第159話 養両親に親友二人を紹介するのだ
四人で、夜道をぶらぶらと歩く。
日が暮れて、夜の飲み屋さんが開いて、酔客も歩きはじめている。
雰囲気は悪いが、リンダさんの目つきが悪いので、近寄ってきたよっぱらいも、すぐ逃げ去っていく。
「リンダさんが居ると助かるわね」
「そうでしょうそうでしょう」
リンダさんめがドヤ顔であるよ。
ちっ。
ぶらぶらと、中央通りを歩いて、一筋入るとキンボール男爵家である。
「わ、落ち着いたお宅ね」
「うちよりも大きいな」
「さ、入って入って」
キンボール家の家令さんに挨拶をして、男爵邸に入る。
「ああ、マコトお帰りなさい」
「マコト、お帰り、お友達かい?」
「はい、私のお友達の、カロルとコリンナちゃんです」
「こんばんわ、オルブライト伯爵家のカロリーヌと申します」
「こんばんわ、ケーベロス男爵家のコリンナと申します」
「これはこれは、お噂はかねがね聞いておりますぞ、キンボール家のクラークです」
「私はハンナよ、三人ともいらっしゃい」
えー、リンダさんは歓迎しなくていいよ。
お養父様とお養母様は、三人を迎え入れた。
ダイニングでみんなでお茶をする。
「そういえば、マコトちゃん、ドレスをプレゼントしてくれるんですって、お母さん嬉しくて泣きそうになったわよ」
「いえいえ、いつもお世話になってますから」
「あのマーラー家の娘さんが来たから何かと思ったが、私とブラッドの分まで仕立ててくれると言うじゃないか。ありがたいが、お金は大丈夫なのかい?」
「はい、ドレスのデザインをしてみたら好評で、ヒルダさんに買い取って貰える事になって、礼服代はみな、そこから相殺ですよ」
「上手くすると、利益がでるかもしれませんよ」
「本当かい、ケーベロスさん」
「デザイン使用料の契約を結んでいますので、今後マーラー領産のドレスの売り上げが伸びると、ロイヤリティが入ってきます」
「まあ、マコトちゃん、あなたはなんて凄い子なのっ、おかあさん誇らしいわっ」
「マコトは多才だねえ。素晴らしい」
お養父様、お養母様は感心する事しきりであるね。
私もちょっと誇らしい。
「オルブライトさんのお父さんはまた冒険に行ってるのかい?」
「はい、今度は南方に行ってますね。しょうがない人で諦めてますけど」
「お養父様も、カロルのお父さんの事知ってるんだ」
「デニス・オルブライトといえば、アップルトンに五人といない、魔銀冒険者だしね、噂は聞こえてくるよ」
「それはすごいですねえ」
コリンナちゃんが感嘆の声を上げた。
魔銀冒険者は、冒険者ギルドの順位でも最上級だからね。
カーチス兄ちゃんが狙っている地位だ。
「いつも希少な錬金材料を探して冒険ばかりで、領に帰らないのよ。仕事が滞ってしまって、大変なの」
ああ、父親が帰ってこないから、カロルが領の経営を代行してるのね。
錬金薬の販路を動かしているのもカロルらしい。
「早く成人して、領地でコリンナと一緒に経営に専念したいわ」
「まあ、財務局に落ちたら、オルブライト領に行ってあげるよ」
「選抜試験に落ちてくれるのを願いたいわ」
「やめろー」
二人のやりとりを、お養父様もお養母様も好ましい物を見る目で微笑んで見ている。
「マコトからお二人の事は良く聞いているんだ。これからもマコトを宜しくおねがいするね」
「お二人ともしっかりしたお嬢さんで、私はいっぺんに好きになってしまったわ、どうか、マコトを宜しくね」
「いえいえ、こちらこそ、マコトにはお世話になりっぱなしで」
「本当に、お宅のお嬢さんは破天荒ですが、すごく愛情深くて立派な奴です。こちらも救われる事ばかりなんですよ」
両親と親友二人は頭を下げ合った。
やめろよう、照れるぞ。
も~っ。
養両親が、夕食を食べていきなさいと言うのを、カロルとコリンナちゃんは断った。
「一緒に食べていけばいいのに」
「家族団らんを邪魔しちゃわるいわよ」
「良いご両親だよな。立派な人だねクラーク教授もお母さんも」
両親を褒められると、私も嬉しい。
あんがとねー。
「では、私が護衛して学園に送って行きますね」
「うちの馬車を使いなさいよ」
「学園まですぐじゃない、こんなに近いとは思わなかったわ」
「わたしんちよりも近いよ、歩くさ」
コリンナちゃんの家はどこらへんにあるんだろうか。
そのうち遊びに行こうっと。
親友二人とリンダさんを戸口まで送って行く。
「じゃあ、また明日。お芝居に行くの?」
「あ、ダルシーに聞くの忘れてた」
「お芝居ですか? 予約なら今から走りますよ」
ダルシーの名を呼ぶと、彼女は出てくるのであるな。
「いやあ、悪いし、どこに行くか決まってないんだー」
「駄目な彼氏の例だなあ」
「うっさい」
リンダさんが、あごに手を当てて考え込んだ。
「神殿の女官たちが、『氷結湖悲歎』が泣けて面白いって言ってましたね」
「では予約に行って来ます」
「ダルシー悪いよ、遅いし」
「まだまだ宵の口です。大丈夫です、マコトさま」
そう言って、ダルシーは風のように走り去っていった。
「ダルシーはマコトさまの役に立つのが嬉しいのですよ」
「えー、まだ、お養父様とお養母様にダルシーを紹介してないのに」
「後で、ゆっくりねぎらってから、紹介してやってください」
「わかった、そうするよ」
カロルと、コリンナちゃんと、リンダさんは大通りを歩いて去っていった。
私はちょっと寂しくなって、小さく手をふるのだった。




