第185話 聖女派閥が大浴場できゃっきゃうふふ
地下大浴場にみんなで行った。
ぞろぞろぞろぞろ。
脱衣場で服を脱ぐ。
というかメイドさんも多いから人数が沢山よね。
浴室に入ると中には、この前の二人のご令嬢がいて、私たちを見るとぎょっとした顔をした。
この子たちは三時頃いるのね。
かけ湯をして、湯船に入る。
はあ、極楽極楽。
「マコトさまはお風呂が大好きなんですわね~」
ジュリエット嬢が笑顔で言ってきた。
「だいすき~、あ”あ”あ”あ”」
「おばさんくさいですわよ」
マリリンが笑って言った。
裸のマリリンは筋肉の鎧を付けているみたいで、とても格好が良い。
「わたくしも、こんな広いお風呂は初めてですわ~。気分がせいせいしますわね。それと、皆さんと裸のお付き合いで、とっても親密になれた気がしますの」
ジュリエット嬢はそう言って笑った。
わたしらがお風呂に入ってほのぼのしてるのに、ゆりゆり先輩がとてつもなく緩んだ顔をしておる。
「天国、天国ですわあ」
「ユリーシャ先輩はあまり大浴場に来ないんですか?」
「一年生の頃は良く来ていたのだけれど、二年になったらユリーシャさまが嫌らしい目で見てくるのでなんとかしてくださいとの抗議が起こって、出入り禁止になりましたの」
この人はもうー。
筋金入りだなあ。
「ダルシー」
お風呂の端に行って、ダルシーを呼ぶとすっと現れて、私に聖女ポーションを渡してくれた。
「綺麗なポーションですのね、良いんですの? お高い物では?」
「高価だけど、使ってしまわないとね。消費期限があるの」
「それでは仕方がありませんわね」
きゅぽんと音を立ててコルク栓を抜いて、聖女ポーションをたぷたぷと湯船に垂らしていく。
水と反応して白濁するんだけど、一瞬でその色は消えていく。
しかし、効果はあんのかね?
まあ、飲める物だから害は無いと思うのだけれど。
「あらあら、まあまあ」
メリッサさんが自分の二の腕をこすっている。
「あら、肌がスベスベになりましたわ」
「本当、すごいわ。あ、あらっ、子供の頃に木の枝で付いた傷跡がありませんわ」
あれ、本当だ、さっきまであったマリリンのお腹の傷跡がなくなっている。
あれか、原液の所に近かったからだろうかね。
「とっても良い匂いですわ~。お肌も温泉に入ったときみたいにつやつやになりましたわ~」
ジュリエット嬢がお湯を両手で顔に掛けていた。
他の皆も、真似をし始める。
私も自分の二の腕を触ってみる。
ぷにぷに。
……、わたし、自分で自分にたまにヒール掛けてるからなあ。
効果無いみたいだね。
「おお、すごいつやつやですわ、みなのお肌もすごいですわね。眼福ですわあ、眼福ですわあ」
ゆりゆり先輩は顔を赤くしてくねくねしておる。
わたしも、みんなを見たが、確かにお肌が綺麗になった感じがある。
美容効果はあるみたいだね。
病気がよくなる効果とかもあればいいね。
生理不順とか、胃下垂とか、乙女には小さな病気が多いからね。
「しかし、コリンナさまは美しいですわねえ」
「うはっ、やめろい」
「本当に、下町なまりでおしゃべりにならないで、メガネをお外しになれば沢山良縁が飛び込んできますわよ」
「いいんだよ、別に容姿で嫁に行こうとは思ってねえしっ」
コリンナちゃんの下町なまりがなくなったら、下町なまり仲間が居なくなってしまうじゃないか。
そういうのはさびしい。
「ああ、なんだか良い匂いだし、お肌には良いし、ゆっくり出来ますわ」
「体の疲れも取れそうですわね~」
コリンナちゃんが興味深そうにマリリンの腕を触っていた。
「マリリンさん、この筋肉はどうしたのよ?」
「なんだか、筋肉が付きやすい体みたいなのですわ、コリンナさま、あとマリリンでようございますわよ」
「そうかー、こまるね、マリリン、わたしもコリンナで」
「あら、コリンナさまはコリンナさまですわ、恐れ多い。本当に困るんですの、朝に一時間走り込んで、腕立て伏せを三百回、スクワットを二百回ぐらいで、こんなに筋肉が付いてしまいますの」
「……、そんだけ運動すれば、これくらいつくよ」
「えっ、そうなんですの? 私の家では、これでも一番運動してないのですわよ」
ゴーゴリー家、恐るべしだなあ。
武家だから一家上げてトレーニングしてるんだな。
「うちは一年に一回も運動しない」
「えっ! そんな家があるんですのっ?」
「うちもしないわよ、マリリン」
「ま、まあっ! メリッサさまもですの? 私の家が特別でしたのね。私ったら」
まったく、マリリンは面白いなあ。
お風呂からあがると、ダルシーが待ち構えていて、私の全身を洗ってくれる。
むー、まだ他人に体を洗ってもらうのは慣れないなあ。
ゆりゆり先輩と、ジュリエット嬢、メリッサさんも、それぞれのメイドさんに洗ってもらっていた。
ダルシーに髪を洗って貰っていると、湯船に入った二人の意地悪令嬢が小声で話していた。
「な、なによこれ、すごいわ、肌がつやつや」
「なにか聖女候補さんがまいていたわ、秘密の薬剤かしら。すごく良い匂い」
「得しちゃいましたわ」
まあ、私たちのおこぼれだけど、存分に薬湯を楽しむといいよ。