第172話 諜報メイドは夜中の学園で暗躍する(ダルシー視点)①
Side:ダルシー
マコトさまをお風呂でお洗いしているときはとても幸福に感じます。
聖女さまの、ケガレの無い清らかなお体を、私のような罪深い汚れた女が触っても良いのかと迷うのですが、マコトさまのお世話をしたいという欲求にはあらがえず、はしたなくも洗わせていただきたく、ご本人にお願いしてしまうのです。
マコトさまのお体は本当に美しく、洗いながらも愛らしい胸の突起や、つつましい愛の丘などを目で追ってしまいます。
まるで昔の巨匠が作った天使像のような美しさ。
それが生きて動いている。
この世に生まれた奇跡と言うべきかもしれません。
マコトさまを見ていると、私の胸の奥に甘い甘い熱のような塊が生まれて、なにやら叫び出したい感情に駆られます。
ですが、私はメイド、そんなはしたない事は死んでもできません。
ただ、マコトさまを、熱情の限りにお世話させていただくのが、今生の幸いと言えましょう。
マコトさまのキラキラ輝く黄金の御髪を洗わせていただきます。
ああなんという肌触り、天上の天使の御髪と言われても信じます。
丁寧に、丹念に、シャンプーを泡立てるようにやわらかく。
御髪を洗われているときのマコトさまは、目を閉じてうっとりされていて、本当に可愛いく見とれてしまいます。
きもちいいですか?
マコトさまが気持ち良さそうになされていると、私まで嬉しくなってしまいます。
「ダルシー、コリンナちゃんの頭も洗って上げて」
「わ、私はいいよっ」
ご学友のコリンナさまの御髪もお洗いするのですね。
かしこまりました。
「お洗いしますよ、コリンナさま」
「ああっ、あ~~~~~っ」
コリンナさまも、マコトさまほどではありませんが、十分お綺麗な方で、お世話が楽しゅうございます。
身分は男爵家令嬢なのですが、将来は行政府の財政官をご志望なされている才媛さまでございます。
マコトさまのご親友の一人ですので、さぞやご出世なさる事でしょう。
私などが近づけるのは学生であられる今ぐらいなのでしょうね。
コリンナさまの御髪も洗い終わりました。
ずっとお下げになさってますので、少々結び目近くの髪が荒れている感じがいたしますね。
そこに重点的にリンス液を掛け、あとは全体にまんべんなく広げます。
そして、シャワーで洗い流します。
「これは、官能的だな、マコト」
「気持ちいいだけじゃないぞ、ほら、髪もつやつや」
「ほ、本当だ、どんな魔法を」
「では、ごゆっくり」
お辞儀をして、隠密スキルを発動します。
このスキルはメイドの里卒業生が卒業記念に頂く指輪に付いている【視線可視化】という魔法を使った技なのです。
この魔法を使用すると、人の視線が円錐状に見えるようになりますので、そこをかいくぐり、姿を消す技です。
静かに誰の視線も無いお風呂場の端に立ち、マコトさまが何かご所望されるまで待機しております。
お風呂の中のお二人も可愛らしい事。
メイドならではの眼福物といえましょう。
『長耳定時速報:カーチスさまが寮を抜け出し、街に遊びにでかけました。追跡は執事エント、いつもの飲み屋に行くご様子なので特に心配は無いと思われます』
長耳さんの定時速報が耳に流れてまいりました。
これは、カーチスさまが聖女派閥に入られてから、開かれた、諜報メイドの私とアンヌにだけ通じる情報網です。
派閥関係者が何をしているか、長耳さんは、風の聴力魔法で得た情報を教えてくれるのです。
先日の二人の悪令嬢が、マコトさまのロッカーにいたずらをしようとしておられた時に通報してくれたのも彼女です。
彼女は学園近くのアパートに住んでいて、寝たきりなのだそうです。
聴力だけがすばらしく優れており、学園の範囲の出来事を音で聞き取り、私たち諜報メイドや、カーチスさまへ、風魔法で伝達していただけます。
マコトさまや、カロルさまにも、この素晴らしい諜報技術をとお願いしましたが、カーチスさまがマコトさまには秘密にしておきたいとの事で、今は諜報メイドだけの運用となっています。
カーチス様は豪快なお方ですが、ときどきケチですよね。
学園の範囲内に限られますが、恐ろしく高性能の諜報技術と言えましょう。
弱点は、視覚を伴わないので、時に誤報があること、同時に何カ所かで事件が発生すると対応が遅れることですね。
長耳さんが沢山いらっしゃれば良いのにと思いますが、どうやらエルフの里でも一時代に生まれる【聞き耳】は一人か二人だけなのらしいのです。
ものすごく貴重な能力なので、エルフの森を領地内に持つブロウライト家が独占しているそうなのです。
あ、マコトさまとコリンナさまがお風呂をお出になりますね。
先回りして、脱衣所に参ります。
お二人が出てくるのをお出迎えします。
マコトさまの全身をバスタオルでお拭きして、髪の毛の水気も取ります。
そして、マコトさまに頂いた、ドライヤー一号器を腰から取り出し、遠くからかけていきます。
なるべく均等に、あまり熱くして御髪を痛めないように。
ブィ~~~ン。
さすがはマコトさまの開発した魔導具、御髪があっというまに乾きました。
さて、マコトさまにドロワースを履かせて、ブラジャーをしてあげます。
そして制服を着せて差し上げましょう。
全裸のマコトさまも愛おしいですが、制服姿のマコトさまもキュートでとても素敵です。
さて、コリンナさまの御髪も乾かしましょう。
「わ、私はいいよ」
「やってもらいなさいよ、凄く気持ちいいし、すぐ乾くよ」
「そ、そう?」
コリンナさまの背後から長い灰髪を整えるように乾かして行きます。
もう少し色が落ちるときれいな銀髪なのですが、でも、つやつやとした灰色の髪も、コリンナさまにとてもお似合いですわね。
「ふわー、つやつやふわふわで綺麗。ありがとうダルシーさん」
「いえいえ、とんでもございません」
お褒めにあずかると、思わず頬が緩んでしまいますね。
いけませんね、メイドは表情を変えるべきでは無いのです。
メイドの里では、メイドは家具什器の一種だと思って行動しなさいと言われておりました。
私はまだまだ未熟です。
私は深く頭を下げて、視線を可視化して、お二人が見えない位置に移動しました。




