第153話 剣術部に聖剣を配るのだ
ダルシーに剣術組を呼びに行ってもらった。
観客席から、ぞろぞろっと、降りてくる。
「用はなんだい、マコト」
「カーチスは聖剣持ちたい?」
「え、良いのかい、持ちたい持ちたいっ」
「あ、今だけじゃなくて、ずっと」
「は……?」
カーチス兄ちゃんが固まった。
「いや、マコト、聖剣は光魔法が使える者しか持てないのではないか?」
カトレアさんがいぶかしげな声で聞いてくる。
「光属性のすごい攻撃が出来ないだけで、普通より良い魔剣ぐらいには使えると思うよ」
「しかし、そんな歴史的文化財を腰に差すなぞ、恐れ多いのでは?」
「いやさあ、聖剣さんたち意思持ってんのよね。ずっと宝物庫に入れっぱなしは可哀想かなあって思ってさ」
「マコトしゃんが持てば解決みょん」
「あんなでっかい剣を三本も持って歩けないよ」
一本でも嫌だよ。
「わ、わかった、聖剣を所持するのは、子供の頃からの夢だった。光の力は使えなくても持つだけでも光栄だな」
カーチス兄ちゃんが重々しくうなずいた。
「じゃあ、カーチスはホウズね。カトレアさんがエッケザックスで、エルザさんがリジンで良いかな」
「私の分が無いみょん」
「将来、子狐丸の大刀が手に入るそうだから、そしたらコイシちゃんにまかせるよ」
「嘘嘘、嘘みょんっ! そそそそ、そんな大層な刀は持てないみょんっ!!」
コイシちゃんは手をぶんぶん前で振りながら後退した。
私はリンダさんからホウズを受け取り、カーチス兄ちゃんに渡した。
「これが、ホウズ……」
『やあ、君が新しい仮の主か、我はホウズ、史上最強の聖剣だ、よろしくな』
「お、おう、俺はカーチスだ、よ、よろしく」
『カーチスというのか、若いのになかなかの腕前だな、我が剣をコーチして、君をもっともっと強くしてあげよう、なに、気にするな、主を鍛えるのは我の趣味のようなものだからな、はっはっはっは』
カーチス兄ちゃんが渋い顔になった。
なあ、ホウズはヤナ奴だろー。
カトレアさんにはエッケザックスを渡す。
ちょっと上背に対して、エッケザックスが大きめかな?
まあ、私よりはましであるけれども。
「ふむ、これが聖剣エッケザックス……。突きを放って光線で破壊するのか」
「ビームは出るかなあ?」
カトレアさんが、エッケザックスを構え、残り少ない木偶に向けて突きを放った。
ガシュンッ!
おっ、刃が左右に分かれて作動した。
刃の根元が光り、細い光線が発射されて木偶に穴をあけた。
「おお、これは凄い」
「マコトの時ほどじゃないけど、ビームで攻撃は出来るな。これは避けにくいぞ」
「そうですね、カーチスさま。これはいい、まっすぐで、不器用で、私に似ている気がします」
カトレアさんはエッケザックスを納剣して、愛おしげに柄を撫でた。
答えるようにエッケザックスは、ブーンと音を立てた。
「俺も、ホウズを起動できるかな?」
『ふむ、限定的にだが、光の刃は展開できるだろう』
「起動してみよう」
『では、天高く我の名を呼べっ! ホウズ光臨と!!』
「ホウズ光臨!!」
ぶわっとホウズの刃の回りに光の刃がすこし出た。
長さが二倍とかにはならないようだ。
「こりゃすげえっ」
カーチス兄ちゃんがホウズを振り回すと、スパンスパンと木偶の首が飛んだ。
文字通り光で焼き切っているので、切れ味は凄いな。
『カーチス、起動を止めよ』
「どうした、ホウズ」
『我の魔力が尽きてしまう。そんなに長くは展開は出来ぬようだ。聖女マコト、魔力を入れてくだされ』
「えー?」
まったく、めんどくさい剣だな。
燃費も悪いし。
私は、ホウズとエッケザックスに魔力を注入した。
エッケザックスも、ビーム攻撃は三発が限界という所かな。
最後にリジンをリンダさんから受け取り、エルザさんに渡した。
おお、エルザさんは背が高いからリジンの長さがちょうど良さそうだね。
「すごく美しい剣ですわね。吸い込まれてしまいそうな刃紋ですわ」
褒められたのが解ったのか、リジンはファーンと鳴いた。
「どうすれば、いいのですか、リジン?」
ファーンとリジンが鳴くと、エルザさんが動画の早送りみたいな感じで動き出した。
あ、私もこんな感じだったのか。
「マコトさまの時の四分の一ぐらいの速度ですね」
「え、そんな速度で動いてたのっ?」
「目で追えないぐらいでしたから」
リンダさんの目で追えない速度ってすごいな。
早送りエルザさんはシュパンと木偶を袈裟斬りにした。
やっぱりエルザさんは体幹がブレなくて凄いな。
「ほう、エルザ嬢は剣才がありますね、意外だ」
「天才っぽいよ。カーチスよりも強いかも」
「面白い三人ですね。腕がなります」
ああもう、リンダさんは戦闘狂だなあ。
「さあ、では、あなたたちが聖剣を所持するに足る人間か、私が測りましょう」
「じゃあ、木剣を持ってこよう。あなたと戦うのが夢だったのだ、リンダ・クレイブル殿」
「木剣? そうですね、私は木剣を使いましょう」
リンダさんは不敵に笑って、教練場の木剣を取り上げた。
「あなた方は聖剣をお使い下さい。私に一撃でも入れられたら合格です」
「なん、だと?」
「カーチス殿に本物の剣士がどういう生き物か、見せてあげますよ」
「後悔するなよ、リンダ・クレイブル。マコト、彼女が怪我をしたら頼むぜ」
「ああ、解ったよ」
まあ、その必要は無いけどね。
カーチス兄ちゃん、あんたは本当のリンダさんをまだ知らない。




