第1519話 ランチを食べて大神殿を出発
アントニアはダルシーの隣に座った。
「わ、わたし、マルトよ、よ、よろしくマリーさん、ドリアさん、あと……」
「ああ? 話しかけるなよ、田舎もん」
「私はマリー、田舎の農園から出て来たの、よろしくね、マルトさん、あと派手な人」
「ああ、なんだとっ」
立ち上がりかけたアントニアの肩をダルシーが掴んで座らせた。
「私はドリアだ、見ての通り腕っ節が強い、妹を虐めるつもりなら相手になるぞ」
「ちっ、ふざけやがってっ、百姓女めっ」
まあ、ダルシーに任せておけば荒事は問題ないね。
アントニアぐらいなら私でも懲らしめられるけど、農家の娘という設定が甘くなってしまうし。
中年の尼さんが私たちの前に、ランチプレートを配膳していった。
うむ、大神殿ランチ、低所得者用だね。
大神殿には世界各地から色々な階層の巡礼客がやってくるので、食堂のランチも、高所得者用、中所得者用、低所得者用と三つに分かれているんだよ。
「日々の粮を女神に感謝します」
ヴィヴィアンヌさまが合掌して目を閉じて、食事のご挨拶をした。
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
私たちも復唱する。
「まあ、美味しいわ、さすがは大神殿ね」
マルトさんが喜びの声を上げた。
もぐもぐ。
ふむ、良い味わいだね。
孤児院の食事も大神殿厨房が作っているから、よく馴染んだ味であるよ。
アントニアはランチを一口食べて、固まり、肩を振るわせて泣き始めた。
「なによ、この豚の餌みたいな食事は、どうして高貴な生まれである私がこんな物を食べないといけないのっ」
ヴィヴィアンヌさまはアントニアの方をちろりと見たが何も言わなかった。
「た、食べないと体に悪いですよ、あの」
「こんな豚の餌を喜んで食べられるのはお前達平民だけだわっ!!」
まったく、うるせえなあ。
別に不味く無いだろうが。
巡礼団の十人の尼さんの目がどんどん尖っていくなあ。
こんなんじゃ、スラムの教会でも、下町の教会でも馴染めなかったろうなあ。
「アントニア嬢の事はほっておきなさい、マルト。お腹が減れば食べるでしょう」
「でも、でも、倒れてしまったら可哀想です、バルバラさま」
マルトさんは優しい人だなあ。
私たちより、二三歳上かな。
神学校出たばかりかな。
結局、食事が終わるまで、アントニアは泣き止まず、食事も取らなかった。
「それでは、三十分ほど食休みをしてから、出発をします」
「「「「はいっ」」」」
尼さん達はお茶を飲みながら食休みをしているね。
アントニアのランチプレートは片付けられた。
私は彼女のランチプレートのパンを取り、アントニアの懐に突っ込んだ。
泣きはらした目でアントニアは私を見た。
「お腹がすいたらたべなさいよ」
「……」
私の所へバルバラさまがやってきた。
「あなたたちの馬に荷物を載せてほしいのだけど」
「ええ、かまいませんよ」
《かまわんかまわん》
外にいるヒューイが念話で声を出したので、微笑みそうになったが表情を繕った。
食事中、私の脇にすわっていたマメちゃんが私に付いてきた。
尼さん巡礼団には荷馬が一匹いて、そのとなりに白馬モードのヒューイが立っていた。
「しかし、立派な馬ね、軍馬にも出来るんじゃ無い」
「い、意外に見た目だけで大人しい馬なんですよ」
《ちがう、俺は勇敢だ》
だまれい。
「でも良かったわ、クリスチーナだけだったら荷物が積めなかった所よ」
クリスチーナと呼ばれた老牝馬はヒューイにそっとよりそった。
《まかせろ、ばあちゃん》
なにげにヒューイは優しいな。
私がバルバラさまの指示で荷物をヒューイに載せていると、ダルシーがやってきて手伝ってくれた。
彼女は重拳使わなくても、力が強いからね。
そこにあった荷物の三分の二をヒューイが、三分の一をクリスティーナが背負った。
「助かるわ、荷馬車を出すほどの荷物ではないけど、個々で背負っていくと、体力が消耗するからね」
「何を持って行くのですか」
「野営の為のテントとか、食料とかね」
おや、オルブライト領までは街道を行くのに野宿もあるのか。
「一応全行程で宿屋は使うけれど、何があるか解らないからね、準備はしておくのよ、準備無しで全滅する巡礼団も珍しい事じゃ無いのよ」
「それは大変ですね」
まあ、あんまりやばかったら、私が聖女パワーで何とかするけどね。
聖女様の前で不慮の死を遂げる人が居てはいけないのだ。
「さあ、そろそろ出発よ」
「アントニアさんが倒れたらどうしますか?」
「……ほっとく?」
「マジすか?」
「最悪どこかで休ませないと駄目かもしれないわね。まあ、一応尼さんの集団だから、【癒やしの水】も【アースヒール】も回復魔法持ちにこと欠かないから、大丈夫でしょう」
私の回復魔法が使えればいいのだけど、強すぎるからなあ。
マルトさんは、属性が水かな、なんとなく優しげで、回復魔法が得意そうだ。
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