第152話 聖剣の性能試験をしてみるのだ
大神殿の東側に聖堂騎士団の訓練施設があるのだよ。
で、私はホウズを持って、立っている。
みんなは危ないので観客席であるな。
「で、あんたはなにができるの、ホウズ?」
『丹田に力を入れよ、そして高らかに呼べ、我の名を『ホウズ光臨』とっ!!』
私はホウズを正眼に構える。
『ホウズ光臨!!!』
その瞬間、ホウズの刀身から光の刃がビュンと出て、二メートル近くの光の大剣と化した。
うお、なげえ。
『その光の剣は、何者にも阻めぬ、聖者の断罪の剣だっ! 邪龍を斬り、魔王を斬り、大魔王を斬った、聖剣の中の聖剣、それが、我、ホウズぞっ!!!』
ふおおおおっ。
私はそのまま光の刃を標的の木偶にたたきつける。
ジュンッ!
手応えもなく、木偶の上半分が蒸発した。
「すっげええええっ!」
『そうだろうそうだろう、聖女マコトも我を腰に差したくなったであろうっ!』
「いや別に、普段はこんな攻撃力いらねえし。ダンジョンでは長くて使いにくそう」
『えっ、ええええっ!! なんで、なんで、どうしてそんな事をいうのーっ!! 我は聖剣ぞ、よい子がみな憧れる聖なる武器ぞっ、ど、どうしてーっ?』
うるせーな、こんなでかい剣を腰に差せるか。
持って歩くとしたら背中にしょわないといけねえだろ。
それになにげに重いし。
ぎゃあぎゃあとうるさいホウズを鞘に戻して黙らせた。
あと、ぺちゃくちゃと、うるさいのもマイナス点だよなあ。
転生聖女は静かに暮らしたいのだ。
ホウズをリンダさんに渡した。
代わりにエッケザックスを受け取る。
この剣も変わってるよなあ。
柄が長い。
鞘から引き抜くと、ブーンと低い音で震える。
ああ、二本の刀身が共鳴して音を出してるっぽいな。
メインの技が両手の突きだから、構えも独特である。
なんとなく、柄を握った手からくる雰囲気で動きを教えてくれる感じ。
相手に対し、半身で立つ感じか。
――エッケザックス、かけ声とかはいらないの?
ブーン。
要らないようだ。
ゆっくりとすり足で木偶にむけて近づく。
ふむふむ、敵の前方五十センチぐらいの所に障壁があるという設定で必殺技を打つのか。
間合いを超えると、全身を使い、伸び上がるように突きを打つ。
体が伸びきった位置で、架空の障壁に達したようで、左右に刀身がジャキンッと音を立てて広がった。
柄から光魔法が吸われる感触と共に、刃の付け根のあたりが真っ白に発光した。
――う、やばいかんじ
間一髪でビームが発射される前にエッケザックスを傾けてビームが木偶の足下を焼くようにした。
バッシュンッ!!
真っ白なビームが木偶の土台を焼き尽くして赤熱する大穴がぽっかりと空いた。
ひいい、危ない。
教会施設を破壊してしまう所だった。
ナイス私、よく軌跡を変えた。
「あ、あぶなかったですね」
「こわいね、これ。これかなマリアさまが第一王子の婚姻道具を焼き払ったビームって」
「あ、いえ、マリアさまはご自身でビームを出したと言われてますよ」
自分の魔法でビーム魔法あんのかよっ。
どんだけマリアさまは戦闘力が強いんだよっ。
魔国に行って、魔王様を普通にぶっ殺したわけだよ。
エッケザックスは、ばっしゅうと排熱して、刃を閉じた。
この聖剣も使いどころが難しいなあ。
ドラゴンとかが相手じゃないと、ビームが貫通して後ろが危ない。
ダンジョンなんかでも使いにくそう。
残った木偶の前に行き、普通に振ってみる。
サクリ。
おお、切れ味もなかなか良いね。
でも、持ち歩くには、やっぱりサイズがでかいなあ。
私がそう思うと、エッケザックスはしゅんとしたように宝珠の色を青く変えた。
あ、ごめんね、君は強すぎるからさ。
やっぱ、聖剣と言っても、宝物庫でずっと置いておかれるのは嫌だろうなあ。
私だったら、十年でストレスがたまり、邪剣に変化する自信がある。
エッケザックスを納剣してリンダさんに返す。
次はリジンだ。
三本の中では一番小さくて細身だね。
シュリンと抜くと、彼はファーンと良い音で鳴いた。
リジンを構える。
フェンシング型の構えだね、突きと切り下ろしがメインかな。
これも何か特殊能力があるのかな。
柄に導かれるまま光魔力を注ぎ込む。
ファンッと音がして、あたりが静かになった。
なんだこれ。
空を飛んでいる鳥がゆっくり動いている。
時間が引き延ばされている?
というか、超高速で私が動いているのか?
超高度なヘイスト(高速行動)の魔法か?
木偶の方へ接近してみる。
さすがに大気の摩擦が気になったり、空気が粘度を帯びるほどの速度ではなさそうだ。
わりと普通に動ける。
木偶に切りつけてみる。
シュパシュパ。
おお、すごい切れ味だな。
というか、なんというチート武器だ、これっ!
リジンを持ったまま、観客席の方へ行き、手をふる。
おお、ゆっくりとカロルの目が私を追うのがオモロイ。
人の何倍かの速度で動いているな。
リジンの柄にながしていた魔力を止めると、あたりに音が戻ってきた。
「おおっ、マコトさま、いつのまにそこにっ」
「リジンの能力みたい。高速で行動できるぜよ」
「ああ、勇者ラーシュは、瞬雷のラーシュと呼ばれてましたが、剣の能力でしたか」
ああ、面白かった。
私は、リジンを鞘に戻した。
「どうですか、リジンなりと持っていかれては、邪魔にはなりますまい」
「いやあ、リジンでも体のサイズがさあ」
聖剣は基本的にガタイの良い男性向きなので、未成年女子の私には大きすぎるんだよなあ。
「聖剣は貸し出してもらえるの?」
「聖女さまがお使いになるなら、教皇様とて文句はいいますまい。宝物庫のこやしになっているだけですし」
「聖女派閥の誰かに持たせるのは?」
「……それは、……凄い事を考えますね、マコトさま」
「聖剣さんたちも宝物庫にいてもつまらないだろうしさ」
「武器なのですから、慈悲を掛ける事はありませんよ」
「いやあ、でも、喋るの聞いたりするとさ」
リンダさんは首を振った。
「まったく、あなたさまはどこまでお優しいのか。解りました、聖剣を持たせたい者を選んで下さい。私が試験をして納得できましたら、教皇様に掛け合いましょう」
そう言って、リンダさんはサメのような顔で笑った。
うわあ、やべえっ。
まあでも、私じゃないからいいや。




