第165話 鍛冶部が金属製ドライヤー一号器を作る
「何を作ってほしいんだい?」
「ドライヤー」
バルトロ部長は眉間にシワをよせた。
「【火力と風力によって乾きを呼ぶ物】? 洗濯乾燥器か?」
おしい、というか、この世界は洗濯乾燥器はあるのか?
クリーニング室にアイロンとかあったが、乾燥器はあったかな?
「こういう物らしいわよ」
カロルがバルトロ部長に羊皮紙で出来たドライヤーの模型を渡した。
「ふむ」
彼はスイッチ回路に魔力を通してブオーと起動させた。
「おお、ぬくいな。これで乾燥……。おい、膠もってこいや」
「うおいっす」
マッチョ一号がねばねばした物が入った容器を持って来た。
羊皮紙に刷毛で膠を塗りつける。
バルトロ部長がドライヤーの熱風を近づける。
「おおっ、乾く乾く、すげえぞこれっ」
「塗料とか乾かすのにもよさそうですねっ」
「よし、これは鍛冶部でも作ろう」
「良いですね」
お、鍛冶系男子には好評のようだな。
バルトロ部長が、羊皮紙を開いて、魔法陣を確かめている。
「ふむ、陣は簡単だな。魔石は接着か、台座式にするかい?」
「魔石は交換するから、台座式がいいかもね」
「筒の上に台座だな。クリップ式がいいか」
バルトロ部長がマッチョ二号に金属板を持ってこさせた。
鉄板かな?
「俺が火の回路を描く、ケルガが風の回路を後で描け」
「オーケーッ」
バルトロ部長が鏨でガンガンと魔法陣を彫り始める。
おお、金属にはそうやって魔法陣を彫るのか。
マッチョ一号が、後を継いで、風の魔法陣を彫り始める。
火の回路の線は赤だが、風の魔法陣は緑だね。
マッチョ二人とバルトロ部長がやっとこで鉄板を器用に曲げていく。
おお、ずいぶん綺麗に筒になるもんだなあ。
筒の上に回線を伸ばして、台座クリップを取り付ける。
台座に、赤と緑の魔石を設置する。
持ち手を溶接して、スイッチ回路を付ける。
スイッチマークを避けるように、持ち手に綺麗に皮を巻いて、できあがりである。
早いなあ。
「わりと簡単だな」
「鍛冶部の人たちだからだよ」
「試してみな、マコトちゃん」
ダルシーが現れて、ドライヤーを受け取った。
「ダルシー……」
「これを使うのが待ち遠しいです。マコトさま、髪を濡らしてもよろしいですか」
「う、うん、髪じゃないと駄目?」
「御髪を乾かす物ですから、御髪で試すのがよろしいかと」
「わ、わかった」
ダルシーは霧吹きで私の髪を濡らし、ドライヤーをかけ始めた。
ぶいーーーん。
おお、なんだか、風の当たり具合がちょうど良い。
ダルシーは私の髪をくしけずりながら、ドライヤーの温風を当てていく。
「これは凄いです、すぐ髪が乾きますよ」
「で、でしょう」
「ほえー、ダルシーさん、私もやってみて」
「はい、コリンナさま」
シュッシュと霧吹きでコリンナの髪を濡らして、ダルシーはドライヤーをかけ始めた。
というか、霧吹きをどこから出しおった?
「おー、こんなに早く髪が乾いた、マジ?」
「すごいわね。へーっ」
カロルがコリンナちゃんの髪を触っている。
コリンナちゃんはお下げで結構長いから、乾かすの大変なんだよね。
「カロルもやってみない?」
「わ、私はその……」
カロルの髪は短いんだよね。
少年のような髪だ。
この世界の少女は結婚後、髪を結ってアップする必要があるので、皆長い。
髪の毛が短いのは尼さんとか、結婚をして家庭に入る予定が無い人だけなんだ。
それは、きっとカロルの将来への絶望を表しているんだろなあ。
が。
そんなの知るかいっ!
ダルシーの霧吹きをかっぱらって、シュウシュウとカロルの髪にかける。
「きゃっ、マコトやめてよっ」
「いいからいいからっ」
ダルシーが、カロルの後ろに回ってやさしくドライヤーをかけ始める。
ぶおーーーん。
「わっ、もう乾いた、良いわねこれ、なんだか髪がふわふわっ」
「ダルシーはドライヤーの使い方上手いね」
「あの、これ、私専用にしてください、というか、下さい。マコトさまをこれで毎日乾かしたいですっ!」
バルトロ部長の方を見ると、笑って親指を上に向けた。
「解ったわ、ダルシーに一号器はあげよう」
「ありがとうございますっ! 大事に使いますっ!」
ダルシーはドライヤーを胸に抱きかかえた。
「これは、売れる」
あ、コリンナちゃんが起動した。
「うちで売ったらいかんか?」
「鍛冶部の販路だと、武器防具屋でしょ、作業用の需要もあるけど、これのメインは女性用ねっ!」
「うちの魔導具店の販路を使う?」
「作業用でも結構出るぜ、乾かす作業は結構多いんだ」
「とりあえず生産ね、可愛いデザインとかできないかな?」
「ああ、アイーシャがそういうの得意だな、アイーシャ!!」
「なんですか部長」
ドワーフメイドさんはアイーシャさんて言うのか。
アイーシャさんは、バルトロ部長の話を聞き、ダルシーから一号器を取り上げ、鋭い目で観察した。
「これは、良いですねっ! 小さめの物とか、大型の風力の強い物とか、バリエーションも出せますよ。まずは校内で売りましょう」
「簡単な魔法陣だけど、エルマーに見て貰って改造しようか」
「そうね、エルマーとクレイトン長官に見て貰えば効率の良い回路を組んでくれそう」
「校内の女子に売って、それから、王都市場へ販売ね。あ、だけど模造品はどうしよう」
簡単な構造だから、真似しようとしたら簡単なんだよね。
「魔法省に申請すれば、魔法陣特許が取れるわよ。類似魔法陣に関しては販売停止命令がだせるの」
「使って見ないと真価がわからない道具だからな。情報が漏れる事はあまりねえだろう。まあ、あんまり人前で使いなさんな」
「えーっ、マコトさまの髪を乾かしたいのに」
「隠れてやりましょう、ダルシー」
「はーい」
ふくれっ面のダルシーはほっといて、私とコリンナちゃんは製造費と販売価格の設定などをバルトロ部長と話しあう。
なんつーか、良い文官って、良い商人になれるんだなあ。
すごいや。




