第1561話 おいしい昼食と美味しいお菓子
レギナ修道院は敷地の外でも判るぐらい糖蜜の甘い匂いがした。
「うわ、この匂いは……」
「空きっ腹に厳しい……」
「ああ、美味しいお昼ご飯……」
ヴィヴィアンヌ修道巡礼団は飢えたゾンビのように敷地に入った。
気持ちは解るが、みんな落ち着け。
ダルシーと一緒に厩舎にヒューイとクリスティーナを繋いで水と飼い葉をやり、ヒューイには肉を食わせた。
マメちゃんもダルシー特製の煮こごりをたべているね。
「それじゃ、大人しくしてるのよ」
《わかった》
マメちゃんとダルシーを引き連れて食堂にいくと、みなさんもう席に着いて私たちを待っていた。
「ごめんなさい」
「お待たせしました」
私とダルシーはテーブルに付いた。
ああ、なんだかカラフルで綺麗な食堂だね。
お客は私たちだけじゃなくて、街から来たらしい市民さんが食事をしていた。
給仕の尼さんがランチプレートを運んで来た。
うっは、良い匂いだなあ。
「日々の粮を女神に感謝します」
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
ヴィヴィアンヌさまの食事のお言葉を復唱して、昼食は始まった。
パクリ。
うまうま。
ブラウンシチューのお椀とチキンソテー、そして黒パン、のわりと質素な感じのランチプレートだけど、美味しいから有りなのだ。
隣の市民たちはもっと豪華なステーキランチだが、別にチキンでも美味しい、表面はカリカリに、中は肉汁が出るほどジューシーだ。
「ああ、美味しいなあ」
「全然違いますわね」
「巡礼の旅での食事で一二を争う美味しさだねえ」
なんだかんだ言って、料理の水準が高いな。
イルダさんクラスの美味さだな。
黒パンもよく焼けている。
うまうま。
美味しい物はあっという間に完食してしまうね。
巡礼団の尼さん達もみなニコニコとしている。
「美味しかったねえ」
「本当ですわね、素晴らしい修道院ですわ」
今度、カーチス兄ちゃん一家の送迎をするときに、ディナーやランチに使っても良いね。
はあ、満足満足としていたら、デザートが出た。
レギナ修道院特産の切り株ケーキである。
おお、前世のバームクーヘンそっくりだな。
ちょっと、焼き加減が違う感じはするが。
バアムに比べると外側がカリッと焼かれているね。
それを二人で一個ずつ出た。
うん、ダルシーと半分こするぜ。
ダルシーは大きい方を渡して来て嬉しいぜ。
「ありがとう、お姉ちゃんっ」
「良いんだよ、マリー」
「くそう、マリー良いなあ、アントニアさん、一緒に食べよう」
「私が斬りますから、ミラナさんが選んでくださいな」
「おお、そうすれば公平だな」
ミラナも仲良くアントンと半分こしていた。
お茶を飲みながら、切り株ケーキを頂く。
ああ、甘くて美味しいなあ。
ここの修道院は良いなあ。
はあ、満足満足。
お茶を飲みながら、中庭を見てまったりする。
「ああ、良いランチだった」
「美味しゅうございましたわ。とても料理の質が高い修道院なのですわね」
「食事が良い修道院という評判が立つと、いろいろと教会上層部が宴席に使ってくれたり、お使い物にしたりで、儲かるのよ」
「意外に世俗的なのですわね」
「ああ、市井の人間は教会の者を清貧に住んでいる聖者かなんかと思うようだけどさ、坊さんも尼さんも、みんな普通の人間で、生きているからね。間違いを起こしたり、贅沢をしたりと、あんまり変わらないのさよ」
「そうなのね……」
「だから、あんたの夜会主催の経験も、まるっと無駄になるわけじゃあなくてさ、料理とか宴席とか、役に立つ事はあると思うよ」
「でも……」
「罪は罪だが、好きな事、興味のある事、やれる事はまた別なんだよ。あんたはこれからも長く教会で生きて行くんだからね」
「教会で……」
アントンは考え込んだ。
しかし、おばちゃん尼さんの説得力はすげえなあ。
年の功というか、私にはあんな人の心によりそった説得力は出ないからなあ。
やっぱり、この巡礼団は面白いね。
参加して良かった。
カロルへのサプライズで参加したんだけど、色々と考えさせられるな。
私は聖女とか言われてるけど、ただの小娘なんだなあ、と敗北感があるよ。
そんなに悪い気持ちはしないんだけどね。
なんだか充実して、みなさん食堂を後にした。
厩舎に行ってヒューイとクリスティーナを連れ出す。
修道院前で合流して、巡礼を続ける。
でもまあ、もう、坂を下りたら鉱山都市だからすぐだろう。
「街が見えてるから、鉱山都市の教会まですぐそこだろう、楽勝楽勝」
「いや、結構歩くよ、都市に入ってから長いんだ」
「マジかよ!」
「ミルカタ中央教会は中央に無くてね、北の街外れにあるんだよ」
おー、街の端にあるのが教会か、結構あるな。
「すぐ着いて、宿坊でゴロゴロしたり風呂に入ったりできると思ったのに」
「入浴は食事後だねえ、それでも街中の道だあ、大した事はないさ、歩け歩け」
おばちゃんはカカカと笑った。
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