、バタン(ドアの音)
「ふん、伝統がある都市持ちの伯爵令嬢かなにか知りませんけど、性根が卑しい馬鹿者ですわ。せいぜい利用させてもらいますわよ」
かっかっかっかっか(足音)
「ふん、新興の鶏卵令嬢風情が生意気に、諜報ごっこをしていれば良いのだわ。パン屋を追い出したら利用だけさせてもらいますわよ」
『本日の報告は以上です。おやすみなさいカーチスさま』




