第1572話 晩餐会の雰囲気がおかしい
ヴィヴィアンヌ巡礼団は夕方に領城へと入った。
わりとみんな押し黙って領城の階段をあがっていくね。
結構高い階にホールがあって、テーブルがセッティング中であった。
われわれ巡礼団はバンドの隣のブースに入った。
「どうか、今日は御詠歌で神聖な雰囲気を醸し出していただきたい」
家令さんらしい年配の方が頭をさげてきた。
楽団の席に簡単なパンと飲み物が配られた。
晩餐の前に腹ごしらえをしろという事らしい。
隣では楽団の人がパンを食べていた。
「今晩は領城に泊まれるのかい?」
「御詠歌の褒美だそうな」
なるほどなあ。
というか、なんで楽団ブースは檻みたいになってんだろ。
四方を柵で囲まれていて圧迫感があるね。
席に着いてパンの包みを解いて食べる。
ぱくり。
まあまあの味のハムサンドだな。
飲み物は瓶詰めのソーダだ。
ミラナは暗い顔で沈んでいる。
パンの包み紙を剥いてあげたが、食欲も無い感じで包み直して鞄にしまった。
「ほっといておあげよ、マリーちゃん」
「友達との別れは辛いもんさな」
まったく、元大悪魔のくせに不甲斐ない。
宴会ホールを見渡した。
バルコニーがあるな、最悪の時はヒューイにのってここから逃げられそうだ。
《逃げるか》
(まだまだよ)
もうカロルは領城に入ってるのかな。
控え室かどこかかもしれない。
(『サーチ』)
カアアアアアン!
お、近くの部屋に懐かしのカロルの魔力反応発見。
えへへ、結構近いなあ。
……。
あれ、なんだこの兵隊達は。
ここの階ではあるが、ちょっと離れた個室に完全武装の兵隊の一群がいるな。
ん?
(ヒューイ、厩舎を出れる?)
《まかせておけー》
念の為ヒューイには鞍を付けて厩舎に入れていた。
馬の柵だからヒューイは鼻面でゲートを押し上げ外に出た。
(見られないように、中階の庭園に隠れていて)
《わかった》
ヒューイはあたりを見回すと、人が居ないのを確認した後見えない翼で空を飛び、中階の庭園の茂みに姿を隠した。
あそこまでくれば、高層階のここまで一息だね。
《まだ行かないのか》
(まだよ、大人しくしていて)
《わかった》
ヒューイは茂みに隠れて、なんかの草をもしゃもしゃ食べ始めた。
なんで草を食べてるんだ。
《草を食べるとお腹が良い》
そうか、猫草みたいなもんか。
マルトさんが巡礼団の前に立った。
「まずは五百五番、そして六百二番、三百六十二番、百番、百二十一番、と続けていくわよ。どこかにメモしておいてね」
結構、テンポの早い曲をよりだした感じだね。
「アントニアさんと歌いたい……」
「無理を言うな、歌声で送りだしてやろうよ」
「いやだなあ」
ミラナはしくしくと泣いた。
パンを食べおわり、楽隊と音あわせに一曲やって、大体の準備は整った。
「おっちゃん、もしかして食事中は檻がしまる?」
「ああ、そうだよ、前にロアのダンサーが晩餐の席に暴れこんだ事があってな、それから、こうやって檻の中でやる事になったんだよ」
「マジかー」
「なに、晩餐が終わったら鍵を開けて出してくれるからさ、我慢だよ」
リュートのおっさんがそう言って笑った。
鍵閉められると不便だな。
マメちゃんはヒューイの影の中でくつろいでいるな。
しばらく待っていると、ファンファーレが鳴らされて、カロルご一行がホールに入ってきた。
わあ、ひさしぶりだなあ。
彼女はこちらをちらりと見て眉を曇らせた。
まあ、檻入りの尼さんの団体だからなあ、変な感じなのであろう。
反対側のドアが開き、ホスト側のハンネス伯爵と奥様、どら息子と、アントンと、家令の人などが入ってきて、カロルと挨拶を交わし、対面のテーブルに付いた。
カロルはアントンを見て、疑惑の表情を浮かべた。
まあ、見た事がある感じの女の人だが、思い出せない、って感じだね。
カロルとアントンは、そんなに会った事はなさそうだしなあ。
カチャリと私たちがいる檻に鍵が掛かった。
マルトさんが指揮棒を振り上げて、御詠歌の五百五番を歌い始める。
カロルが腑に落ちたという感じにうなずいて微笑んだ。
御詠歌の中で晩餐会は始まった。
おしゃべりをしながら、前菜をつまみ、食前酒を飲んでいた。
ここからでは何を喋っているかは判らないが、感じからすると社交辞令の交換っぽいな。
魚料理が終わった時、アントンがカロルに声を掛けて二人でホールから立ち去った。
なんぞ?
と、思ったら大ホールに兵隊さん立ちがなだれ込んできた。
私たちが居る檻を囲んでいる。
「な、何事ですっ?」
ヴィヴィアンヌさまがハンネス伯爵に問うと、髭の彼はにんまりと笑って、ワインを口に運んだ。
「すみませんね、あなたがたはここで死んでもらいます。オルブライト嬢暗殺の下手人としてね」
なんだってー?!
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