第175話 登校したら壁新聞が更新されていた
今朝も相変わらずメイドさんの起きる音で目をさました。
「今日はまた一段と眠そうだね、マルゴット」
「まあねえ、夜中にトイレに行ったら外で猫が集会しててさあ」
「ぷっ、そんなもんを見ているんじゃあないよ。メイドは健康第一、睡眠はしっかりとらないとね」
「そうだねえ、カリーナの言うとおりさ」
そう言って、マルゴットさんはふわあとあくびをした。
猫見て寝不足とは、マルゴットさんらしいや。
「おはよう、マルゴットさん、カリーナさん」
「おはようっ、マコト、今日も良い天気だよっ」
「おはよう~、マコト~」
カリーナさんは今朝も元気だなあ。
メイド二人を送り出すと、コリンナちゃんが起きてきた。
「おはよう」
「おはよう、コリンナちゃん」
さて、用を足したり、顔を洗ったり、歯を磨いたりしていると、ダルシーがケトルを持って入ってきた。
コリンナちゃんと差し向かいでお茶を飲む。
うん、まあ普通の味で目が覚めるね。
「さて、行こうか、コリンナちゃん」
「今日から授業か、やれやれ」
「授業無くても勉強しているくせに」
「数学とか進みがのろくて眠いんじゃあ」
「それはコリンナちゃんだけの悩みだなあ」
鞄を出して、教科書を入れる。
今日の時間割は、国語、数学、魔術理論、武術か。
あと、午後は念願の錬金授業があるね。
楽しみ楽しみ。
廊下に出て205号室を施錠する。
ぱたぱたとコリンナちゃんと小走りで階段を駆け下りる。
エレベーターホールでは今日も聖女派閥の皆が待っていた。
「おっはよー」
「おはようございます、マコトさま」
「マコト、おはよう」
「おはようみょん」
「おはようございますわ、マコトさま、コリンナさま」
「おはよう、マコト、コリンナ」
今日のカロルは早いな、私らの先にきているとは。
チン。
エレベーターが鳴って、ジュリエット嬢がグランドメイドのクレアさんと降りてきた。
「お待たせしちゃったかしら~、マコトさまおはようございます~」
「おはよう、ジュリちゃん、そんなに待ってないよ」
「よかった~、わたくし、最近みなさまとご飯を食べるのが楽しみでしょうがないです~」
「そうなの、それはよかったわね」
「ちょっと前だと、一人でご飯を食べて、一人で遊んで、おしゃべりするのもロイドさまだけで、面白くなかったのですけど、最近はみなさまと親友になれてとっても楽しいのっ」
そう言って、ジュリエット嬢は、メリッサさんと、マリリンの手を取った。
「そんな、恐れ多いですわ、ジュリエットさま」
「私たちは身分が……」
「わたくし、身分と人の好ましさに関係が無いって、やっと気がつきましたの。お嫌でなければ、これからもずっと仲良くしてくださいましね」
ジュリエット嬢は笑って小首をかしげて、とてもあざといが、とっても可愛い。
メリッサさんも、マリリンも、赤くなってはにかみながら、こちらこそと承諾していた。
クレアさんも笑顔で嬉しそうだな。
食堂に入ると、けっこう混んでいるね。
二つのテーブルに分かれて座る感じかな。
剣術組とお洒落組、カロルとコリンナちゃんと私な感じに分かれた。
カウンターでメダルを見せて、メリサさんからポリッジを受け取る。
お茶をついで、テーブルへ。
みんなが揃ったら食前のお祈り。
「いただきます」
「「「「女神さまに毎日の糧を感謝します」」」」
だからー、私をおがむな~~。
まわりの女生徒も笑みを浮かべて私を拝んでおるぞ。
もういい、食べる。
ぱくり。
今日のポリッジは塩味、薄いチキンの出汁が美味しいね。
副食はハムだった。
カロルは塩味で、コリンナちゃんは甘々蜂蜜であるね。
あー、今日も美味しいなあ。
ご飯を食べ終わったら、食後の祈りを捧げて、食器を返して、登校だ。
みんなでぞろぞろと歩く。
さすがにカトレアさんも鞄を持って食堂へきているね。
寮を一歩でると、日差しが強くて暖かい。
春まっさかりですねえ。
良い陽気ですな。
寮から校舎へはそんなに遠くない。
わやわやとおしゃべりしながらみんなで歩くよ。
校舎に入ると、出入り口奥の壁に人だかりがしている。
また壁新聞か。
どれどれ?
『学園の勢力地図に激震走る! 毒蜘蛛マーラー家が公爵派閥を離れ、聖女派閥に!!』
魔法学園新報が更新されていた。
なかなか調べている記事だね。
簡潔に事実だけを報じて、学園の勢力地図の変動を書きあらわしている。
ふむふむ。
公爵家の今後が大変だな。
新貴族速報の方は更新されてないな。
先週の壁新聞のままであるよ。
ヒルダさんが釘をさしたかな。
「さて、公爵派閥の腰の座っていない家が右往左往しはじめるだろうな」
「そうだな、ジェラルド、欲しいだけ国王派が取っていいよ」
「ふむ、気持ちが悪いなキンボール、国王派が総取りで良いのか?」
ジェラルドが眼鏡をキラリと光らせて、こちらを見た。
「かまわないよ、あまり構成員が増えると、管理しかねるから」
「たしかに、管理系の貴族が足りないか。戦闘系はブロウライト家がいるし、諜報はマーラー家だな。オルブライト嬢、あなたがユリーシャさまから派閥管理の手法を学ぶのだな」
「そうですね、それは考えていますよ、マクナイトさま」
「補助にグリニー嬢を使うべきか、彼女は社交界に明るい」
グリニーさんというのは、エルザさんだな。
というか、人の派閥の人事に口を出すんじゃあねえよ、陰険メガネめ。




