第178話 自然公園でお昼ご飯を食べているとマイルズさんがやってくる
お昼である。
聖女派閥のみんなでひよこ堂に繰り出し、パンを買って自然公園の芝生の上で食べるのだ。
もはや日課であるね。
「ああ、良い天気、聖女パンもおいしい」
「これって、毎日食べても飽きないわよね」
カロルと肩を付けあって、パクパクとパンを食べる。
ソーダも美味しい。
だが、明日はどうしようか。
毎日ひよこ堂はなあ。
街中の安くて美味しい食堂でも探そうかな。
派閥員が全員入れるお店って限られちゃうよねえ。
派閥の人たちは三人ぐらいずつの小グループに分かれて食事を楽しんでいる。
というか、なんでまた、ケビン王子とジェラルドがいるかね?
ロイドちゃんは、まあ、ジュリエット嬢のオマケだからしょうが無いけどさあ。
「みんなで取る食事って美味しいよね、キンボールさん」
「そうですねー、先週とかお昼はどうしてたんですか?」
「火木はビビアンとだね、他の日はジェラルドと上級レストランだったな」
うへえ、男二人でもそもそ食べていたのか。
あんまり、ケビン王子とジェラルドだとBLでも意外性が無いので人気無かったしな。
グループの距離が近いカップリングは、あんまり面白く無いのだ。
「いつも、無理を言ってついてきてごめんね、キンボールさん」
「まあ、ロイド王子もいますし、しかたがないですよ」
「そこは、とんでもありませんケビン王子だろう、キンボール」
「うっせえ、あんたこそ付いてくるいわれがないぞ、ジェラルド」
「王子の行く所には、私はいるのだ、当然だろう」
「二人はすっかり仲良しだねえ」
「「だれがっ」ですかっ」
うお、ジェラルドとハモってしまった。
くそうくそう。
ケビン王子はロイヤルスマイルを浮かべて笑った。
ほんとうに、ゲームのメイン攻略対象だけあって、笑顔が綺麗だな。
むむむ。
いや、ケビン王子のルートに入るとかまっぴらごめんですけどね。
しかし、ゲームのランチイベントだと、誰かと選択式で、こんな毎日は無かったなあ。
一週間に一回ぐらいで、出てきたらラッキーと思ったものだ。
毎日攻略対象五人とランチデートとか異常だぞ。
この世界はゲームに似ているけど現実だから、強制ルート侵入とかは無いだろうね。
カーチスルートはエルザさんと仲良くなったから無いだろうし。
ロイド王子ルートのジュリエット嬢リッチ化ルートも潰したし。
あとは、エルマーの婚約者のプリシラ嬢を懐柔して、ラスボスのビビアン嬢を打倒すればなんとかなりそうだな。
ジェラルドルート自体はもう潰れてるも同然だし。
わりと一年の前半で片がついた感あるね。
まあ、二年になってポッティンジャー公爵家の本隊がくれば、また変わるのだろうけどね。
私たちが座っている芝生へ、白いきらびやかな鎧を着込んだ集団が、道化師を連れてやってきた。
「聖女さま、ご機嫌はいかがですか?」
「王子さまが二人も居るんだから、先にそっちに挨拶じゃ無いの? リンダさん」
リンダさんがいぶかしげな目で、私を見た。
「我々は神殿騎士なので、一番に重きを置く尊いお方は聖女さまですよ」
そう言って、リンダさんは私に頭をさげ、ふと気がついたように王子たちの方へ目を向けた。
「こんにちは、ケビン王子、ロイド王子」
「徹底してるね、いっそ爽快なぐらいだよ、リンダ師」
「あいかわらず綺麗だね、リンダ師、ねえねえ、彼氏とか居るの?」
「おりませんよ、ロイド王子、私は女神さまと婚姻しておりますので」
「じゃあ、今度、食事に行かないかな、黄道亭でも、どう?」
ロイドちゃん、あんたブレないなあっ!
豪傑のリンダさんを口説くのかあっ!!
「いやあ、ロイドさまっ、私以外に目をやってはいやです~」
「わわ、ごめんよ、ジュリエット、僕の目はいつでも君の青い目を追い求めているんだよ」
「きゃーうれしいです~、ロイド様あ」
リンダさんが、なんだかロイドちゃんをゴミ虫を見る目でみておる。
なにか事故が起こらないうちに注意をそらそう。
「で、なんなの、リンダさん」
「聖女さまにご報告にまいりました」
リンダさんが顎をしゃくると、サイモンさんが道化師の人を前に引き立てた。
「ワイエス家の謝罪状は広場に掲示しました。そして十時からマイルズ氏のゆで卵の配布を確認しました」
「あら、どうでした? マイルズさん」
「そ、それがですな、思いの他大受けしまして、みなさん大喜びでして、一時間しないうちにゆで卵が終わってしまいました」
「あら、良かったですね」
「それで、受け取れなかった、子供や奥さんから、もっと配ってくれと頼まれまして、いまからタウンハウスに戻って卵を補充して、また配るのです」
いや、別に恥をかかせるためにやっただけで、民を喜ばせるためじゃないんだが。
「みな、ワイエス領のゆで卵だと、大喜びで、本当に私どもも嬉しくて、聖女さまは私に大恥をかかせるために罰を与えたと思っていたのですが、浅はかでした」
「あ、はい」
「みながゆで卵を食べる、その顔を見て、あなたさまが私に伝えたい事はこういう事だったのだなと得心いたしました。諜報のまねなぞしなくてもワイエス領には卵と鶏という宝があるではないか、なぜ本業を圧迫してまで下らない事をしているのだと、聖女マコトさま、あなたはそうおっしゃりたくて、私めにゆで卵を配れと命令したのですね、本当にご指導感謝いたします」
いや、そんな事は一ミリも考えてなかったんだけどー。
単なる嫌がらせだったんですけどーっ。
マイルズさん、目をキラキラさせて泣いているんですけどーっ。
「私は毎週月曜日に道化の格好をして、ゆで卵を配る男として中央広場に出ます。ワイエス領の本懐は鶏卵なのです。今はお嬢様も間違っておられて、慣れない諜報で失敗ばかりしていますが、きっと、私の姿を見てワイエス領の本懐を自得してくれる事でしょう。ありがとうございます、ありがとうございます」
「そ、そう、がんばりなさい」
「はいっ!!」
「さすがは、聖女マコトさま、その深慮遠謀には、このリンダめも頭がさがる思いです」
ちがうってば!!!
リンダさんまで目をうるうるさせんなっ!!