第163話 カロルと一緒に魔導ドライヤーを開発する
アンジェリカさんが居なくなると自動的に諜報メイドどもも居なくなった。
校門には聖女候補がぼんやりと一人立っているだけであるな。
さてと、どこに行こうかな。
乙女ゲームでは、移動マップになる感じだね。
>錬金室
>205号室
>派閥集会室
って感じかな。
まあ、森の奥の廃教会とか、鍛冶部部室とか、行こうと思えば行けるところもあるが、今のところは行きたくない。
錬金室にはカロルがいるだろうし、205号室にはコリンナちゃんが居るだろう。
集会室には、メリッサさんとかいるかもね。
ということで、錬金室一択である。
女子寮にはいり、護衛女騎士の人に挨拶をして、階段を上がる。
五階まで駆け上がって、立ち止まって荒い息を整える。
なんで、まいどまいど、駆け上がってしまうのだろうか。
五階まで歩いて上がるのが面倒くさいからだなあ。
廊下を背中を丸めて歩くと、売店に出ていたアンヌさんに笑われてしまう。
あんた、さっき下に居たでしょうに。
どうやって先回りして上がっているのだー。
……エレベーターか。
伯爵家の関係者はメイドでもエレベーター乗れるんだよね。
くそう、理不尽なっ。
身分で差別するのはやめるべきっ!
「お嬢様に知らせてきますね」
「おねがいします」
よれよれと廊下を歩いて錬金室前へ。
ちょうど私が到達すると同時にドアが開いて、カロルが顔を出した。
「あ、マコトお帰りなさい」
「ただいまーカロル」
「さ、入って入って」
カロルはまた錬金をしていたようだ、釜から怪しげな煙が立ち上っておる。
なんというか、働き者だなあ。
「お芝居の席取れたよ、『氷結湖悲歎』だって、今日の三時から」
「そう、評判のお芝居ね、楽しみだわ、観劇代はいくら?」
「今回は私が誘ったからおごるよう」
「え、だって悪いわよ」
「次の時にカロルがおごってよ」
「そうね、そうしましょうか」
カロルは木札を受け取ってにっこり笑った。
うしし、楽しみだなあ。
午後三時か、今十時だから結構時間があるね。
ソファーに座ってアンヌさんの入れてくれたハーブティーを飲んでいると、ぼわんと煙が上がって錬金薬が完成した。
「今日のポーションは青いのね」
「うん、毒消しよ、マコトには要らない薬ね」
「いらないけど、そんなに沢山出る物?」
「王都近くではほとんど要らないけど、近郊のダンジョンに潜るときは要るわね。毒は怖いのよ」
「毒消し持って無いと、最悪死ぬ事があるのかー」
「そうね、毒が消せないとどんどん体力が無くなって、じわじわ死んでいくわね。お金のない冒険者が毒消しを持ってないせいで良く死ぬそうよ」
意識がはっきりしてるのに、じわじわ死んで行くのは嫌だなあ。
ポーションだけはケチってはいけないんだけど、冒険者って稼ぎが不安定だからね。
お金が無いときもあるんだよな。
ポーション類も結構な値段がするし。
日持ちがしないので、一週間で使い切りだ。
そう考えると錬金術師って良い商売だなあ。
確実に儲かる。
カロルがアンヌさんに瓶詰めを頼んで、ソファーの反対側に座り、ハーブティを飲みはじめた。
錬金室の応接セットにまったりとした空気が流れる。
あー、カロルのほっぺ、丸くて柔らかそうだなあ。
ぷにぷにしたいなあ。
「なによう、じっと見て」
「なんでもなーいなんでもなーい」
今日は良く晴れて、ポカポカ陽気、開いた窓からは緩やかな風が入ってくる。
はあ、今が王都で一番良い季節だよねえ。
なんだかしらないけど、ヨーロッパの気候というよりも、日本の関東みたいな気候だけれども。
まあ、乙女ゲームですからしょうがないのです。
カロルとおしゃべりをしていたら、クレイトン親子が魔改造してくれたリボンの話になった。
リボンをほどいて、カロルに見せる。
「わあ、やっぱり、魔法庁長官は凄いね。なるほど、上手に省略するわね」
羊皮紙を持って来て、カロルは魔法陣を書き写していた。
「あ、反転回路を噛ませているのかー、盲点だったわね。なるほどー」
うん、私は回路を目で追っても、複雑過ぎて何も解らないです。
カロルはスイッチを入れたり、切ったりして、光の動きを確認している。
「光が動くのは派手でいいわね、でも、これだけ細かいと、書くのも大変ね」
「なんだかサーヴィス先生が錬金印刷法を開発したとか言ってて、それを使うとか言ってたなあ」
「錬金印刷機、最新の錬金技術だわ、見たいなあ」
「一緒にサーヴィス先生に教えて貰おうよ」
「そうね、一緒に覚えましょう」
本当にカロルは錬金技術に真面目だなあ。
現代日本に生まれていたら、エンジニアになってたかもなあ。
「そういえば、こういうのを作りたいのよ」
私は羊皮紙にドライヤーの模式図を書いた。
「ふむ、火の魔石で炎を起こして、風の魔法で噴射して攻撃する武器ね」
「火炎放射器じゃないですーっ、火は風の温度を上げるだけっ」
「火炎武器じゃないの?」
「こう、暖かい風がぶわーっと当たって、髪を乾かす道具っ」
「うーん、暖かい風で髪が乾くの? 水の魔石で風の中の湿度を落として乾いた風を当てた方が乾かない?」
あ、そうか、別に現代日本の構造でなくても良いのか。
乾いた風のドライヤーは思いつかなかった。
だが、結露した水は?
どこかにタンクを作って貯めるかな。
「構造としては簡単だから、魔法陣も簡単に書けるわよ」
「助かるよう、羊皮紙で模型を作ろうか」
「そうね」
そう言って、カロルは手元の羊皮紙に魔法陣を書き始めた。
「ええと、火の魔石と風の魔石を使った物から作ろうか」
「うんうん」
「アンヌ、火の魔石と風の魔石を出して」
「はい、お嬢様、サイズは?」
「実験だから、小さい物で良いわ」
カロルはアンヌさんから、小指大の小さな赤い魔石と緑色の魔石を受け取り、魔法陣の上に固定した。
「そうとう弱くした物から実験しないと、普通に作ると火が出るわ」
「そんな武器はいりません」
「筒の下部に火の魔法陣で、空気を熱する、で、筒の魔法陣で風を発生させる。よしっ」
カロルは魔法陣が書かれた羊皮紙を丸めた。
「うまくいくかな?」
カロルがスイッチ回路に魔力を流すと、筒の端からブオッと強い風が吹いた。
「強いわね、抵抗回路を増やしてと」
もう一度、魔力を流すと、前世のドライヤー程度の風が筒の端から出た。
手をかざすと、うん、温風。
「こんなものね」
「すごいや、カロル、すぐできたね」
「基本回路だけだからね、簡単簡単」
なぜ、こんな簡単な物をこの世界の人間は作れなかったのだ。
火炎槍とか作ってる場合じゃないだろう。
空白の羊皮紙の上に、お水を垂らして、魔導ドライヤーで温風を当ててみる。
ぶおおお。
おお、乾いていく乾いていく。
「あら、乾く」
「本当ですね、お嬢様、私も半信半疑でしたが、本当に乾きます」
「ねーっ!」
私は嬉しくなって、二人にどや顔をした。
カロルとアンヌさんは不思議そうな顔で、魔導ドライヤーを見ていた。
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