第188話 エステル先輩に呼ばれて屋上ペントハウスへ
「なんか、食堂の料理、めちゃくちゃ美味しくなってないか?」
バッテン先生が口を押さえてそう言った。
「マコトが色々手を回して改善しました」
「朝ご飯も美味しくなったみょん」
「これは凄いなあ。美味しいなあ、毎日これでもいいな。お風呂に入って夕飯を食べる。完璧だ」
バッテン先生、それは駄目な大人ではないかな。
ご飯を食べおえ、お茶を飲みながらまったりする。
はあ、美味しい物を食べると充実するね。
エステル先輩が食堂に入ってきた。
「マコトくん、あとユリーシャも、ちょっと来てくれるかな」
あ、やべえ、お風呂の事で怒られるかな。
私はゆりゆり先輩と共にエレベーターでエステル先輩のペントハウスへ連行された。
「おじゃましまーす」
ゆりゆり先輩のペントハウスと同じ間取りだけど、家具類がなんかお洒落で北欧な感じがするね。
エステル先輩は北の方の出身なのかな。
応接室に通されて、ソファーをすすめられた。
すごくふかふかなソファーに埋もれそうになりながら座る。
「さて、君たちを呼んだのも他では無い、地下大浴場の事だ」
ああ、やっぱり怪しい薬をお湯に混ぜたら良くなかったかな。
「ごごご、ごめんなさい、もう二度としませんので」
「いや、抗議では無いんだ、マコトくん。地下大浴場のお湯でお肌がつるつるになったとか、悩んでいた生理痛がなくなったとか、喜びの声が沢山上がってきていてね」
「はいはい」
「ついては、定期的に同じ薬をお風呂に入れられないかと思ってね、あの薬は高いのかい?」
ああ、そういう事か。
怒られないでよかった。
「高いといえば高いし、安いといえば安いです」
「自作のポーションなのよね、マコトさま」
「そうです、ユリーシャ先輩、先週、錬金の授業の時に出来た物で、どうやらヒールポーションという聖女にしか作れないポーションのようです」
「そ、それは高価そうだね。あまり高いと予算がね」
「値段は普通のポーションと同じですよ、原料が一緒なので」
「そんなにお安いんですの?」
「それは安いね」
「私が作ったポーションというだけですので」
材料も薬草だけだしね。
野原に行って、自分で薬草摘んできたら、原価無しやぜ。
「定期的に買う事は可能かな?」
「カロルの錬金室で作ればいくらでも生産可能ですよ、値段もポーションと同じでかまいません」
「おお、それは良い、生徒の中から、是非とも今後とも続けて欲しいという声が沢山あがっていたんだ」
「毎日、薬湯に入るのも、逆に疲れそうですわね」
ゆりゆり先輩が思案顔で言った。
「そうだね、日を決めて入れようか。そうだね、一週間の始まりの月曜日に入れて英気を養ってもらうのはどうかな」
「一週間に一本とか二本なら何でもないですよ」
「では、ポーション二本分の値段を払おうではないか」
ふむ、倍の値段か、まあ、もともと一本五百ドランクぐらいの物だから倍になってもそんなでもないけどね。
みんながお風呂で健康で美しくなってくれるならかまわないな。
「良いですよ、日曜日に納品でいいですか」
「ありがたい、では日曜日にヒールポーションを二本届けてくれたまえ」
「うちのメイドに持たせますね」
「おねがいするよ。あとで僕も入ってこよう」
「すごく効きますわよ。お肌がつるつるで古傷の跡もなくなりますわ」
「それはすごいね」
エステル先輩はにっこり笑った。
彼女にはいつも舎監のお仕事でお世話になってるので、是非大浴場で疲れを癒やしてほしいね。
「月曜日を聖女の湯の日にしましょうか」
「ああ、それは良いネーミングだ、さすがはユリーシャ」
それはやめろい。
月曜と、水曜日にヒールポーションの日を作るのもありかな。
まあ、そこらへんはエステル先輩におまかせしよう。
「あ、それから、ユリーシャ、生徒から苦情があがってる」
「な、なんですの、私にですの?」
「ユリーシャ先輩が大浴場でぎらついた目で見てくるのでコワイです、と、新入生から。ユリーシャ先輩にお風呂でお尻をガン見されました、と、二年生から。おなじような報告が多数あがっている」
あちゃあ、なにやってんだ、このガチ百合先輩は。
「ご、誤解ですわ、なにかの間違いですの」
「だいたい君は大浴場を出禁になっていたのではないかね?」
「寮の執行部が代わりましたから、当然規制も解除ですわっ」
副舎監だからって勝手に規制解除して、大浴場に忍び込んではいかんと思うね。
「では、改めて規制をかけよう、舎監生エステル・ファリノスの名において、ユリーシャ・アップルビーの大浴場への立ち入りを禁止する」
「ご、後生ですわ~。せ、せめて聖女の湯の日だけは~、おねがいですわ~」
「お部屋のお風呂でも入れるように、小瓶のヒールポーションをあげますよ、ユリーシャ先輩」
「そういうことでは無いんですわ、マコト様、そういう事ではっ」
「「自業自得」」
私とエステル先輩がハモってしまったよ。
ガチ百合を地下大浴場に放つのは危なすぎだ。
「あんまりですわ~~~~っ!!」
ゆりゆり先輩はハンカチを噛んでガン泣きしていた。