第167話 王都繁華街を劇場目指して歩くぜ
その後、カロルが自分のお化粧をした後、コリンナちゃんにもお化粧をほどこした。
「というか、コリンナってすごく綺麗なのねー」
「ねー、メガネで台無しだよ」
「うるせー、下級貴族に美しさなんか関係ないんだよっ」
「そうじゃないわよ、きっと高級貴族さんから後妻の話とか来るわよ」
コリンナちゃんは美少女の顔で思いっきりしかめっ面をした。
しかめっ面も可愛い。
「後妻なんかまっぴらごめんよ。私は一人で成り上がるんだから」
「「おーっ」」
カロルと二人でコリンナちゃんを拍手した。
コリンナちゃんはタオルでこしこしと化粧を落とし、いつものぐるぐるメガネをかけた。
「メガネだけでも良い物を」
「いやよっ」
にべもないなあ。
ちょっとでも透明度の高い眼鏡にすればモテモテになれるのになあ。
「じゃあ、お芝居行ってくるからね」
「あいよう、私は図書館で勉強してるよ」
「さすがコリンナね、偉いわ」
「がんばってねえ、じゃ、行こうカロル」
「うん、じゃ、コリンナまたね」
三人で錬金室を出て、エレベーターに乗り込む。
ああ、カロルから化粧品の良い匂いがするねえ。
一階まで降りて、女子寮の入り口でコリンナちゃんと分かれる。
「コリンナって綺麗なのね」
「カロルは知ってるものだとばかり思ってたよ」
「あの眼鏡に騙されたわ。もうちょっと地味な顔かと思ったわ」
「大もうけして、コリンナちゃんに眼鏡をプレゼントしよう」
「そうね、それが良いわ」
二人でおしゃべりしながら校門をくぐって街に出る。
今日は良い天気だから、学園の生徒が結構歩いているな。
春の王都は好きだな。
冬の間の鬱憤を晴らすように花が咲き乱れて景色が派手でいい。
気温も暖かくなって体が楽なんだよね。
ひよこ堂の前を通って、大神殿の方へ歩いて行く。
大神殿の前で、斜めに抜ける通りが、繁華街であるよ。
劇場とか、高級服店とか、宝石屋とかが立ち並ぶハイソな通りだね。
綺麗に飾り付けられた店頭を冷やかして歩く。
可愛い服、綺麗なアクセサリー、小洒落たカフェ。
いいねえいいねえ、乙女の夢だね。
ちなみにここはヒカソラのデートコースにあって、ロイドちゃんとか連れて行くと喜ばれる。
イルダさんの実家の黄道亭も、この通り沿いにある。
美味しいけど、馬鹿高いお店であるよ。
帰りに、カロルと夕食を……。
とも思うのだけど、お金が~、お金が~。
ああ、浪費しまくるだけのお金が欲しい。
巨万の富が欲しいねえ。
巨万の富があれば、カロルにお洋服とか買ってあげるのに。
「マコト、ドレスが欲しいの?」
カロルに着せたくて、ショーウインドウを睨みつけていたら、自分が欲しいと勘違いされたようだ。
「買ってあげようか」
「た、高いよ」
カロルは値段札を見た。
そして、私を舐めるように見る。
「はあ、マコトがこれを着たら可愛いわよねえ、買ってあげるよ」
そういや、カロルは普通に巨万の富を持っているのであるな。
自分の事には使わないのに、コリンナちゃんとか、私にはおごりたがるんだよねえ。
「いいよ、ヒルダさんのドレスが来るし」
「二週間後だっけ、楽しみよね」
「カロルのドレス姿も楽しみ~」
「マコトのドレス姿の方が可愛いわよ」
「そんな事無いよ、カロルも凄く可愛いわよ」
「もう、マコトったら口が上手いんだから」
本当だよ~。
まったく、カロルは自己評価が低くていけないね。
すっごい美人だし、頭は良いし、世話焼きさんだし、思いやりもあって、最高の親友で、私の嫁だ。
と、カロルとイチャイチャしていたら、回りをスーツの漢たちに囲まれているのに気づくのが遅れた。
私たちの左右に、ダルシーとアンヌさんが現れる。
人相の悪い一団。
ヤクザ組織かな。
「へへ、姉ちゃん達、ちょっくら付き合ってくんな」
下卑た笑いを浮かべて、一番年寄りのヤクザが言った。
「やだっ、芝居に間に合わなくなるっ、ダルシー、アンヌさんっ、突貫!! 三十秒で片付けてっ!」
「「はいっ!!」」
二人の諜報メイドは、きっちり三十秒でヤクザの団体をボコり、全員地面に這わせた。
「ぐぐぐ、ば、ばかな、こ、こんなっ」
「私は聖女候補だから、お前の組に神殿騎士団を派遣して更地に変えてもいいんだけど、今日は急いでる。さっさとうせろ」
「せ、聖女候補生!! ば、ばかなっ、そ、そんなっ」
「さっさと失せろと言った、もう一度言わなきゃならないのか?」
「い、いえっ、し、失礼しやしたっ!!」
ヤクザたちは青くなって、ペコペコ謝りながら散っていった。
本当にもうっ。
繁華街は大神殿に近いので、聖騎士が二人ダッシュで走ってきた。
「だいじょうぶですか、聖女さまっ」
「おけがはっ!」
「無いよ、大丈夫。聖女候補生、マコト・キンボールが聖堂騎士団に命令する」
「「ははっ!! 喜んでーっ!!」」
君らは、ちょっと前世の飲み屋の店員みたいだぞ。
「王都の全てのヤクザ組織に行って通達してきてちょうだい、金髪の小柄な女生徒を拐かす仕事が来ていると思うが、そのターゲットは聖女候補生だから、話に乗ったら聖堂騎士団がお前達を皆殺しにすると」
「「ははっ! かしこまりましたっ!!」」
聖騎士二人は全速力で大神殿に帰っていった。
「妥当な恫喝ですね」
アンヌさんが微笑んで言った。
次にカロルとのデートを邪魔した組は、本当に聖戦掛けちゃうぞ。