第179話 校門でデボラさんが仁王立ち
食事を終えて、自然公園で少しまったりしてから、学園に戻る事にした。
みんなでおしゃべりしながらポコポコと歩いて学園を目指す。
校門の前でデボラさんが仁王立ちしていた。
うわ、すっごく怒ってるなあ。
あっはっは。
「マコト・キンボールッ!! どういう事なのっ、わ、我が家の家令を道化にして、あまつさえ勝手に謝罪状を掲示するなぞっ!!」
「あなたが、諜報に失敗したからですよ」
「なっ、なんですってーっ!!」
「条約があるのに、ヤクザにお金をばらまいて、私を拉致させようとしたからですが」
デボラさんは顔を真っ赤にして、憎悪の表情を浮かべた。
「しょ、証拠がないじゃないっ!! 我が家がそんな卑劣な真似をしたって証拠がっ!!」
「証拠出せますけど? 逃げられないと思ったから、マイルズさんは降参して、道化の格好でゆで卵を配ったんでしょう?」
「な、なによっ!! あなたが卑劣な恫喝をしてっ!! それでっ!!」
私は黙って、デボラさんを睨んだ。
「今から、ワイエス家のタウンハウスを更地にしてやってもいいんだよ」
「そ、そんな事っ!」
「あんたがやった失敗はそれぐらいの報復を受けて当然の醜態だ、そんな事も解らないの?」
「た、たかが男爵家の娘が、パン屋上がりの平民が、この私、ワイエス伯爵家の……」
「だまれ」
「なっ!」
「何度失敗したら気がつくの? ワイエス伯爵家には大神殿と戦う武力は無いのよ」
デボラさんは悔しそうに歯をギリギリ鳴らした。
「タウンハウスを更地にしてないのは私たちの慈悲なのよ。これ以上人の好意につけ込んで悪さをするなら、見せしめに本気で行くわよ」
「ぐぐぐ」
「あなたは諜報に向いてないわ、アンジェリカさんも使いこなせて無いでしょう」
「あんな生意気なメイドなんかっ!」
「もう止めなさい、二年になってヴィクターさんが来るまでおとなしくしてなさいね。うちは甘いけど、王立諜報組織の『塔』がワイエス家を狙ったら、こんなんじゃ済まないわよ」
「『塔』なんか、出てくるわけないじゃない……」
デボラさんは怯えた表情を浮かべた。
さすがに『塔』は怖いみたいだね。
「ジェラルド、あなたは『塔』に手を回してワイエス家を攻撃目標から外せるかしら?」
「ふむ、できなくは無い、が、今のワイエス家は格好の目標だから、もう動いているかもしれないな」
「え、ジェ、ジェラルドさま、そ、そんな脅かしを……」
「何を言ってるのだ、ワイエス嬢、ポッティンジャー公爵家派閥で一番弱い部分は、いまやワイエス家だよ。プロの諜報組織が狙わない訳がなかろう」
「そ、そんな……」
「ポッティンジャー公爵派と国王派は敵対しているのだよ。ケビン王子とビビアン嬢が婚約をしたからと言って和解した訳ではない。国王派のほとんどの貴族は、ポッティンジャー公爵家の血筋を王家に入れたくない。現在王都の公爵派はウィルキンソン家、マーラー家が抜けて、諜報的には無防備だ、本隊が来る前にビビアン嬢をなんとかしようと部隊が動いていてもなんの不思議も無かろう」
あーあ、デボラさん真っ青になったな。
「ああ、ワイエスさん、安心して、まだ時間はあるから、僕が口をきいて『塔』を押さえるよ」
ケビン王子がにこやかにデボラさんに声を掛けた。
「ケ、ケビン王子さま……」
感極まってデボラさんはうるうるしているな。
「だから、条約が失効するまで、来年まではおとなしくしてくれないだろうか。条約の抜け道を探されたりすると、お互いの信用問題になるからね」
思うんだか、意外にケビン王子ってにこやかだが腹黒いな。
柔らかい言葉だけど、人を誘導する動きを入れてくる。
「わ、解りました、も、もう条約破りはいたしません」
おっし、デボラさんが確約してくれたな。
ケビン王子がこれで良いかいとアイコンタクトしてきたので、いいねとアイコンタクトを返しておいた。
「だけど、覚えておきなさいっ! マコト・キンボール!! 剣弓毒を使わない攻撃ならば出来るんですからねっ!!」
「条約にのっとっているなら何でもどうぞ」
「今に吠え面をかかせてあげますからねっ!!」
ブリブリ怒ってデボラさんは女子寮の方へ走っていった。
「まだ、何かするつもりなのか彼女は……」
「こりないよねえ」
「剣弓毒でない攻撃か、ふむ、なんだろう、鶏卵を止めるとかか?」
「いや、ワイエス領の卵は大きくて美味しいけど、王都で独占してる訳じゃ無いからね」
女子寮食堂では、そんな良い卵は仕入れてなかったな。
美味しいけど高いのよね、ワイエス卵。
「まあ、条約に反してないなら、止めるいわれもないか」
「そう考えたら、『塔』の介入も条約違反ではない?」
「まあね、でも『塔』の常套手段は人を送り込んで、重要書類を押さえるとかだからね、剣も、弓も、毒も使ってないが、普通に破滅だよ」
埋伏の計か、やっかいね。
聖女派閥でも、何人か仕込まれてるんだろうなあ。
ライアン君とか怪しいかも。
……。
まあ、無いか、ロイドちゃんと一緒に公爵騎士団と戦ったしね。
疑うときりが無いね。
「さ、早く教室に行こう、マコト」
「あ、ちょっとまってよ、カロルー」
カロルが愛する私を置いてすたすた行ってしまったので、小走りで追いかけた。
さて、午後の授業は錬金だ。
サーヴィス先生に光るリボンの協力を求めないと。
 




