第183話 サーヴィス先生にリボンとドライヤーを見せるのだ
「錬金印刷機ってどこにあるんですか?」
「魔法塔だ。まだ実験段階だが、いろいろな物に回路を印刷して作っているよ」
カロルがサーヴィス先生の近くへ席を移した。
「どれくらいの大きさなのですか?」
「そうだね、色々な機器の集合体だから一口には言えないが、この部屋いっぱいぐらいはあるね」
おー、前世の新聞印刷機ぐらいの大きさか。
「印刷の仕組みはどうなってるんですか?」
「銅板画に近いね、原盤をひっかいて溝を作って回路を書いて、錬金インクを流し込んで刷るんだよ」
エルマーが、光るリボンの原画羊皮紙を差し出した。
「細かさは……、これくらい……、出来ますか?」
「うわ、これは細かいねえ、潰れてしまうかな。あと、印刷に向いた書式があって、制御髭などは直線で書くね」
「ふむ、曲線の髭だとかすれるのかい?」
「というよりも、何枚も刷るから、曲線だと潰れて出ない時があるのさ、長官、だから直線だね」
印刷用と手書き用では書式が変わるのか。
なるほどねえ。
「原図を貸してもらって、印刷で作って見よう。それで良いかねマコトくん」
「はい、お願いします。サーヴィス先生。お代はどうしましょう」
「先週、ヒールポーションを貰ったからね、あれと交換で、良かったら来週、魔法塔へヒールポーションを作りに来てくれると嬉しい」
「かまいませんよ、魔法塔の中に入るのは楽しそう。カロルも行こうよ」
「そうね、楽しそう」
「僕も……いこう」
「エルマーもかあ、うん、行こう行こう」
カロルと二人きりで行きたい気分はあるんだけど、エルマーのは純粋な向学心だからなあ。
文句は言えませんよ。
サーヴィス先生がエルマーの手元にあった羊皮紙のドライヤー模型に目をとめた。
「お? お? 何かねこれは、火炎放射器にしては出力が小さいが……?」
エルマーが羊皮紙をくるくると丸めて、スイッチ回路に魔力をともした。
ブイーーーンと音を立てて、温風がサーヴィス先生の前髪をゆらす。
「暖房装置かい?」
「髪……を、乾かす……?」
「ダルシー」
「はいっ」
ダルシーが出てきて、エプロンから霧吹きを取り出し、サーヴィス先生の髪にかけた。
何回もやってるから、ダルシーの動きが洗練されてきたな。
湿らせたサーヴィス先生の髪の毛をダルシーはドライヤー一号器で乾かしていく。
「ほお、なるほど、髪を乾かす魔導具か」
「お風呂上がりに便利なんですよ、すぐ髪が乾くから」
コリンナちゃんが説明するが、サーヴィス先生は羊皮紙に書かれた回路に夢中で聴いちゃいないね。
「これは、売れそうだね、商業化は?」
「これからです、この魔法陣の特許契約も取りたいのですが」
「確かに簡単な回路だから、すぐ真似をされて類似品がでそうだね」
サーヴィス先生は羊皮紙を開いて回路を指でなぞってチェックしていく。
「改善案もおもしろい、エルマー君のかね?」
エルマーは小さくうなずいた。
「完成品はこれか、なるほど金属に彫り込めば耐久性が上がるか」
ダルシーのドライヤー1号器を見ながら先生は長考している。
「髪を乾かすか、産業用の乾燥にも使えそうだね。そちらの方は?」
ジョンおじさんが私に声をかけてきた。
「鍛冶部の人が生産と販売を請け負ってくれましたよ」
「ああ、なるほど、鍛冶部はお金が必要だからか、なるほどなるほど」
「わかった、この回路は特許に送っておくよ。一週間ぐらいで発行となるが、それでかまわないかい?」
「こちらも商品を揃えないといけないのでかまいませんよ」
「あと、この回路も簡単なので、錬金印刷向きだね。羊皮紙に印刷した物を作らないかい?」
羊皮紙ドライヤーか、たしかに平たくして持ち歩けるのは便利だね。
使うときは丸めれば良いのだし。
羊皮紙は厚手なんで、あまり熱も通さないから良いかも。
安いとコリンナちゃんとかも買えるしね。
「五十枚ほど作りましょうか」
「まずはそれくらい作ろう、たぶんもっと沢山刷らないといけなくなるだろうが」
「そうですかね」
「魔導具商品開発部に話すと飛びつくだろうね。いつだってあいつらは売れる物を探しているし」
魔法塔には魔導具の商品を開発する部署があるのか。
異世界知識チート開発をしたい物だが、この世界は乙女ゲームだからわりに何でもあるしなあ。
やっぱり将来は大神殿で聖女さまになって、子供の世話をしたり、神殿の掃除とかをして暮らそう。
それが楽でいいね。
「これで髪を乾かせますの?」
「できるよ、メリッサさん、ダルシー」
「はいっ」
ダルシーが霧吹きでメリッサさんの髪を濡らす。
そしてドライヤーで乾かす。
「わあ、あたたかくて気持ちがいいものですわね」
「わたくしもわたくしも~~」
「じゃあ、次はジュリエットさまね、私は後でいいわ」
「もー、マリリン、やさし~~」
ジュリエット嬢がマリリンにしなだれかかった。
ふと扉の方を見ると、ゆりゆり先輩が細く開けたドアの隙間から、ジュリエット嬢とマリリンの二人を、猛禽のようなギラギラした目で見ていた。
こわい。




