第156話 対決! リンダさん対聖女派閥剣術部③
「いやいや、素晴らしい、高等一年生たちが、我が大神殿が誇るリンダ師に一太刀入れるとは、とてつもない快挙ですぞ」
観客席から教皇様が手を叩きながら降りてきた。
あ、教皇さま、見てたの?
「お話は聞きましたぞ、あなた方になら聖剣をお貸ししても良いと思います、ここに貸し出し証を作ってまいりました、要項をお読みの上、サインをお願いします」
そう言って、教皇さまは羊皮紙の書類を突き出した。
超、話が早いなあ。
というか、いいのかな、聖心教教会の秘宝だと思うのだが。
まったく、教皇さまは私に甘くて、困っちゃうなあ。
「「「ありがとうございます教皇さま」」」
剣術部が声を揃えて感謝するのである。
カーチスたちは、並んで演習場に置いてあった机の上でサインを始めた。
教皇様はコイシちゃんに近づいた。
「あなたには聖剣があたりませんでしたね」
「は、はいみょん、わたしの武道は蓬莱刀ですみょんから、しかたがないですみょんよ」
「こちらをお貸ししましょう。大神殿の魔剣の中でも唯一の蓬莱魔刀です。氷塊丸といいます」
「い、いいみょんですかっ!!」
そう言って、コイシちゃんは教皇さまと私を交互に見た。
いいよいいよ、借りておきなさい。
「他ならぬ、聖女派閥の剣士さんですからね。これぐらいはお安いご用ですよ」
「あ、ありがとうございますみょんっ、教皇しゃまっ!!」
「リンダ師に一太刀入れた勇者を讃えなくてはいけませんし。それにですね、コイシ嬢、聖女さまの回りの人間は皆偉くなるのです。きっとカーチス卿も、エルザ嬢も、カトレア嬢も、みな当代を代表する剣士となるでしょう。そして、あなたもね」
教皇様はいたずらっぽくウインクをした。
「私も昔は只の生意気な小僧の神官だったのです、ですが、先代聖女さまのマリア様とお近づきになってから、どんどん出世しまして、今では教皇にまでなれました。聖女さまには運気を上げる何かが宿っているのかもしれませんね。だから学園で集まったあなた方もきっと果てしなく勇名を上げられる事でしょう、頑張ってくださいね」
「はいっ、教皇しゃまっ、がんばりましゅっ!!」
教皇様は青い鞘、青い拵えの刀をコイシちゃんに渡した。
「抜いてもいいですみょん?」
「どうぞ、氷塊丸はあなたの物ですから」
「借りてるだけですみょん」
そう言って、コイシちゃんは鯉口を切って、すらりと刀を抜いた。
青い、吸い込まれるような青い刀だった。
ふわりと、刀身に霜が降りていき、刀は水色に変わった。
「特殊能力は氷結攻撃です。こちらの大陸の魔剣ではアイスブランドにあたる刀ですね」
凄いなあ、切りつけると付加効果として氷結が入る刀だ。
火炎系の敵に効果は抜群だ!
コイシちゃんは流れるように納刀して、教皇さまに深く深くお辞儀をした。
よかったねえ。
「良かったなあ、コイシ、さあ、貸し出し証にサインしろよ」
「はいっ、カーチスしゃま」
コイシちゃんはウキウキしながら机に方に向かった。
よしよし、聖女派閥剣術部はよくやってくれた。
リンダさんも上機嫌でニコニコしておる。
サインを終えて、神官さんに書類を渡した剣術部が私の前にやってきた。
「やったぞ、マコト」
『カーチスたちを褒めてやってくれ、一人欠けても掴めなかった偉大な栄光ぞ』
「偉いっ! みんな頑張ったね」
私が褒めると、みなが一斉に破顔した。
「マコトしゃんと、子狐丸のおかげみょんっ、ビアンカ様の動きは凄かったみょんよー」
そう言って、コイシちゃんが子狐丸を渡してきた。
受け取って、腰に付ける。
子狐っちも、良くやったね。
柄を軽く叩くと、嬉しそうに彼女はリンと鳴いた。
「しかし、木剣を刀がすり抜けたように見えたが」
「治療刀って言って、一瞬だけ物質をすり抜ける能力があるのよ」
「リンダ師の服のお腹が切れていたが?」
「木剣をすり抜けて切断力が戻って服を切って、お腹も浅く切ったんだけど、お腹は切りながら治したの」
「なんでまた? そんな機能が?」
「甲冑を着けた人に切りつけて治す為じゃないかな?」
たぶん。
「ああ、なるほどー、へえ、面白い能力だなあ」
「切られた感触はありましたが、痛みはありませんでしたね」
リンダさんがお腹を撫でながら答えた。
「なんだか知らないけど、痛くないっぽい」
「治療優先の刀ですか、蓬莱の聖刀は不思議ですねえ」
これは子狐丸固有の能力で、太刀の方の光狐丸は別の能力がありそうだね。
総本山で光狐丸を見るのが楽しみだなあ。
「さ、みんな、孤児院に行って、遊ぼう。みんな喜ぶよ」
「孤児のお世話をしてるのね」
「うん、みんな私を見ると喜ぶんだよ、カロル」
カロルは目を細めて微笑んだ。
ぞろぞろと聖女派閥が移動し始める。
「教皇様、ありがとうございました」
「聖剣も魔剣も、この大神殿の物は全て、マコトの好きにして良いのですよ」
「いえいえ、とんでもないっ」
「マコトは奥ゆかしくて好感がもてますね。では、いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
私たちは教皇さまと別れて、大神殿の東側テラスを上がっていった。
そろそろ三時だ、おやつの時間だね。
子供達が待ってるぜ。